〜単なる内容の読み取りから、言葉の構造・機能を問い直す「批判的探究」へのシフト〜
- 次期学習指導要領の改訂において、国語科の「言葉による見方・考え方」はどのような方向性で構造的転換が図られるのでしょうか。小・中・高の授業実践や評価の見直しと関連付けた全体像を教えてください。
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次期指導要領における国語科の構造的転換は、生成AI時代に必要な「言葉の構造や機能を問い直す批判的・探究的な言語能力」の育成を目指すものです。中教審の最新の審議に基づき、重要度が高い順に以下の3点へ整理されます。
「見方・考え方」の表形式化による系統的指導:
小学校から高校まで、働かせる視点(左列)が高次の資質・能力(中央列)を経て、普遍的な「言葉の特質の理解(右列)」へとステップアップするプロセスを明確に構造化し、活動の形式化を防ぎます。
社会の変化に即した探究型授業への刷新:
単一文章の受動的な読解から脱却し、小学校での「言葉の置き換え実験」、中学校での「AI生成文のクロス分析」、高校での「データを用いたマルチモーダル発信」など、デジタル空間や実社会と直結した動的な実践へと転換します。
「主体的な態度」の数値評価除外と質的見取り:
挙手回数などの形式的なABC評価を排し、長期的な試行錯誤をシンプルな記号等で看取る形へ見直すことで、教員の負担を軽減し、子供たちの深い思考プロセスの育成に注力させます。
📌 【実践事例編】の3大ポイント
- 見方・考え方の可視化:小・中・高の各段階で「言葉による見方・考え方」がどのように高次の資質・能力(概念的理解)へ結びつくかを一覧表で構造化。
- 三部構成による実践の明示:各校種の事例を【目標(構造化表)】→【計画・実践(新旧対比)】→【深掘り解説】のシームレスな流れで再構成。
- デジタル・AIの必然的活用:1人1台端末や生成AIを単なる道具ではなく、言葉の働きを可視化し、批判的思考を駆動するための「思考の足場かけ」として位置づけ。
1. はじめに:なぜ次期国語教育は「実践の構造化」を求めるのか
次期学習指導要領の改訂論議において、中央教育審議会(中教審)の国語ワーキンググループが最も問題視しているのは、現行課程で定着したはずの言語活動が「活動あって学びなし」という形式化に陥っている点です。話し合い活動を行うことや、新聞を作ること自体が目的化し、それらの活動を通じて「言葉のどのような特質や構造を学んだのか」という、子供たちの「言葉への自覚(概念的理解)」にまで至っていない授業が散見されるからです。
この課題を解決するため、次期指導要領では「『言葉による見方・考え方』を中核的な概念(高次の資質・能力)として明確に構造化・表形式化する方針」が打ち出されています。教員が授業を設計する際、「この言語活動を通じて、どのような『見方・考え方』を働かせ、最終的に言葉に関するどのような普遍的理解(知のOS)に到達させるのか」を、あらかじめ明確に構造化しておくことが求められます。
本稿【実践事例編】では、小学校・中学校・高等学校の3つの実践事例について、指導の狙いである【目標】、具体的な新旧の【計画・実践】、そして授業のポイントを紐解く【深掘り解説】の三部構成を用いて、次期指導要領を先取りした授業アップデートの全貌を詳しく解説します。
2. 【小学校事例】言葉の選択に注目して物語の印象を捉える
(1) 資質・能力の構造化一覧表(目標の明確化)
単に「ごんの気持ち」を追うのではなく、オノマトペの置き換えというデジタル空間での実験を通じ、言葉の特質へ迫るための構造化モデルです。
| 働かせる「言葉による見方・考え方」 | 育成を目指す中核的な概念(高次の資質・能力) | 到達させる「言葉の特質や構造の理解」 |
|---|---|---|
| 対象(叙述)と言葉の関係に着目する ・特定の語彙(オノマトペ等)を別の言葉に置き換えて、文章全体の印象の変化を比較する視点。 | 【語彙の選択と文脈の相関性】 ・書き手が特定の意図を持って言葉を選んでいることを、客観的に評価する力。 | 「言葉は、選択次第で受け手に与える印象や情景のリアリティを大きく変える道具である」という概念的理解。 |
| 言葉の意味や働きから問い直す ・「なぜ作者はこの言葉でなければならなかったのか」と、表現の必然性を吟味する思考。 | 【表現効果の汎用化・一般化】 ・単なる直感ではなく、「AをBに変えると効果が変化する」という枠組みで論理的に説明する力。 | 「文章は静的な事実の記録ではなく、書き手の意図によって構造化された表現物である」という構造の認識。 |
