平成29年改訂学習指導要領教科等の見方・考え方を列記して見えるもの
平成29年改訂学習指導要領では「見方・考え方」が明示されました。各教科等の見方・考え方を列記することでどんなことが分かりますか。
見方・考え方を教科等ごとに横に列記すると,各教科等の中で,特定の教科等の特質が浮かび上がるとともに,果たすべき担うべき役割が明確になります。
見方・考え方を学校種で縦に列記すると,校種間のつながりや発展が見渡しやすくなり,小学校,中学校,高等学校の役割,各教科等の役割,各学年の役割,そして何よりそれぞれの指導の責任が明確になります。
「見方」と「考え方」は車の両輪といえ,ともに重要な資質・能力です。
新学習指導要領で示される「深い学び」を実現するためには,教科等の特質に応じた見方・考え方,資質・能力の育成が欠かせません。







1 平成20年改訂学習指導要領での取り扱い

平成20年改訂学習指導要領では,「数学的な見方・考え方」をどのように取り扱っているのでしょう。

(1)小学校算数

① 数学的な見方

○ 小学校算数科では,「数学的な見方・考え方」を用語としては使用せず,数学的な見方具体的な場面で説明します。
例えば,「図形の見方」や「式が,場面の数量の関係を表すという見方」などです。
小学校第5学年では,辺の長さや角の大きさに着目した合同な図形の作図を通して,平面図形の理解を深めます。これは,図形の見方です。
一つの数を他の数と関係付けてみることもします。例えば,8を10という数に関係付けてみると,8は10より2小さいことから差で10-2と表せます。この数の見方は,繰り上がりや繰り下がりの計算の理解の素地となります。これは,数の見方です。
○ 小学校算数科では,「見方」は,「数学的な考え方」もしくは「数学的な思考力・表現力」等と表記され,それらに含まれます。
例えば,50は10の5個分のように10のまとまりに着目するような数の見方は,数学的な考え方の一つの単位の考えです。「事象を数理的にとらえるとは,事象の中に含まれる数,量,図形などの要素に着目したり,変化や対応などの関数の考えや,対象を明確にするなどの集合の考えなどの数学的な考え方に着目したりして,考察し探究していくことである。」などもその例です。
数学的な見方は,対象を捉え数学化する過程で発揮され数学的に考える入り口であることから,数学的な考え方の一部と考えられます。

② 数学的な考え方

○ 数学的な考え方については,一般的に述べる場合には「数学的な考え方」「筋道を立てて考える」「論理的に考える」「数学的な思考力」などを用います。
例えば,「筋道を立てて考えるなどの数学的な考え方を伸ばしていく」「既習の学習を基にしながら数学的に表現する能力を育てたり,根拠を明らかにして論理的に考える態度を伸ばしたりする」「面積の求め方を考え,説明する活動を通して,数学的な思考力や表現力を高める」などです。
○ 数学的な考え方の方法論の具体では,帰納的,類推的,演繹的な考えなどを用います。
例えば,「解決のための方法や結果についての見通しをもとうとするとき,…中略…幾つかの具体例を調べて共通性を見付けるという帰納的な考えや,類似の場面から推測するという類推的な考えを用いることもある。…中略…問題解決の方法や結果が正しいことをきちんと示すためには,筋道を立てて考えることが求められる。それは,根拠を明らかにしながら,一歩ずつ進めていくという考えである。ある前提を基にして説明していくという演繹的な考えが代表的なものであるが,児童が算数を学習していく中では,帰納的な考えや類推的な考えもまた,根拠となる事柄を示すという点で,筋道を立てた考えの一つといえる。」などです。

(2)中学校数学

① 数学的な見方や考え方

○ 中学校数学科では,「数学的な見方や考え方」を用語として用います。
例えば,「数量や図形などに関する基礎的な概念や原理・法則のよさ,数学的な見方や考え方のよさ」,また,「これまで,『C数量関係』の領域も,数学的な見方や考え方と数学を活用する能力の伸長を目指すための領域として設定し,数学的な見方や考え方を十分に発揮できるようにするとともに,いろいろな関係を積極的に数学的考察の対象とすることが必要であるとしてきた。」,さらに「既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだし,発展させる活動は,発展的,創造的な活動である。その際,数学的な見方や考え方が重要な役割を果たす。」のように説明しています。
指導内容の具体例として,「多角形の内角の和については,結果も重要であるが,多角形を基本の図形である三角形に分割することによってその結果が見いだせるということを知ることも大切なねらいである。これは,『既知のことに帰着して考える』という数学的な見方や考え方である。」,また,「円は,直線とともに最も身近な図形の一つである。円を数学的な見方でとらえることは小学校から学習している。例えば,小学校算数科においては,円の中心,半径及び直径,円周率,円の面積を学習してきている。中学校数学科においては,第1学年で円の接線について学習している。」のように説明しています。

