イギリス:Computingの指導内容
英国の教科「Computing」の指導内容は,どんな内容でどんな特徴があるのでしょうか。
教科「Computing」3側面は,日本の情報教育3観点と類似しています。

「コンピューターサイエンス(CS)」は「情報の科学的な理解」,「情報技術(IT)」は「情報活用の実践力」,「デジタルリテラシー(DL)」は「情報社会に参画する態度」です。

また,教科「computing」は,情報教育プログラミング教育の内容を含む教科と考えられます。


本稿では,教科「Computing」の指導内容について考えます。






1 はじめに

National curriculum in England: computing programmes of studyで示されている教科「Computing」の指導内容について,以下に示していきます。

英国の教科「Computing」の目的や目標の概要は,次の通りです。

詳細は,別稿「イギリス:Computingの目的,目標」を参照ください。

◯ 目的は,プログラム,システム,コンテンツ製作というプログラミングの活動を通して,他教科に活用できる思考力,創造性,洞察力,そして,情報活用能力の育成を図ることです。

◯ 目標は,プログラム作成等の実践的経験を通して,コンピュテーショナル・シンキングを理解し活用できるようにすることです。

実際の学習では,プログラム,システム,コンテンツ製作というプログラミングの活動を通して,他教科に活用できる思考力,創造性,洞察力,そして,情報活用能力の育成を図っていきます。

この目的と目標に基づいて,次項に示すような指導内容が設定されています。

なお,原文はNational curriculum in England*1から,訳文は,調査研究報告書*2からの転載です。

また,原文や訳文の太字や色文字,「要点」等の記述は筆者によるものです。

*1 GOV.UK Department for Education “Statutory guidance National curriculum in England: computing programmes of study”Published 11 September 2013[ONLINE]https://www.gov.uk/government/publications/national-curriculum-in-england-computing-programmes-of-study/national-curriculum-in-england-computing-programmes-of-study(cf.2017/5/8)

*2 「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」(文部科学省平成26 年度・情報教育指導力向上支援事業)[ONLINE]http://jouhouka.mext.go.jp/school/pdf/programming_syogaikoku_houkokusyo.pdf(参照2017/05/08)

2 指導内容

(1)キーステージ1

・understand what algorithms are, how they are implemented as programs on digital devices, and that programs execute by following precise and unambiguous instructions

・create and debug simple programs

・use logical reasoning to predict the behaviour of simple programs

・use technology purposefully to create, organise, store, manipulate and retrieve digital content

・recognise common uses of information technology beyond school

・use technology safely and respectfully, keeping personal information private; identify where to go for help and support when they have concerns about content or contact on the internet or other online technologies

アルゴリズムとは何かを理解すること。すなわち,アルゴリズムがデジタルデバイス上でプログラムとしてどのように実行されるか。アルゴリズムはプログラムが正確かつ明確な指示に従い実行するものであるということ。

簡単なプログラム作成デバッグをすること。

◯論理的推論による,簡単なプログラムの挙動予測をすること。

目的を持って情報技術を利用し,デジタルコンテンツを創り,整理し,保存し,操作し,呼び出し,検索すること。

学校外での一般的な情報技術の利用についての認識をすること。

◯情報技術を,安全に節度を持って個人情報を守りながら利用すること。インターネットや他のオンラインテクノロジーにおけるコンテンツや接触に関して懸念がある際に,どこに助けや支援を求めればよいかを確認すること。

(2)キーステージ2

・design, write and debug programs that accomplish specific goals, including controlling or simulating physical systems; solve problems by decomposing them into smaller parts

・use sequence, selection, and repetition in programs; work with variables and various forms of input and output

・use logical reasoning to explain how some simple algorithms work and to detect and correct errors in algorithms and programs

・understand computer networks, including the internet; how they can provide multiple services, such as the World Wide Web, and the opportunities they offer for communication and collaboration

・use search technologies effectively, appreciate how results are selected and ranked, and be discerning in evaluating digital content

