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ラクウショウなど90種の樹木が生育する自然が豊かな「篠栗九大の森」は,今どんな様子でしょうか。
篠栗九大の森は,周りは静かで,遊歩道を歩くとしっとりとした空気を感じます。豊かな自然を実感する場所です。
ところが,SNSで知名度が広がり訪問者が増えるに伴って,交通渋滞が起こり環境が悪化し,閉鎖も検討されています。
和歌山県「畠島」では,無断上陸やごみの不法投棄が後を絶たない状況です。
理科の学習で目指す,自然を愛する心情や賢明な意思決定ができる態度が生きて働くようにする必要性を改めて感じます。







1 「交通渋滞に環境悪化,閉鎖も検討」

rakuusyou夕刊を手に取ると,第一面のラクウショウの写真が目に入りました。
訪れたことのある福岡県「篠栗九大の森」の風景の写真です。
記事の見出しには,「静寂さこそ 九大の森」,「インスタ映え 殺到」,「交通渋滞に環境悪化,閉鎖も検討」※1とあります。
篠栗九大の森が「観光地化」し,交通渋滞が起こり森が荒らされるなど問題が生じているそうです。

2  研究の演習林であり地元住民の健康づくりの森

「篠栗九大の森」は,九州大学の敷地(九州大学福岡演習林)の西端にあり,篠栗町と九州大学が共同で整備,管理を行っています。
kyuudainomori約17ヘクタールの「森」には,スダジイ,アラカシ,タブノキ,クスノキ,ヤマモモなど約50種の常緑広葉樹と,コナラ,ネジキ,ハゼノキなど約40種の落葉広葉樹が生育しています。※3

この篠栗九大の森は,「水辺の森を散歩できる場所」であり,整備された公園ではありませんが,「中心にある蒲田池の周り約2キロメートルの遊歩道には,町の森林の間伐材を使用したあずまややベンチが所々にあり,自然を感じながら休憩することができます。」 (篠栗町役場産業観光課)

周りは静かで,遊歩道を歩くと,しっとりとした空気を感じます。
歩を進めると,湿り気のある落ち葉や土が靴に付き,普通の運動靴では心もとない気のする道です。踏み荒らされていない豊かな自然を実感する場所です。
kyuudai1蒲田池の周りは,森林浴ができる山道が続きます。途中には屋根付きベンチのある「あずまや」が二箇所あります。
コースではトレッカーとも出会います。トレッキングシューズにリュックサックを背負い,会話を楽しみながら歩く人の姿を見かけます。

特に,異彩を放つのがラクウショウの樹々です。
それは「水辺の森」と呼ばれるコースの奥の沼地にあります。
北アメリカ東部からメキシコ湾岸を原産とするラクウショウの樹々は,根が地面に突き出る「気根」や幹の根元の珍しい形など,不思議な光景を見せます。
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「樹高は最大50mに達するとされますが,通常は20m~30m前後です。幹はすくっと直立し,自然樹形は整った円錐形で美しいです。
枝は普通に生長するものと,その枝からでる葉を付けるものの2種類があります。葉は先端がゆるやかに尖った線形で,枝に左右交互ににつきます(互生)。枝に付いた葉の様子は鳥の羽のようで,ラクウショウ(落羽松)の名前はこの姿に由来します。
秋になると葉は赤褐色に色づき,冬になると枝ごと落葉します。」※4

水量の多い時期は,幹の根元が水に浸かります。その姿が神秘的で絵になると,人気になったようです。
このラクウショウが林立する水辺の森は,不思議な世界観を感じさせる空間です。






3 マナー違反の増加

そのような場所が「町によると,来訪者はこれまで年間約2万6000人ほどだった。それがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でラクウショウの写真がアップされるようになって「写真映えする」と評判を呼び,旅行会社のバスツアーが組まれるなどしたことから,17年度は約13万1000人が訪れるまでになった。」(毎日新聞2018年4月23日 西部夕刊)

筆者も訪れた一人です。午前中の早い時間にも関わらず,駐車待ちの車が並んでいました。訪問者が多くなったであろうことは想像に難くありません。
no-firesただ,この篠栗九大の森は,利用できるのは遊歩道と広場のみです。遊歩道を外れて樹林に入ることや,水面に近づくことはできません。
また,駐車場を含む篠栗九大の森敷地内は,たばこ,バーベキューなどの火気は厳禁です。
犬などのペットを持ち込むこともできません。

ところが,先の記事によれば,
「バーベキューやタバコを吸った跡が発見されるなどマナー違反も出ている。写真を撮るために立ち入り禁止区域に入る人もおり,植物が傷ついて研究の支障になることもある」(毎日新聞2018年4月23日西部夕刊)そうです。
残念な話です。

4 不法投棄の事件

同日の別記事で,京都大が研究用の実験地として所有する和歌山県白浜町沖の無人島「畠島(はたけじま)」で,無断上陸やごみの不法投棄が後を絶たず,対応に苦慮しているという記事※2もありました。

5 自然を愛する心情や賢明な意思決定ができる態度の育成

小学校理科の学習では,植物の結実の過程や動物の発生や成長について観察したり,調べたりする中で,生命の連続性や神秘性に思いをはせたり,自分自身を含む動植物は,互いにつながっており,周囲の環境との関係の中で生きていることを考えたりします。
kyuudai3そのことを通して,生命を尊重しようとする態度を育てます。自然を愛する心情を育てることがねらいです。
また,中学校理科では,自然環境の保全や科学技術の利用に関する問題などでは,人間が自然と調和しながら持続可能な社会をつくっていくため,身の回りの事象から地球規模の環境までを視野に入れて,科学的な根拠に基づいて賢明な意思決定ができるような態度を身に付けることをねらいとしています。
このような「学びに向かう力,人間性等」が,「篠栗九大の森」や「畠島」などの場面でも生きて働くようにする必要性を改めて感じる次第です。


※1「静寂さこそ 九大の森」「交通渋滞に環境悪化,閉鎖も検討」(毎日新聞2018年4月23日 西部夕刊)
※2「無断上陸やごみの不法投棄 悩める京大の実験島」毎日新聞2018年4月23日[ONLINE]https://mainichi.jp/articles/20180423/k00/00m/040/128000c(参照2018.4.23)
※3「篠栗九大の森」篠栗町役場産業観光課[ONLINE]http://www.town.sasaguri.fukuoka.jp/smp.php?mode=sightseeing_kyudainomori(参照2018.4.23)
※4「沼沢地の樹木 ラクウショウ(ヌマスギ)」ヤサシイエンゲイ 京都けえ園芸企画舎[ONLINE]http://www.yasashi.info/ra_00013.html(参照2018.4.23)