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1 北九州市は世界のモデル都市に

(1)「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選定

平成30年4月23日,北九州市は,OECDが「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」として北九州市を選定したことを発表しました。※1
日本初,アジア地域初の選定です。
OECD(経済協力開発機構)は,既に選定した6都市・地域を含めて世界から10~12程度のモデル都市を選定しています。
そして,モデル都市を対象に調査・分析・評価を行い,都市・地域レベルの取組を世界中に広げるプロジェクトを実施します。

この選定を受けて,北九州市北橋健治市長とOECD東京センター村上由美子所長が,共同記者会見を4月23日に北九州市役所で開催しました。
※2記者会見では,北九州市がモデル都市に選ばれた理由について,OECD東京センター村上所長は,「過去の公害の克服の歴史や環境問題への先進的な取組,それに調査に積極的な姿勢を評価した」と話しました。
北橋市長は,「洋上風力発電など再生可能エネルギーの活用や,東南アジアでの水道事業など北九州市の先進性を世界に発信する絶好の機会にしたい」と述べました。
プロジェクトの詳細は,「3 OECD「SDGs推進に向けた地域的アプローチ」プロジェクト」※1をご覧ください。

kita9洞海湾(皿倉山山頂より)2017.2

(2)公害を克服し「世界の環境首都」を目指す

このような北九州市の発表とマスコミの報道を目にし,筆者はシビックプライドを感じたところです。
北九州市は,太平洋ベルト地帯,四大工業地帯の一つ北九州工業地帯として,重化学工業を中心に発展しました。しかし,1960年代に激しい公害を引き起こしました。
筆者が小学生の頃1970年前後頃の記憶では,洞海湾には重油より粘度の高い黒いコールタールのような油が,海岸一面に浮いていました。そこには異臭が漂っていました。
同時期,洞海湾のヘドロの浚渫が行われました。クレーン船のクレーンで洞海湾の汚泥を掘り上げ,それをバージ(平底の船)に移し,沖合に運んでいました。
筆者は幼心に「沖合にヘドロを捨てれば,また沖合が汚れないのか」と不思議に思い心配しました。実は,安全で環境にやさしい計画的な浚渫事業でした。

技術資産「環境にやさしい浚渫汚泥処理」
浚渫された汚泥は,二次汚染防止の最新の注意を払って処理が行われた。洞海湾の湾央に位置する西八幡船留の57,200m2が浚渫汚泥埋立地として選択された。この地からの汚染物質の流出を防ぐために1973年から1年の歳月をかけて,海から埋立地を隔離し,海岸を保護する締切護岸工事を行った。35万m3の汚染物質が埋められると,厚さ7mの非常に緩い基盤が出来上がった。この地盤の脆弱に特別な工法である,竹による縁取りと,シート,1mの砂,0.5mの土を層にしてうめる「バンブーネット工法(bamboo-net covering method)」が採用された。

「北九州市環境施策ハンドブック2.洞海湾復活」[ONLINE]https://enviroscope.iges.or.jp/contents/76/jap/story/storyi2.htm(参照2018.4.27)

中学校時代1975年頃には,大気に煤塵が含まれることから,中学校の各教室に空気清浄機が設置されました。自動販売機より一回り大きなサイズでした。
筆者には,このような公害の一場面の記憶が残っています。
このような状況だった公害は,市民,企業,行政一体の取組により環境は急速に改善され,1980年代には環境再生を果たしました。
美しい海を取り戻すばかりでなく,若戸大橋を含めた花火大会や湾岸のジャズコンサートなどが開催されるなど清浄化された環境の中で文化のかおるまちになっています。
そして現在,北九州市は,その公害克服の技術と経験を生かし,環境国際協力や循環型社会づくりを進めるとともに「世界の環境首都」を目指したまちづくりを行っています。
先の村上所長の言葉によれば,北九州市のこのような歴史や市長のリーダーシップのもとでの取組がOECDのモデル都市選定理由の一つとなっています。
環境に関わる北九州市の取組の一部は次のようです。

2 環境首都を目指す市の取組例

(1)響灘エコフロンティアパーク

若松響灘地区では,

  1. 「資源循環(エコタウン)」
  2. 「低炭素(次世代エネルギーパーク)」
  3. 「自然共生(緑の回廊・ビオトープ)」

の3要素が連携した未来の街(グリーンショールーム)を形成しています。
これを「響灘エコフロンティアパーク」といいます。
ここでは,「都市と自然との共生するまち」の実現を目指しており,各分野間での取組を複合的,相乗的に進めていくことで,持続可能な社会づくりを進めています。

① 北九州エコタウン事業

エコタウン事業とは,「あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し,最終的に廃棄物をゼロにすること(ゼロ・エミッション)」を目指し,資源循環型社会の構築を図る事業のことです。

② 次世代エネルギーパーク

平成19年10月に若松区響灘地区を中心とした北九州市の次世代エネルギーパーク構想が経済産業省から認定されました。
この構想は,同地区に立地する大型風力発電をはじめ多種多様なエネルギー関連施設を最大限活用して,市民の理解を深めビジターズインダストリーを推進し,エネルギー関連企業の立地促進を目的とします。
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③ 響灘ビオトープ