(2) 授業の計画・実践:現行版と次期アレンジ版の対比
- 対象学年・題材:小学校4年・物語文「ごんぎつね」(次期:共通分野「構造と言葉の働き」を想定)
◆ 現行版(現行学習指導要領に基づく実践計画)
- アプローチ:登場人物の行動や気持ちを表す言葉に着目し、物語の情景や人物の心情の変化を読み取る。
- 具体的実践:児童は教科書を読み、ごんの行動(「くりやまつたけを届ける」など)や、兵十の様子が書かれた部分に線を引き、ワークシートに書き出します。教員は「ごんはどんな気持ちだったのだろう?」と問いかけ、児童は「ひとりぼっちで寂しかったから」「申し訳ないと思ったから」など、本文の記述を基に話し合います。最後に、各自がごんの心情の変化をノートにまとめて発表します。
◆ 次期学習指導要領アレンジ版(2026年5月審議まとめ案に基づく実践計画)
- アプローチ:デジタル端末のテキスト編集機能を活用し、言葉を「置き換える」ことで、言葉の持つ限定的な効果や書き手の意図を問い直す。
- 具体的実践:児童は1人1台端末で「ごんぎつね」のテキストデータを表示します。教員は、物語の冒頭「城の下の、しだの茂みの中へ、のそりと這い出しました」という一文に注目させます。児童は「のそり」という言葉を、端末上で「さっと」「するすると」「ぴょんと」といった別のオノマトペに書き換えてみます。各自で印象の変化を体験した後、作者の新美南吉がなぜこの言葉を選んだのか、その効果を「【言葉】を【別の言葉】に変えると、〇〇な印象から▢▢な印象に変わる」という汎用的なフレームワークを用いて整理し、学級全体にシェアします。
(3) 授業実践の深掘り解説:内容の受容から「表現の必然性」の探究へ
従来の現行版授業では、教科書の記述に沿って登場人物の心情を正確に読み解くことが中心でした。これは国語科の基礎的な読解力を養う上で重要ですが、ともすれば「お話の内容(筋書き)を理解して終わり」になりがちでした。
次期アレンジ版では、ここに「デジタル端末を活用した言葉の置き換え実験」を導入します。文字を打ち替えた瞬間、児童の端末の画面上では、ごんの動きの印象がガラリと変わります。
- 【 ⚠️言葉による見方 】:「『ぴょんと』に変えると、元気で楽しそうなキツネになっちゃう」「『のそり』だからこそ、いたずらをしようと隠れていたごんの用心深さや、ひとりぼっちの寂しさが伝わってくるんだ」と、特定の語彙がもたらす効果や、対象と言葉の関係性を動的に捉えます。児童は単にお話の内容を受動的に受け入れているのではなく、文章が書き手の意図的な選択によって構成されていることに気づいていきます。
- 【 💡言葉による考え方 】:置き換え実験の後は、その気づきを単なる直感で終わらせず、「【のそり】を【ぴょんと】に変えると、寂しい印象から元気な印象に変わる。だから作者は『のそり』を使った」という汎用的な言語のフレームワーク(思考ツール)を用いて、表現の効果を論理的に説明・一般化します。
これにより、他の物語を読む際にも「作者はなぜこの言葉を選んだのだろう」という、言葉の機能に着目した主体的な読解態度(知のOS)が形成されるのです。
3. 【中学校事例】意見の異なる複数の説明文を比較・分析する
(1) 資質・能力の構造化一覧表(目標の明確化)
教科書に用意された1つの正解を要約するのではなく、生成AIが紡ぐ「偏りのある複数テキスト」をクロス分析するための構造化モデルです。
| 働かせる「言葉による見方・考え方」 | 育成を目指す中核的な概念(高次の資質・能力) | 到達させる「言葉の特質や構造の理解」 |
|---|---|---|
| 言葉と言葉、文章と文章の関係に着目する ・異なる立場(AI生成文)の語彙のトーン(客観・情緒)や論理構成を対比する視点。 | 【情報の批判的吟味(メディアリテラシー)】 ・提示された情報の客観的事実(データ)と主観的意見(バイアス)を峻別する力。 | 「テキストには、書き手の立場や目的による偏り(バイアス)が必ず内包されている」という情報特性の理解。 |
| 言葉の働きやきまりから問い直す ・「この言葉の選択は読者をどう誘導しているか」と、論拠の妥当性や表現の意図を疑う思考。 | 【多角的な論理構築・査読力】 ・複数の情報源をクロス分析し、自らの論理で新たな「査読レポート」として再構成する力。 | 「真実や正解は一つではなく、複数の論理を比較・統合する対話のプロセスから紡ぎ出される」という対話的知性の獲得。 |
(2) 授業の計画・実践:現行版と次期アレンジ版の対比
- 対象学年・題材:中学校3年・説明文(次期:共通分野「情報と論理の相関」を想定)
