- 現行学習指導要領における目標等で「見方・考え方」が示されている。それは,どのような意味で、どのうように取り扱われているのだろうか。
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平成29年改訂学習指導要領では、各教科等の目標において「見方・考え方」が改めて明示された。これは、単なる用語の新設にとどまらず、教育課程の構造化と授業改善における極めて重要な転換点である。本稿では、特に「見方」に焦点を当て、その役割と重要性について整理する。
見方・考え方は,各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせ,活動を通して,資質・能力を育成することと示された。
・ 構造化された改訂で,見方・考え方が改めて明示され,資質・能力が教科間・校種間で一貫して捉えやすくなり,各教科等の役割が鮮明になった。
・ 深い学びの中核が見方・考え方であり,それに基づいた授業が実現できれば,おのずと主体的・対話的で深い学びとなる。
・ 専門家は,音楽を聴きとるなど,必要な専門的な視点をもって考える。
・ 深い思考のためには見方が必要であり,見方は考え方があってはじめて問題解決につながる。
・ 授業でねらう資質・能力を明らかにした実践が求められる。
1 画画期的な「見方」の明示と「学びの地図」
今回の改訂における大きな成果は、以下の2点に集約される。
1. 教育課程の「学びの地図」化
各教科等の目標や内容が「資質・能力の三つの柱」に基づいて再整理された。これにより、教科間の有機的なつながりや、学年・校種間の一貫した見通しが容易に確保できるようになっている。
2. 深い学び」の中核としての「見方」の確立
「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実現において、その中核をなすのが「見方・考え方」である。各教科の特質に応じた「見方・考え方」を働かせた授業を展開できれば、自ずと主体的・対話的で深い学びが達成される。
2 プロの「見る目・聴く耳」にみる「見方」の専門性
「見方」とは、その領域における専門的な視点であり、学びを通じて培われるものである。
・ 野球指導者の視点
名将として知られたオリックス・バファローズの仰木彬監督は、選手のどこを見ているかという問いに対し「肩と足」と即答した。
素人が漠然と全体や打率を見るのに対し、プロは独自の緻密な「見る目」を持っている。
・ 演奏家の視点
バイオリニストなどの専門家は、名器ストラディヴァリウスの音色を明確に聴き分ける。音を聞く器官は耳であるが、それを音楽として捉え、判断するのは「視点」や「見方」にほかならない。
学習指導要領における音楽科の目標でも、「音や音楽を、音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え」と定義されている。
3 「見方」と「考え方」の関係性
「見方」と「考え方」は、問題解決において車の両輪の役割を果たす。
対象を専門的な「見方」で捉えることで、適切な直観やひらめきが生まれる。その見方は、論理的な「考え方」を伴うことで初めて具体的な問題解決へと結びつき、意味をもつようになる。
見方・考え方には,各教科等の特質がある。新学習指導要領では,次の例に示すようにそれぞれの見方・考え方を働かせ,活動を通して資質・能力を育成する。
小・中 国語科
言葉による見方・考え方を働かせる…「児童生徒が学習の中で,対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えたり問い直したりして,言葉への自覚を高める」こととしている。
小 社会科
社会的事象の見方・考え方…「位置や空間的な広がり,時期や時間の経過,事象や人々の相互関係などに着目して,社会的事象を捉え,比較・分類したり総合したり,地域の人々や国民の生活と関連付けたりする」
社会的事象の見方・考え方を働かせる…「これらの視点や方法を用いて,社会的事象について調べ,考えたり,選択・判断したりする学び方」
「見方・考え方」のうち,「見方」とは,以下の例のようである。
小 国語科
「対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉える」
小 社会科
「位置や空間的な広がり,時期や時間の経過,事象や人々の相互関係などに着目して社会的事象を捉える」
算数科・数学科
「事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉える」
このように,新学習指導要領では,各教科等の特質に応じた見方を示している。
見方は,物事をとらえる入口である。どのようなフィルターからとらえるかが各教科等の見方である。