・select, use and combine a variety of software (including internet services) on a range of digital devices to design and create a range of programs, systems and content that accomplish given goals, including collecting, analysing, evaluating and presenting data and information

・use technology safely, respectfully and responsibly; recognise acceptable/unacceptable behaviour; identify a range of ways to report concerns about content and contact

物理システムのコントロールやシミュレーションを含めた,特定の目的を達成するためのプログラムの設計や作成,デバッグをすること。また,それらのプログラムを小さなパーツに分解することで課題を解決すること。

プログラムにシーケンス(順次),選択,繰り返しを使用すること。また,変数や様々な形式の入出力を扱うこと。

論理的推論により,どのようにしていくつかの簡単なアルゴリズムが動くかを説明し,またアルゴリズムやプログラムにおけるエラーを探し出し,訂正すること。

◯インターネットを含むコンピュータネットワークを理解すること。また,インターネットがどのようにして,world wide web のような複雑なサービスや,コミュニケーション,コラボレーションの機会を提供できるのかを理解すること。

検索技術を効果的に利用すること。検索結果がどのようにして選ばれ,ランク付けされているのかを的確に認識し,デジタルコンテンツを的確に評価する判断力を持つこと。

◯様々なデジタルデバイスを用いて,インターネットサービスや様々な種類のソフトウェアを選択し,単独,あるいは組み合わせて使用することで,データや情報の収集・分析・評価・発表等,与えられた目的を達成するために様々なプログラムやシステム,コンテンツを創り上げること。

情報技術を安全に節度と責任を持って利用すること。やってよいこと/やってはいけないことを認識すること。コンテンツや接触における懸念を報告する様々な手段を確認すること。

(3)キーステージ3

・design, use and evaluate computational abstractions that model the state and behaviour of real-world problems and physical systems

・understand several key algorithms that reflect computational thinking [for example, ones for sorting and searching]; use logical reasoning to compare the utility of alternative algorithms for the same problem

・use 2 or more programming languages, at least one of which is textual, to solve a variety of computational problems; make appropriate use of data structures [for example, lists, tables or arrays]; design and develop modular programs that use procedures or functions

・understand simple Boolean logic [for example, AND, OR and NOT] and some of its uses in circuits and programming; understand how numbers can be represented in binary, and be able to carry out simple operations on binary numbers [for example, binary addition, and conversion between binary and decimal]

・understand the hardware and software components that make up computer systems, and how they communicate with one another and with other systems

・understand how instructions are stored and executed within a computer system; understand how data of various types (including text, sounds and pictures) can be represented and manipulated digitally, in the form of binary digits

・undertake creative projects that involve selecting, using, and combining multiple applications, preferably across a range of devices, to achieve challenging goals, including collecting and analysing data and meeting the needs of known users

・create, reuse, revise and repurpose digital artefacts for a given audience, with attention to trustworthiness, design and usability

・understand a range of ways to use technology safely, respectfully, responsibly and securely, including protecting their online identity and privacy; recognise inappropriate content, contact and conduct, and know how to report concerns

◯現実世界の課題や物理システムの状態やふるまいをあらわすコンピュータモデル設計,利用,評価すること。

◯”コンピュテーショナル・シンキング” を反映させた,いくつかの重要なアルゴリズム(例:ソートや検索に関するもの)を理解すること。論理的推論により,同じ課題に対する異なるアルゴリズムの有用性を比較すること。

複数のプログラミング言語(うち少なくとも一つはテキストベース)を使用し,様々な計算問題を解決すること。データ構造(例:リスト,テーブル,配列)を適切に利用すること。

手続きや関数を利用するモジュールプログラムを設計,構築すること。

◯簡単なブール論理(例:AND,OR,NOT)と,それらを使用した回路やプログラムを理解すること。数値が2 進数ではどのように置き換えられ,どのようにして2 進数で簡単な演算が実行されるのかを理解すること(例:2 進数の足し算,2 進数と10 進数の変換)。

◯コンピュータシステムを構成するハードウェア及びソフトウェアコンポーネントを理解し,そのコンポーネント同士や他システムとの間でどのように情報をやりとりしているのかを理解すること。