◆ 現行版(現行学習指導要領に基づく実践計画)
- アプローチ:文章の論理構成(序破急、事実と意見の関係など)を正しく理解し、筆者の主張を要約する。
- 具体的実践:教員から提示された「科学技術の発展と環境問題」に関する説明文を読み、生徒は接続詞や段落の関係(理由、具体例、結論など)を色分けして分析します。筆者がどのような論理展開で「環境保護のために技術を抑制すべきだ」と主張しているかを読み取り、200字程度で要約文を作成します。
◆ 次期学習指導要領アレンジ版(2026年5月審議まとめ案に基づく実践計画)
- アプローチ:生成AIが作成した「異なる主張の複数テキスト」を比較し、論拠の妥当性や言葉のバイアスを批判的に検証する。
- 具体的実践:「これからの都市開発と自然の共生」をテーマに、教員はあらかじめ生成AIに「開発推進派の論文風文章」と「自然保護絶対派の寄稿文風文章」を同時生成させ、生徒に配布します。生徒は端末の画面上で2つの文章を並べ、それぞれの文章で使われている語彙のトーンを比較します。双方の論拠の「事実(データ)」と「意見(主観)」をマッピングして整理し、AIが生成した文章の論理的弱点を指摘する「批判的査読レポート」をグループで協働して執筆します。
(3) 授業実践の深掘り解説:単一文章の要約から「情報の批判的査読」へ
従来現行版の指導では、1つの完成された文章の論理構成を正しく理解し、筆者の主張を「正確に要約する」ことがゴールとされてきました。しかし、教科書という「正解が保証された完璧な文章」だけを相手にしていると、実社会にあふれる「意図や偏り、フェイクの混ざった情報」に対抗する力が育ちにくいという課題がありました。
次期アレンジ版では、「生成AIを用いた、意図的な偏りのある複数テキストのクロス分析」に挑戦します。
- 【 ⚠️言葉による見方 】:生徒は推進派と保護派のテキストにおける語彙のトーンの違い(推進派の「投資効率」「合理的」に対し、保護派の「かけがえのない」「破壊」など)に着目します。「言葉の選択によって、読者の心理が特定の方向に誘導されている(バイアスがかけられている)」という言葉と言葉、文章と文章の相関関係を見破り、「なぜこの語彙が使われているのか」と言葉の働きを批判的に問い直します。
- 【 💡言葉による考え方 】:言葉の偏りを見抜いた後は、グループで双方の文章の「事実(エビデンス)」と「意見(主観)」をマッピングして整理し、AIが生成した文章の論理的弱点や矛盾を指摘する「批判的査読レポート」として、自らの論理で新たな文章へと再構成(表現)します。
この実践を通じて、生徒は情報空間において「流れてくる言葉の裏にある意図を問い直す」という、強靭なメディアリテラシーを獲得します。
4. 【高等学校事例】実社会の課題をマルチモーダルに発信する
(1) 資質・能力の構造化一覧表(目標の明確化)
静的な作文の執筆にとどまらず、文字・画像・データが複合的に絡み合う現代のデジタルメディアを動的にハックするための構造化モデルです。
| 働かせる「言葉による見方・考え方」 | 育成を目指す中核的な概念(高次の資質・能力) | 到達させる「言葉の特質や構造の理解」 |
|---|---|---|
| 言葉と言葉以外の関係(マルチモーダル)に着目する ・テキストの文字数・響きと、画像・フォント・配置などの視覚情報との相関性を捉える視点。 | 【ターゲット文脈に応じた情報デザイン力】 ・発信対象(10代後半等)の心理やメディア特性(SNS等)に最適化した表現を設計する力。 | 「現代のコミュニケーションは、文字、画像、データが複合的に絡み合う構造(マルチモーダル)で成立している」というメディア構造の理解。 |
| 言葉の使い方や効果(リアクション)から問い直す ・AIへのプロンプト入力や、運用データ(クリック率等)を基に、言葉を動的に修正・推敲する思考. | 【動的コミュニケーションの最適化】 ・固定された文章表現に満足せず、社会の反応やAIとの協働を通じて表現をアップデートし続ける力。 | 「言葉は社会を動かす実践的な道具であり、テクノロジーとの相互作用によって常に変容し続けるものである」という実用的言語観の確立。 |
(2) 授業の計画・実践:現行版と次期アレンジ版の対比
- 対象学年・題材:高校・選択科目(次期:再編される「デジタル社会のコミュニケーション探究」等を想定)
◆ 現行版(現行学習指導要領に基づく実践計画)
- アプローチ:実社会の事象から課題を見つけ、論理的な構成や適切な語彙を用いて、自分の意見を文章にまとめる。