そうしてとらえたものを,それぞれの教科等における論理的な「考え方」で問題等を解決する。「見方」と「考え方」は、どちらも欠かすことができない。
今後の受業実践では、具体的な児童の姿としての「見方」、そして「考え方」を明確にした実践が求められる。このことが「主体的・対話的で深い学び」の実現につながりる。
「深い学び」の鍵は,各教科等の特質に応じた「見方・考え方」である。
「見方・考え方」は,
・ 新しい知識・技能を既有の知識・技能と結びつけて深く理解し,
・ 社会で生きて働くものとして習得したり,
・ 思考力・判断力・表現力を豊かなものとしたり,
・ 社会や世界との関わり方の視座を形成したり
するために重要だ。
「見方・考え方」を働かせた学びを通じて,資質・能力が育まれる。それによって「見方・考え方」がさらに豊かなものになる。これらは、相互の関係にある。
4 「見方」の具体
「見方」の具体例として,小学校算数科第4学年「数と計算」領域の内容を取り上げる。
「思考力,判断力,表現力等」の表記内容において,「〜に着目し」に当たる部分は「数学的な見方」,「〜考える」「〜捉える」「〜見いだす」などに当たる部分は「数学的な考え方」である。
数学的な見方については,次のようである。*1
・ 数のまとまりに着目し,大きな数の大きさの比べ方や表し方を統合的に捉えるとともに,それらを日常生活に生かすこと
・ 日常の事象における場面に着目し,目的に合った数の処理の仕方を考えるとともに,それを日常生活に生かすこと
・ 数量の関係に着目し,計算の仕方を考えたり計算に関して成り立つ性質を見いだしたりするとともに,その性質を活用して,計算を工夫したり計算の確かめをしたりすること
・ 数の表し方の仕組みや数を構成する単位に着目し,計算の仕方を考えるとともに,それを日常生活に生かすこと
・ 数を構成する単位に着目し,大きさの等しい分数を探したり,計算の仕方を考えたりするとともに,それを日常生活に生かすこと
・ 問題場面の数量の関係に着目し,数量の関係を簡潔に,また一般的に表現したり,式の意味を読み取ったりすること
・ 数量の関係に着目し,計算に関して成り立つ性質を用いて計算の仕方を考えること
・ そろばんの仕組みに着目し,大きな数や小数の計算の仕方を考えること
いずれの内容も、算数科特有かつ第4学年に必要な「数学的な見方」である。これは国語科や社会科など、他教科の学習では見られないものだ。同様に「数学的な考え方」についても、算数科特有の視点であることは言うまでもない。
このように見方・考え方には各教科等の特質がある。各教科等の見方・考え方を比較すると、それぞれの特質がより一層明確になり、教育課程全体における各教科等の役割が実感できる。
例えば、各教科の目標は以下のように示されている。
小学校国語科(言葉)
言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力の育成を目指す。
小学校理科(自然)
自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力の育成を目指す。
小学校音楽科(音)
表現および鑑賞の活動を通して、音楽的な見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる資質・能力の育成を目指す。
これら他教科の視点と比べ、算数科の「数学的な見方・考え方」は、対象を数量や図形に着目して抽象化し、論理的かつ普遍的に正解を導き出せる点に最大の独自性と強みがある。
このように、新学習指導要領では、各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせ、それぞれの活動を通して資質・能力を育成することを求めている。
*1 文部科学省「小学校学習指導要領 第2章各教科 第3節算数 第2各学年の目標及び内容」平成29年3月[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/29/1384661_4_2.pdf(参照2018/04/12)
5 小学校 見方・考え方
小学校学習指導要領解説(平成29年6月文部科学省)では,各教科等の見方・考え方を次のように解説している。
なお,上記のリンクページでは,小学校学習指導要領解説(H29.6,文部科学省)に示された各教科等の目標の解説を,章立てを共通化するなど工夫して表記している。
教科の目標の意味や他教科等の目標との関係を捉えやすくするためです。本文は,原文通りである。
6 中学校 見方・考え方のイメージ
「審議のまとめ」別紙に,「各教科等の特質に応じた見方・考え方のイメージ」(中学校)*2 を以下のように示している。
言葉による見方・考え方