② 数学的な考え方の方法論の具体

○ 数学的な考え方の方法論の具体では,一般化,特殊化,抽象化,具体化,帰納的,類推的,演繹的に考えるなどを用います。
例えば,「既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだす活動は,既習のことを確定的,固定的に見ないで,新たな課題を見いだしてそれを解決し,発展的,創造的に考える活動といえる。その際には,試行錯誤すること,視点を変更して柔軟に考えること,一般化したり特殊化したりすること,抽象化したり具体化したりすること,分析したり統合したりすることなど,数学的な見方や考え方が重要な役割を果たす。その過程では,既習の数学的な見方や考え方が活用されるだけでなく,新たなものに気付いたり生み出したりすることにもなる。また,その過程で帰納的に考えたり類推的に考えたりすることで予測や推測をし,演繹的に考えることによりそれらを検証して,数学的な推論を適切に用いて数学的な事実が見いだされることにもなる。」などです。

このように,平成20年改訂学習指導要領では,数学的な見方・考え方の明確な定義は示されず,その具体については,指導内容の解説の文脈の中で述べられていました

2 平成29年の改訂で明らかになった担う役割

学習指導要領の平成29年改訂の大きなポイントの一つが「見方・考え方」の明示です。各教科等,そして学年のみならず学校種で共通して具体的に示されたことで,考え方はもとより見方の重要性が改めて認識できるようになりました。

(1)教科等ごとの列記で特質が見える

例えば,見方・考え方を教科等ごとに横に列記すると
国語科では,対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えたり問い直したりして,言葉への自覚を高めること,
小学校社会科では,位置や空間的な広がり,時期や時間の経過,事象や人々の相互関係などに着目して,社会的事象を捉え,比較・分類したり総合したり,地域の人々や国民の生活と関連付けたりすること,
音楽科では,音や音楽を,音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え,自己のイメージや感情,生活や文化などと関連付けること,
図画工作科では,感性や想像力を働かせ,対象や事象を,形や色などの造形的な視点で捉え,自分のイメージをもちながら意味や価値をつくりだすこと,
そして,
算数科・数学科では,事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,根拠を基に筋道を立てて考え,統合的・発展的に考えることなど,
各教科等の中で,算数科・数学科の特質が浮かび上がるとともに,果たすべき担うべき役割が明確になりました

(2)学校種ごとの列記で担う役割が見える

また,数学的な見方・考え方を学校種で縦に列記すると
小学校では「事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,統合的・発展的に考えること」,中学校では「…論理的,統合的・発展的に考えること」,高等学校では「…論理的,統合的・発展的,体系的に考えること」です。
数学的な見方:「事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えること」小・中・高共通
数学的な考え方:「目的に応じて数,式,図,表,グラフ等を活用しつつ,」
小学校では,「根拠を基に筋道を立てて考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能等を関連付けながら,統合的・発展的に考えること」
中学校では,「論理的に考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能を関連付けながら,統合的・発展的に考えること」
高等学校では,「論理的に考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能を関連付けながら,統合的・発展的に考えたり,体系的に考えたりすること」
など,資質・能力としての数学的な見方・考え方の発展がよく分かります。
平成29年改訂学習指導要領で数学的な見方があらためて明示されたことは,算数科・数学科の能力の整理という観点からはもちろん,各教科等が担う学校教育の在り方を整理するという観点から大変重要な意味をもちます。
校種間のつながりや発展が見渡しやすくなったことにより,小学校,中学校,高等学校の役割,各教科等の役割,各学年の役割,そして何よりそれぞれの指導の責任が明確になります。

3 見方と考え方が深い学びを実現

(1)見方・考え方の概念の外延

各教科等の見方・考え方を列記すると,それぞれの教科等の特質が見えてきます。そして,見方とは何か,考え方とは何かが実感として理解できてきます。その実感の様子はあたかも見方・考え方の概念を理解する過程のようです。
見方・考え方は,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考をしていくのかという,物事の特徴や本質を捉える視点や,思考の進め方や方向性を意味するものです。この一文を読んだだけでは,見方・考え方の意味の十分な理解は得られません。さらに,それぞれの教科等の具体を列挙したり,照らし合わせたりすることで,見方・考え方の概念が形成されていきます。外延を列挙して概念の理解を図っているようなものです。

(2)見方と考え方は車の両輪

その分析の過程で,見方と考え方の関係は,直感と論理の関係のように思えてきます。
直観と論理は,車の両輪と言われます。
直観は,一定の数学的な見方・考え方を身に付けている人が,問題意識をもって,直面する問題に対峙しているときに,生まれるものです。問題意識など何ももたないところに,直観は働くものではありません。
小学校算数科では,用語としての「直観」は用いられません。中学校数学科では,図形に対する直観的な見方や考え方で考察する過程を通して,論理的な見方や考え方を指導することとしています。
この直観は,事象に対し,数学的な見方や数学的な考え方が働いている時に生まれます。直観が働けば,数学的に考え始めます。そこに,確かな仮説が生まれ,追求意欲が高まり,解決の見通しがもてるようになります。それにより直観は強化されます。
学習過程の中で,数学的な見方と数学的な考え方を明確に使い分けることは難しいことがあります。例えば,解決場面の考える場面であっても,数学的な見方は考える視点となります。そのように考えると,「見方」と「考え方」は車の両輪といえます。ともに重要な資質・能力です。

深い思考のためにはその思考に応じた見方・考え方が必要です。新学習指導要領で示される「深い学び」を実現するためには,教科等の特質に応じた見方・考え方,資質・能力の育成が欠かせません。