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新しい学習指導要領の目標等で「見方・考え方」が示されています。それは,どのような取り扱いなのでしょうか。
平成29年改定学習指導要領では,見方・考え方は,各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせ,活動を通して,資質・能力を育成することと示しています。
・ 構造化された今回の改訂で,見方・考え方が改めて明示され,資質・能力が教科間・校種間で一貫して捉えやすくなり,各教科等の役割が鮮明になりました。
・ 深い学びの中核が見方・考え方であり,見方・考え方を働かせた学びを実現する授業が実践できれば,おのずと主体的・対話的で深い学びになります。
・ 専門家は,音楽を聴きとるなどそれぞれに必要な視点をもって考えています。
・ 深い思考のためには見方が必要であり,見方は考え方があってはじめて問題解決につながるなど意味あるものとなります。
・ 授業でねらう資質・能力を明らかにした実践が求められています。







1 画期的な「見方」の明示

今回の学習指導要領の改訂で,筆者が画期的だと考える点が二つあります。

(1)学習指導要領は学びの地図

一つは,学習指導要領の構造化,学びの地図化です。この改善で,目標や内容が,本当に容易に見渡せるようになりました。
このことで,教科等は独立しているのではなく,各教科等で培う資質・能力が有機的につながっていることがよく分かります。
教科等間ばかりでなく,学年間や校種間の見通しも良くなりました。
例えば,目標や内容を資質・能力の三つの柱に基づいて再整理するなど,一貫した各教科等の資質・能力の育成が強調されていることが,容易に読み取れます。

(2)「見方・考え方」,特に「見方」の明示

もう一つは,「見方・考え方」の「見方」を明示したことです。
本来なら,画期的な改訂のポイントとしては,「主体的・対話的で深い学び」,すなわち「アクティブ・ラーニング」の視点からの学びの実現を挙げるべきところです。
しかし,このような学習はこれまでも各学校で研究実践されてきました。
したがって,新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」の実現の趣旨は,視点を踏まえ,より一層授業の工夫改善を図ることを求めたと理解しています。
筆者が「見方」を画期的と考えたのは,何より「深い学び」の中核になるのが「見方・考え方」だからです。
「見方・考え方」を働かせた学びの授業が実現できれば,おのずと主体的・対話的で深い学びとなると考えるからです。

(3)本稿では「見方」に視点

学びの地図づくりについては,別稿で述べています。
本稿では,「見方・考え方」について,特に「見方」に視点を当てて考えます。
「見方・考え方」は,これまでも用いられている用語ですが,その内容については必ずしも具体的に説明されてきませんでした。
現行学習指導要領では,中学校数学科は,「数学的な見方・考え方」とされています。
しかし,小学校算数科では,「数学的な考え方」もしくは「数学的な思考力・表現力」等と表記され,「見方」はその中に含まれています。
それが今回の改訂で,全教科等,全校種に「見方・考え方」が改めて明示されました。
特に今回,「見方」が明示されたことで,見る目を育てる一貫した各教科等の役割が鮮明になりました。

2 専門家の見る目,聴く耳

(1)仰木監督の見る目

野球選手二十数年前のことです。
筆者は,オリックスバファローズの仰木彬監督の講演を拝聴しました。
野茂選手やイチロー選手を世界に送り出した仰木監督です。
一通りの講演の後,質疑応答の時間を設けていただきました。
そこで,フロアから筆者は次のような質問しました。
「仰木監督は,選手のどこを見ていますか。」
「そうですね。『肩』と『足』です。」
確かにイチロー選手の肩と足は飛びぬけています。
野球経験のない筆者には,打率やホームラン数に目が行きます。
なんとなく全体としてプレーするイチローの姿を思い浮かべる程度です。
しかし,プロ野球の監督は,選手の肩と足を見ていました。
言外に,かなり緻密に肩と足を見ている印象でした。
監督の見方は,長年のプロ野球人生中で培ってきた「見る目」といえるでしょう。
野球学から見た専門的な見方,といえるかもしれません。

(2)バイオリンニストの聴く耳

バイオリン芸能人格付けチェックという番組があります。
ストラディヴァリウスのバイオリンでの演奏はどちらか。
普通のバイオリンでの演奏と比べます。
プロの演奏家による演奏なのですが,素人の私にはその違いがよく分かりません。
弘法筆を選ばず。音色の違いより,ともに変わらない演奏の質の高さに感心しきりです。
しかし,バイオリンニストなどの専門家が聴くと,ストラディヴァリウスの音色は明らかに判断できるようです。

これもやはり専門家の見る目なのでしょうか。
いえ耳でしょうか。
ここで疑問です。
学習指導要領では,音楽科の「聴き方」の扱いはどうしているのでしょう。
そこで,審議のまとめを読むと,

音楽的な見方・考え方
音楽に対する感性を働かせ,音や音楽を,音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え,自己の イメージや感情,生活や社会,伝統や文化などと関連付けること

文部科学省 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」別紙1平成28年8月26日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/09/1377021_2_1.pdf(参照2017/05/12)