自分の思いや考えを深めるため,対象と言葉,言葉と言葉の関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉え,その関係性を問い直して意味付けること。
社会的事象の 地理的な見方・考え方
社会的事象を,位置や空間的な広がりに着目して捉え,地域の環境条件や地域間の結び付きなどの地域という枠組みの中で,人間の営みと関連付けること。
社会的事象の 歴史的な見方・考え方
社会的事象を,時期,推移などに着目して捉え,類似や差異などを明確にしたり,事象同士を因果関係などで関連付けたりすること。
現代社会の見方・考え方
社会的事象を,政治,法,経済などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉え,よりよい社会の構築に向けて,課題解決のための選択・判断に資する概念や理論などと関連付けること。
数学的な見方・考え方
事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的に考えること。
理科の見方・考え方
自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること。
音楽的な見方・考え方
音楽に対する感性を働かせ,音や音楽を,音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え,自己のイメージや感情,生活や社会,伝統や文化などと関連付けること。
造形的な見方・考え方
感性や想像力を働かせ,対象や事象を,造形的な視点で捉え,自分としての意味や価値をつくりだすこと。
体育の見方・考え方
運動やスポーツを,その価値や特性に着目して,楽しさや喜びとともに体力の向上に果たす役割の視点から捉え,自己の適性等に応じた『する・みる・支える・知る』の多様な関わり方と関連付けること。
保健の見方・考え方
個人及び社会生活における課題や情報を,健康や安全に関する原則や概念に着目して捉え,疾病等のリスクの軽減や生活の質の向上,健康を支える環境づくりと関連付けること。
技術の見方・考え方
生活や社会における事象を,技術との関わりの視点で捉え,社会からの要求,安全性,環境負荷や経済性等に着目して技術を最適化すること。
生活の営みに係る見方・考え方
家族や家庭,衣食住,消費や環境などに係る生活事象を,協力・協働,健康・快適・安全,生活文化の継承・創造,持続可能な社会の構築等の視点で捉え,よりよい生活を営むために工夫すること。
外国語によるコミュニケー ションにおける見方・考え方
外国語で表現し伝え合うため,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉え,目的・場面・状況等に応じて,情報や自分の考えなどを形成,整理,再構築すること。
道徳科における見方・考え方
様々な事象を道徳的諸価値をもとに自己との関わりで広い視野から多面的・多角的に捉え,自己の人間としての生き方について考えること。
探究的な見方・考え方
各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,広範な事象を多様な角度から俯瞰して捉え,実社会や実生活の文脈や自己の生き方と関連付けて問い続けること。
集団や社会の形成者として の見方・考え方
各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,集団や社会における問題を捉え,よりよい人間関係の形成,よりよい集団生活の構築や社会への参画及び自己の実現と関連付けること。
*2 文部科学省 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」別紙1平成28年8月26日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/09/1377021_2_1.pdf(参照2017/05/12)
7 まとめ
新学習指導要領で示された「見方・考え方」という概念は、これまでの教育実践でも用いられてきたものだ。
教育課程が構造化された今回の改訂において「見方・考え方」が改めて明示されたことで、育成すべき資質・能力を一貫して捉えやすくなり、各教科等の役割がより鮮明になった。
「深い学び」の中核をなすものが「見方・考え方」であり、これを働かせた授業を実践できれば、自ずと「主体的・対話的で深い学び」が実現する。
例えば、プロの演奏家などの専門家は、音楽を聴き取る際にそれぞれに必要な独自の視点(見方)をもって思考(考え方)している。深い思考のためには適切な見方が不可欠であり、その見方も深い思考を伴って初めて意味を成す。
学校現場には、授業で狙うべき「見方・考え方」を含め、育成する資質・能力を明確にした授業実践が求められている。