- 具体的実践:生徒は「地域の高齢化と公共交通機関のあり方」について新聞記事などを調べて取材し、自分の考えを「序論・本論・結論」の構成に沿って原稿用紙に記述します。教員は、適切な敬語の使い方や、主述の対応、論理のつながりが正しいかどうかを添削し、生徒は推敲して清書を提出します。
◆ 次期学習指導要領アレンジ版(2026年5月審議まとめ案に基づく実践計画)
- アプローチ:テキスト、画像、レイアウトなどの「マルチモーダル(複数の表現様式)」の相関関係を捉え、ターゲットに応じた最適な「言葉のプロンプトおよび情報デザイン」を創造・検証する。
- 具体的実践:自治体と連携し、「若年層向けの防災意識啓発キャンペーン」のデジタルポスターおよび特設サイトの文言(キャッチコピー)を制作します。生徒はSNSのタイムラインで視線を引きつける文字数や視覚的配置を分析し、「対象(10代後半)に響く言葉(例:『避難せよ』ではなく『自分のために動こう』)」と、フォント・色彩との組み合わせを構造的に捉えます。さらに生成AIに「共感度を高める表現にリライトして」とプロンプトを入力し、出力された選択肢をブラッシュアップ。完成作品をテスト運用し、クリック率などのデータを見ながら文言を再微調整します。
(3) 授業実践の深掘り解説:紙の上の表現から「実社会を動かすマルチモーダル発信」へ
従来の現行版指導では、実社会の事象について自分の考えを論理的にまとめる「紙ベースの意見文執筆」が主流でした。これは論理的な文章作成能力を保証する上で重要ですが、現代のリアルなデジタルコミュニケーションの本質を学ぶには限界がありました。
2026年5月11日に文科省から提示された高校国語の「6科目への選択科目再編案」を見据えた次期アレンジ版では、文字、画像、データが複合的に絡み合う「マルチモーダル」な情報発信へと踏み込みます。
- 【 ⚠️言葉による見方 】:生徒たちは、ターゲットである10代後半の心理を分析し、「『避難せよ』という命令口調は若年層に心理的抵抗(バイアス)を生むが、『自分のために動こう』という主体性を促す言葉のほうが共感を呼ぶ」といった、言葉の意味・響きと、それを囲むフォント・色彩・画像など(言葉と言葉以外の関係性)を構造的に捉えます。
- 【 💡言葉による考え方 】:捉えたマルチモーダルな関係性を基に、生成AIと協働対話(プロンプト入力)を行いながら表現を練り上げます。さらに、完成作品を実際の地域メディアやSNSで運用し、インプレッション数やクリック率などのデジタルデータ(社会のリアルな反応)を回収。「データという客観的根拠(フィードバック)」を基に表現の使い方や効果を動的に問い直し、再度のリライトを繰り返して表現を最適化していきます。
言葉を社会変革の武器として動的に実装させる、これこそが次期高校国語が目指す高次の資質・能力の全貌です。
5. 結論:学校現場の教員に求められる「実践の心構え」
本稿で示した小・中・高の系統的な授業実践シミュレーションから明らかなように、次期学習指導要領がもたらす「言葉による見方・考え方」の構造的転換とは、単にデジタル端末や生成AIという「新しい道具を使うこと」ではありません。テクノロジーを触媒として、「言葉が持つ構造、意図、効果、そして他者や社会との関係性を、子供たち自身に深く問い直させること」に本質があります。
現場の教員に今求められている心構えは、教科書に書かれた内容を「教え込む」指導観からの完全な脱却です。本稿に提示した【目標(構造化一覧表)】をカリキュラム・マネジメントの核に据え、
- 小学校段階では、言葉を置き換えることで生まれる「表現の効果の自覚」を。
- 中学校段階では、複数情報を比較することで生まれる「批判的思考の確立」を。
- 高等学校段階では、マルチモーダルな社会の中で機能する「実践的な言語発信力の獲得」を。
それぞれ小・中・高の壁を越えた一貫した系統性の中でデザインしていく必要があります。
2026年5月現在、中教審で議論されている高校国語の「6科目への再編」や「主体的に学習に取り組む態度」の数値評価見直しといった大改革は、すべて先生方がこうした「本質的な国語授業の創造」に専念できるようにするための制度的後押しに他なりません。AIが言葉を自動生成する時代だからこそ、その言葉の裏にある構造を見抜き、自らの知性で未来を紡ぎ出す子供たちを育てるために、私たちは今すぐ、日々の授業実践の構造的転換へと踏み出すべきなのです。
出典・参照:
文部科学省 中央教育審議会 教育課程部会 国語ワーキンググループ 審議資料(2026年4月・5月公表)
中央教育審議会 教育課程企画特別部会「論点整理(素案)」(2025年9月)
中教審 総則・評価特別部会 公表資料(2025年7月〜2026年5月)