と示してあります。
音を聞くのは,耳です。
しかし,音を音楽と捉え聴き取り,判断したり考えたりするのは,あくまで「視点」「見方」です。
バイオリンニストなどの音楽の専門家は,その音楽を聴く視点をもっているのです。

3 「見方」は学びで培い,「考え方」と両輪

(1)「見方」は学びで培われる

このように考えてくると,「見方」というのは,学ぶことによって培われることが分かります。
そして,その見方は専門的な要素を含んでいます。
教科等で言えば,それぞれの教科等の特質に応じた見方というものがあるはずです。
いくつもの見方を身に付けた子供が,深い思考や学びをもったり,豊かな体験をしたりするであろうことは想像に難くないところです。

(2)「見方」と「考え方」は車の両輪

これまで,「見方」について話を進めてきましたが,「見方」と「考え方」は車の両輪のようなものです。
直観と論理もまた車の両輪に例えられます。
その直観は,専門的な見方で事象を見ているときに,ひらめくものと筆者は考えます。
深い思考のためには見方が必要であり,見方は考え方があって初めて問題解決に向かい,意味あるものとなります。

4 各教科等の特質に応じた「見方・考え方」の育成

見方・考え方には各教科等の特質があります。新学習指導要領では,それぞれの見方・考え方を働かせ,活動を通して,資質・能力を育成していきます。

(1)見方・考え方を働かせる

例えば,小・中学校国語科では,言葉による見方・考え方を働かせることを,
児童生徒が学習の中で,対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えたり問い直したりして,言葉への自覚を高めることとしています。
小学校社会科では,社会的事象の見方・考え方を,
位置や空間的な広がり,時期や時間の経過,事象や人々の相互関係などに着目して,社会的事象を捉え,比較・分類したり総合したり,地域の人々や国民の生活と関連付けたりすることとし,
社会的事象の見方・考え方を働かせることを,
これらの視点や方法を用いて,社会的事象について調べ,考えたり,選択・判断したりする学び方としています。

(2)教科等の特質に応じた見方

「見方・考え方」のうち,「見方」に目を向けます。
例えば,先の国語科では,
対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えること
小学校社会科では,
位置や空間的な広がり,時期や時間の経過,事象や人々の相互関係などに着目して社会的事象を捉えることと考えられます。
加えて,小学校算数科・中学校数学科の「数学的な見方」では,
事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えることとしています。

このように,新学習指導要領では,各教科等の特質に応じた見方とは何か,今行う授業では具体的にはどのような見方を育てようとしているのかなど,授業のねらいを明らかにした実践が求められます。
そのことは「主体的・対話的で深い学び」の実現につながります。
「深い学び」の鍵は,各教科等の特質に応じた「見方・考え方」です。
「見方・考え方」は,
・ 新しい知識・技能を既有の知識・技能と結びつけて深く理解し,
・ 社会で生きて働くものとして習得したり,
・ 思考力・判断力・表現力を豊かなものとしたり,
・ 社会や世界との関わり方の視座を形成したり
するために重要なものです。
見方・考え方」を働かせた学びを通じて,資質・能力が育まれます。
それによって「見方・考え方」が更に豊かなものになる,という相互の関係にあります。

(3)見方の具体(算数的な見方)

次は,「見方」の具体的な例について考えます。
小学校学習指導要領では,算数科第4学年「数と計算」領域での「思考力,判断力,表現力等」を,次のように示しています。
「〜に着目し」に当たる部分は「数学的な見方」,「〜考える」「〜捉える」「〜見いだす」などに当たる部分は「数学的な考え方」と言えます。

・ 数のまとまりに着目し,大きな数の大きさの比べ方や表し方を統合的に捉えるとともに,それらを日常生活に生かすこと
・ 日常の事象における場面に着目し,目的に合った数の処理の仕方を考えるとともに,それを日常生活に生かすこと
・ 数量の関係に着目し,計算の仕方を考えたり計算に関して成り立つ性質を見いだしたりするとともに,その性質を活用して,計算を工夫したり計算の確かめをしたりすること
・ 数の表し方の仕組み数を構成する単位に着目し,計算の仕方を考えるとともに,それを日常生活に生かすこと
・ 数を構成する単位に着目し,大きさの等しい分数を探したり,計算の仕方を考えたりするとともに,それを日常生活に生かすこと
・ 問題場面の数量の関係に着目し,数量の関係を簡潔に,また一般的に表現したり,式の意味を読み取ったりすること
・ 数量の関係に着目し,計算に関して成り立つ性質を用いて計算の仕方を考えること
・ そろばんの仕組みに着目し,大きな数や小数の計算の仕方を考えること

※ 文部科学省「小学校学習指導要領 第2章各教科 第3節算数 第2各学年の目標及び内容」平成29年3月[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/29/1384661_4_2.pdf(参照2018/04/12)

(4)見方・考え方を働かせ,資質・能力の育成

このように見方・考え方には各教科等の特質があります。
それぞれの教科等の見方などを比較し吟味すると,それぞれの特質がより一層明確になります。
さらに,教育課程全体における各教科等の役割が実感できるようになります。