命令がコンピュータシステム内でどのように蓄積,実行されるのかを理解すること。テキストデータや音声データ,画像データといった様々な形式のデータが,2 進数の形式でどのようにデジタル的に置き換えられ,処理されるのかを理解すること。

様々なアプリケーションの利用,組み合せを伴う,創造的なプロジェクトに取り組み,積極的に多様なデバイスを横断的に使用し,データを収集・分析し,既知のユーザーのニーズに合致した,挑戦的な目標を達成すること。

◯信頼性やデザイン,使い勝手に配慮した,特定のユーザーのためのデジタル生成物(コンテンツ)の創造及び再利用,修正,転用をすること。

◯オンラインIDや個人情報を守り,情報技術を安全にかつ節度と責任を持って確実な方法で利用する様々な手段を理解すること。不適切なコンテンツや接触,行為を認識し,懸念を報告するすべを知ること。

(4)キーステージ4

develop their capability, creativity and knowledge in computer science, digital media and information technology

develop and apply their analytic, problem-solving, design, and computational thinking skills

understand how changes in technology affect safety, including new ways to protect their online privacy and identity, and how to report a range of concerns

◯コンピューターサイエンス及びデジタルメディア,情報技術における,能力,創造性,知識を伸長させること。

分析スキル,課題解決スキル,設計スキル,コンピュテーショナル・シンキング ” スキル伸長させ,応用すること。

◯オンラインプライバシーとオンライン ID を守る新たな手段と,様々な懸念をどのように見分け,報告するかを含め,技術の変化が安全性にどのような影響を与えるかを理解すること。

3 要点と考察

(1)要点

キーステージ1

◯アルゴリズムの理解,簡単なプログラム作成とデバッグ,簡単なプログラムの挙動予測

◯目的をもったデジタルコンテンツづくり

◯学校外での情報技術利用時の認識,個人情報を守った利用,助けや支援を求め方

キーステージ2

◯物理システムのコントロールやシミュレーション,プログラムの設計や作成,デバッグ。論理的推論によるアルゴリズムの説明,エラー訂正。コンピュータネットワークを理解

◯検索技術の効果的利用,デジタルコンテンツの的確な評価・判断力。プログラムやシステム,コンテンツ製作

◯情報技術を安全と責任ある利用,懸念の報告と手段の理解

キーステージ3

◯コンピュータモデルの設計,利用,評価。ソートや検索の理解。異なるアルゴリズムの有用性の比較。

◯複数プログラミング言語を使用した問題解決。リスト,テーブル,配列の利用。

◯手続きや関数のモジュールプログラムを設計,構築。

◯AND,OR,NOT,回路やプログラムの理解。2進数の足し算,2進数と10進数の変換。

◯ハードとソフトウェアコンポーネントの理解,情報のやりとりの理解。

◯命令の蓄積,実行方法の理解,データの2進数形式置き換え・処理の理解。創造的プロジェクトの取組,多様なデバイスを横断的使用と挑戦的な目標達成。

◯ユーザーのためのデジタルコンテンツの創造。安全確実な情報技術の利用と手段の理解,行為を認識と懸念の報告。

キーステージ4

◯コンピューターサイエンス及びデジタルメディア,情報技術における,能力,創造性,知識を伸長。

◯分析スキル,課題解決スキル,設計スキル,コンピュテーショナル・シンキングスキルの伸長,応用。

◯技術の変化による安全性の影響の理解

(2)考察

① 日本の情報教育3観点の整理と類似

指導内容等は,コンピューターサイエンス(CS)情報技術(IT)デジタルリテラシー(DL)の3つの側面を含んで構成されています。

これらの教科「computing」3側面は,日本の情報教育3観点と類似しています。

日本では,情報教育の目標を次の3観点に整理しています。

  1. 情報活用の実践力:課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力
  2. 情報の科学的な理解:情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
  3. 情報社会に参画する態度:社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し,情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え,望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度