ドイツの造語で,生き物(Bio)が生息活動する場所(Topos)という意味を表し,様々な種類の生き物が,自分の力で生きていくことのできる自然環境を備えた場所を,ビオトープと呼んでいます。
廃棄物の埋め立て後に出来たデコボコの地形が、湿地や淡水池、草原などの多様な環境を生み、そこにさまざまな生物が生息するようになりました。
今では希少な生物も見ることができます。
これが響灘ビオトープです。

※「響灘エコフロンティアパーク」http://www.ecofrontier.jp/(参照2018.4.25)

(2)北九州次世代エネルギーパーク

① 背景

次世代エネルギーパークは,太陽光発電や風力発電などの新エネルギーに対する国民理解の増進を図るために,平成18年8月に経済産業省が提唱したものです。
平成19年10月に若松区響灘地区を中心とした本市の次世代エネルギーパーク構想が全国6か所のうちの1つとして経済産業省から認定されました。
この構想は,若松区響灘地区等に立地する大型風力発電をはじめとした多種多様なエネルギー関連施設を最大限活用して,エネルギーに対する市民の理解を深めるとともに,ビジターズインダストリーを推進するものです。
さらに,若松区響灘地区へのエネルギー関連企業の立地促進も目的としています。

※「ビジターズインダストリー」とは,集客産業のことを言います。つまり,人が集まるような施設や物産などを整備し,交流人口の増加により経済波及効果をねらうものです。

solar北九州市市民太陽光発電所2018.4

② 北九州次世代エネルギーパークの5つの特徴

  1. 暮らしを支えるエネルギー供給基地
  2. 次世代を担う自然エネルギー
  3. リサイクルから生まれるバイオマスエネルギー
  4. エネルギーの企業間連携(地産地消)
  5. エネルギー利用の革新技術

以上,5つの切り口から捉えた様々なエネルギーの取組を見ることができます。

③ 内容

本市のエネルギーパークは,若松区響灘地区に,
・ 大型風力発電や大型太陽光発電,
・ 多目的石炭ガス製造技術開発 施設,
・ バイオディーゼル燃料製造施設,
・ 白島国家石油備蓄基地など,
多種多様なエネルギー関連施設が集積している ことが特徴です。
平成20年3月には,立地企業などによる連絡会を設立して,平成21年7月27日にオープンしました。

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響灘風力発電所(白島展示館展望室より)2018.4

3 OECD「SDGs推進に向けた地域的アプローチ」プロジェクト

(1)プロジェクト概要

・ SDGsに積極的に取り組む10~12程度のモデル都市を世界から選定し,15~18か月間をかけて,調査・分析・評価を行います。
・ 「都市・地域レベルの国際比較が可能となる指標づくり」「調査・分析を通じた各都市・地域への評価・政策提言」「優良事例の抽出」「モデル都市間の知識共有」「ハイレベルの政策対話」などが実施されます。
・ その結果は報告書としてまとめられ,国際会議等を通じて世界中に発信され,世界の都市・地域の取組を促進していきます。

※ SDGs(Sustainable Development Goals)とは,限りある地球の資源を世界中の人々が公平に利用し,未来の世代に残していくための目標のことです。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので,国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。17の目標,169のターゲット,232の指標を掲げています。

(2)世界で選定されたモデル都市

OECDから選定された都市・地域は,以下の平成30年4月現在で6都市・地域です。
北九州市(日本),ボン市(ドイツ),トスカーナ州(イタリア),フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州(イタリア),南デンマーク地方(デンマーク),コルドバ州(アルゼンチン)

(3)北九州市への調査

・ 今後,OECD調査団が北九州市で現地調査を実施します。
・ 調査・分析を通じ,再生可能エネルギーや環境国際協力といった北九州市の強みが適切に評価されることで,「世界のSDGsモデル都市」として国内外に発信していきます。

(4)プロジェクトの背景

・ 国連機関の調査によれば,都市や地域の適切な関わりがなければ,SDGsの169のターゲットの65%は達成できないと推定されている。
・ このことから,OECDは,SDGsの実現には国レベルだけでなく,都市・地域レベルの取組みが不可欠と認識し,都市・地域レベルの取組みを支援するためのプロジェクトを実施することとした。

(5)プロジェクトの成果

① 都市・地域レベルの国際比較が可能となる指標づくり

・ SDGsの推進は都市・地域における取組みが不可欠である一方,SDGsの指標は国単位での平均にとどまっているため,都市・地域レベルの国際比較が可能となる指標づくりを行う。
・ 各モデル都市のSDGsに関する強みなどの分析・評価が可能となる。
・ この指標は,将来的に世界の他都市・地域でも使用できるものとなる。

② 統合報告書

・ 全てのモデル都市を網羅した報告書(150ページ)。
・ モデル都市間の比較,モデル都市の優良事例,などが盛り込まれる。

③ ケーススタディレポート

・ 選定都市ごとに作成される報告書(30~40ページ)。 ・各モデル都市の特徴に応じたSDGs指標,モデル都市の評価・政策提言・アクションプラン,などが盛り込まれる。

④ モデル都市間の知識共有,ハイレベルの政策対話などの開催

※1 「OECDが「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」として北九州市を選定! アジア地域で初」(平成30年4月23日)北九州市[ONLINE]http://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/00101181.html(参照2018.4.25)
※2 「北九州市 SDGsモデル都市に」北九州 NEWS WEB NHK北九州放送局04月23日[ONLINE]http://www3.nhk.or.jp/lnews/kitakyushu/20180423/5020000354.html(参照2018.4.25)