小学校国語科では,
言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力の育成を目指します。
小学校理科では,
自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力の育成を目指します。
小学校音楽科では,
表現及び鑑賞の活動を通して,音楽的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる資質・能力の育成を目指します。

このように,新学習指導要領では,各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせ,それぞれの活動を通して,資質・能力を育成していきます。

5 小学校各教科等の特質に応じた見方・考え方

小学校学習指導要領解説(平成29年6月文部科学省)では,各教科等の見方・考え方を次のように解説しています。

国 語 社 会 算 数
理 科 生 活 音 楽
図画工作 家 庭 体 育<
外国語 特別の教科 道徳 外国語活動
総合的な学習の時間 特別活動

なお,上記のリンクページでは,小学校学習指導要領解説(H29.6,文部科学省)に示された各教科等の目標の解説を,章立てを共通化するなど工夫して表記しています。
教科の目標の意味や他教科等の目標との関係を捉えやすくするためです。本文は,原文通りです。






6 中学校各教科等の特質に応じた見方・考え方のイメージ

「審議のまとめ」別紙に,「各教科等の特質に応じた見方・考え方のイメージ」(中学校)*1が以下のように示されています。
ご参照下さい。

言葉による見方・考え方
自分の思いや考えを深めるため,対象と言葉,言葉と言葉の関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉え,その関係性を問い直して意味付けること。

社会的事象の 地理的な見方・考え方
社会的事象を,位置や空間的な広がりに着目して捉え,地域の環境条件や地域間の結び付きなどの地域という枠組みの中で,人間の営みと関連付けること。

社会的事象の 歴史的な見方・考え方
社会的事象を,時期,推移などに着目して捉え,類似や差異などを明確にしたり,事象同士を因果関係などで関連付けたりすること。

現代社会の見方・考え方
社会的事象を,政治,法,経済などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉え,よりよい社会の構築に向けて,課題解決のための選択・判断に資する概念や理論などと関連付けること。

数学的な見方・考え方
事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的に考えること。

理科の見方・考え方
自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること。

音楽的な見方・考え方
音楽に対する感性を働かせ,音や音楽を,音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え,自己のイメージや感情,生活や社会,伝統や文化などと関連付けること。

造形的な見方・考え方
感性や想像力を働かせ,対象や事象を,造形的な視点で捉え,自分としての意味や価値をつくりだすこと。

体育の見方・考え方
運動やスポーツを,その価値や特性に着目して,楽しさや喜びとともに体力の向上に果たす役割の視点から捉え,自己の適性等に応じた『する・みる・支える・知る』の多様な関わり方と関連付けること。

保健の見方・考え方
個人及び社会生活における課題や情報を,健康や安全に関する原則や概念に着目して捉え,疾病等のリスクの軽減や生活の質の向上,健康を支える環境づくりと関連付けること。

技術の見方・考え方
生活や社会における事象を,技術との関わりの視点で捉え,社会からの要求,安全性,環境負荷や経済性等に着目して技術を最適化すること。

生活の営みに係る見方・考え方
家族や家庭,衣食住,消費や環境などに係る生活事象を,協力・協働,健康・快適・安全,生活文化の継承・創造,持続可能な社会の構築等の視点で捉え,よりよい生活を営むために工夫すること。

外国語によるコミュニケー ションにおける見方・考え方
外国語で表現し伝え合うため,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉え,目的・場面・状況等に応じて,情報や自分の考えなどを形成,整理,再構築すること。

道徳科における見方・考え方
様々な事象を道徳的諸価値をもとに自己との関わりで広い視野から多面的・多角的に捉え,自己の人間としての生き方について考えること。
探究的な見方・考え方
各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,広範な事象を多様な角度から俯瞰して捉え,実社会や実生活の文脈や自己の生き方と関連付けて問い続けること。

集団や社会の形成者として の見方・考え方
各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,集団や社会における問題を捉え,よりよい人間関係の形成,よりよい集団生活の構築や社会への参画及び自己の実現と関連付けること。

*文部科学省 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」別紙1平成28年8月26日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/09/1377021_2_1.pdf(参照2017/05/12)







【まとめ】

  1. 新学習指導要領の「見方・考え方」は,これまでも用いられてきた。
  2. 学習指導要領の構造化された今回の改訂で,「見方・考え方」が改めて明示され,資質・能力が一貫してとらえやすくなり,各教科等の役割が鮮明になった。
  3. 「深い学び」の中核が見方・考え方であり,「見方・考え方」を働かせた学びを実現する授業が実践できれば,おのずと主体的・対話的で深い学びになる。
  4. プロの演奏家などの専門家は,音楽を聴きとるなどそれぞに必要な視点をもって考えている。
  5. 深い思考のためには見方が必要であり,見方は深い思考があって初めて意味あるものとなる。
  6. 授業でねらう見方・考え方を含め,資質能力を明らかにした実践が求められる。