文部科学省「新『情報教育に関する手引』」平成14年6月[ONLINE]http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/020706.htm(参照2017/05/08)

具体的には,「コンピューターサイエンス(CS)」は「情報の科学的な理解」,「情報技術(IT)」は「情報活用の実践力」,「デジタルリテラシー(DL)」は「情報社会に参画する態度」です。

② ハードとソフトの活用

両者の内容を比較すると,日本の情報教育では「情報」の活用という側面が強い一方,教科「computing」ではコンピュテーショナル・シンキングの育成を目的としてコンピュータのハードとソフトの活用の実践という側面が強調されています。

プログラムやデジタル制作物の作成が柱の一つとなっています。

③ デジタルリテラシー(DL)は情報モラルと対処法の明示

デジタルリテラシー(DL)では,懸念の報告等対処法を指導内容に明示しています。

安全確実な情報技術の利用と手段の理解,行為を認識等は,日本の情報教育情報モラルでも示されています。

情報教育「情報社会に参画する態度」の学習範囲としては,以下の内容があります。

  1. 情報技術と生活や産業,
  2. コンピュータに依存した社会の問題点,
  3. 情報モラル・マナー,
  4. プライバシー,
  5. 著作権,
  6. コンピュータ犯罪,
  7. コンピュータセキュリティ,
  8. マスメディアの社会への影響など

それに加え,デジタルリテラシー(DL)では,懸念の報告等対処法を明示するなど,喫緊の課題の実践化を強調する内容となっています。

教科「computing」は,実践できる有能なICTユーザー」の育成を目指していると言えます。

④ 日本の情報教育とプログラミング教育を合わせた内容

教科「computing」は,日本の情報教育プログラミング教育を含む性格の教科と考えられます。

ア 情報教育

情報教育では,次の3要素から構成される「情報活用能力」の育成を目標としています。

情報活用の実践力

  1. 課題や目的に合った情報手段(情報メディア,コンピュータ,ネットワーク)の適切な利用
  2. 必要な情報の選択
  3. 課題解決における主体的な情報活用(収集・表現・創造・発信・交流)
  4. 情報の表現とコミュニケーション

情報の科学的な理解

  1. 情報手段の仕組みや特性の理解
  2. 問題解決の手順と結果の評価についての基礎的な理論や方法
  3. 人間の知覚,記憶,思考についての特性に関する基礎的な理論と方法
  4. 情報を表現する技法に関する基礎的な理論と方法

情報社会に参画する態度

  1. 情報社会についての理解
  2. 情報モラル・情報発信の責任についての理解
  3. 情報社会に積極的に参加し,よりよい社会にするために貢献しようとする態度
イ プログラミング教育

プログラミング教育の目的は,次のようです。

プログラミング教育とは

子供たちに,コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら,将来どのような職業に就くとしても,時代を超えて普遍的に求められる力としての「プログラミング的思考」などを育成するもの

プログラミング的思考とは

自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力

このように,情報教育は,インターネットはもちろんテレビや新聞などの情報を広くとらえ実践的に活用できるようにすることをねらいとします。

広い意味ではプログラミング教育の内容に重なりがあります。

プログラミング教育では,プログラムを作る活動が盛り込まれ,プログラミング的思考を育成することを目的としています。

これらから,教科「computing」は,情報教育とプログラミング教育を含む性格の教科と考えられます。

教科「computing」は,次のような特徴があります。

◯ 教科「computing」3側面は,日本の情報教育3観点と類似しています。

「コンピューターサイエンス(CS)」は「情報の科学的な理解」,「情報技術(IT)」は「情報活用の実践力」,「デジタルリテラシー(DL)」は「情報社会に参画する態度」です。

◯ コンピュテーショナル・シンキングの育成を目的として,コンピュータのハードとソフトを活用する実践が強調されています。

◯ 懸念の報告等対処法を指導内容として明示し実践化を求めるなど,「有能なICTユーザー」を目指しています。

◯ 日本の情報教育とプログラミング教育を含む性格の教科と考えられます。