次期学習指導要領改訂に向けた「数学的な見方・考え方」の構造的転換と授業実践の展望

次期学習指導要領改訂に向けた「数学的な見方・考え方」の構造的転換と授業実践の展望

〜小・中・高の一貫した系統性と『数学ガイダンス』導入を見据えて〜

 次期学習指導要領の改訂議論において、「数学的な見方・考え方」のとらえ方はどのように一貫して整理され、従来の小・中・高の指導における断絶(いわゆる中高の壁など)をどのように乗り越えようとしているのでしょうか。

 次期学習指導要領に向けた議論では、小学校から高校までの「数学的な見方・考え方」を、「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え(見方)、論理的、統合的・発展的に考えること(考え方)」として完全に一貫した軸で再整理しています。

 従来の指導では、小学校の「具体的な算数」から中学校・高校の「抽象的な数学」への移行期に用語や指導法の断絶が生じ、これが生徒の苦手意識やつまずきを生む原因となっていました。

 この課題に対し、最新の次期改訂案では小学校から高校(数学Ⅰ)までを共通の「6分野」に再編するとともに、中高の接続期等に『数学ガイダンス』を新設する方針が議論されています。これにより、児童生徒は「自分が今働かせている見方・考え方が、将来どのように社会や高等数学へつながるか」をシームレスに見通すことが可能となり、学校段階の壁を乗り越えた一貫した資質・能力の育成が実現します。

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1. はじめに:社会の変化と学習指導要領改訂の背景

 わが国の学校教育の根幹をなす学習指導要領は、概ね10年周期で時代の要請と社会構造の変化に応じた改訂を重ねてきた。現在、文部科学省および中央教育審議会(中教審)では、次期学習指導要領の改訂に向けた集中的な審議が佳境を迎えている。今回の改訂は、2027年度の告示、2030年度からの全面実施(小学校段階より順次実施)を一つの大きな節目として視野に収めたものである。

 この改訂を突き動かす背景には、生成AIの爆発的普及に代表される高度情報化、予測困難なVUCA社会の到来、そしてわが国の「理工系人材の絶対的不足」という構造的危機がある。中教審の試算によれば、2040年には国内で約120万人の理系人材が不足すると予測されており、理数系素養を持つ人材の裾野を広げることが国策上の最優先課題となっている。

 このような激動の時代において、算数・数学教育の中核をなす「数学的な見方・考え方」の重要性はますます高まっている。それは、単に数式を処理する計算技術にとどまらない。事象の背後にある本質的な関係性を捉え、論理的かつ統合的に思考を進めるための「汎用的な知の道具」であり、これからの複雑な社会を生き抜く子供たちに不可欠な羅針盤なのである。

 本稿では、教育行政および中教審の最新の審議動向を踏まえ、「数学的な見方・考え方」の定義とその一貫した捉え方を整理するとともに、現行課程の成果と課題、次期改訂で議論されているドラスティックな構造改革の全貌、そして学校現場が今から備えるべき具体的な実践のあり方について、余すところなく解説する。

2. 現行学習指導要領における成果と現場の課題

(1) 現行学習指導要領における「数学的な見方・考え方」のとらえ

 2017年(平成29年)に告示された現行学習指導要領において、「数学的な見方・考え方」は以下のように定義され、資質・能力の「三つの柱」すべてを育むための原動力として位置づけられた。

  • 数学的な見方:事象を数量や図形、およびそれらの関係(概念など)に着目して、その特徴や本質を捉えること。
  • 数学的な考え方:目的に応じて数・式、図、表、グラフなどを活用し、論理的に考え、問題解決の過程を振り返るなどして、既習の知識・技能を関連付けながら統合的・発展的に考えること。

 これらは別個に存在するものではなく、「見方」によって事象を数理的な舞台に載せ、「考え方」によって論理的な推論や解決へのアプローチを行うという、相互に深く連動した思考のプロセスを指している。

(2) 現行教育課程の成果

 国際学力調査(PISAやTIMSSなど)において、日本の児童生徒の数学的リテラシーは依然として世界トップクラスを維持しており、確かな学力の定着という面で現行課程は一定の成果を収めている。また、日常生活の事象を数理的に捉える「数学的活動」の重視や、高校数学における「データの分析」「統計的な推測」の強化は、データサイエンス時代の基礎知識を養う上で確実な前進をもたらした。現場の教員の尽力により、「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善も着実に浸透してきた。

(3) 学校現場が直面する構造的課題

 しかし、中教審の教育課程部会・算数・数学ワーキンググループ(以下、算数・数学WG)の審議では、依然として解消されない深刻な現場の課題が報告されている。

  • 「楽しい」の減少とつまずきの累積:全国学力・学習状況調査等のデータによれば、学年が進行するにつれ、算数・数学を「楽しい」「大切だ」と感じる児童生徒の割合が減少する傾向が顕著である。算数・数学は極めて系統性が強い教科であるため、前の学年でのつまずきが未解消のまま進級すると、雪だるま式に苦手意識が増幅してしまう。
  • 小・中・高の「中高の壁・小中の断絶」:小学校の「算数」から中学校の「数学」への移行時、あるいは高校数学への進学時に、用語の定義や抽象度の急上昇(文字式の本格化や厳密な論証の導入など)によって、学習意欲が大きく低下する現象(いわゆる中一ギャップ、高一ギャップ)が解消しきれていない。
  • 社会経済的背景(SES)による格差:家庭環境や社会経済的背景が低いグループほど算数・数学の正答率が低いという、教育格差の構造が明示されている。これは、従来の授業スタイルが、一定の文化的・経済的基盤を持つ児童生徒に有利に働き、底上げに苦戦していることを示唆している。
  • 「形式的な処理」への偏重:計算手順や公式の暗記による「形式的な問題解決」に終始してしまい、なぜその公式が成り立つのか、それが社会のどこに役立っているのかを実感できないまま、学びの目的を見失う生徒が少なくない。

3. 次期学習指導要領に向けた最新の議論動向

 文部科学省が提示した「教育課程企画特別部会 論点整理(素案)」、および2026年4月17日(第9回)・5月15日(第10回)に開催された中教審「算数・数学WG」の最新取りまとめ案に基づき、現在議論されている次期改訂の全貌が明らかになりつつある。これらは従来の枠組みを大きく揺り動かす、約85年ぶりの構造改革とも言える内容である。

【次期算数・数学教育 改革の骨子(現在議論中の方針案)】
  ◆ 教科名称の統一議論:「小学校算数」を「数学」へ? 
  ◆ 領域の再編:小・中・高(数Ⅰ)を共通の「6分野」に構造化
  ◆ 新設科目:中高の接続期等に『数学ガイダンス』を設定
  ◆ 高校数学の再編:数学A・B・Cを統合、6項目から選ぶ新科目
  ◆ 評価の変革:「主体的に学習に取り組む態度」を数値評価から除外

(1) 教科名称の統一と指導内容のシームレス化

 最新の審議まとめ案では、小・中・高の学習内容に連続性を持たせ、学校種間の断絶による苦手意識を払拭する狙いから、算数と数学に分かれている教科名を「数学」へ統一するかどうかが大きな論点として浮上している(2026年5月現在議論中)。これにより、小学校段階から「数学的な見方・考え方」を一貫した言葉と捉えで指導し、児童生徒に「私たちは地続きの学問を学んでいる」という意識を持たせることが目指されている。

(2) 小・中・高共通「6分野」への学習内容の再編(最新決定骨子)

 審議の過程では当初提示された「7領域案」や、委員から提案された「5領域案」など、領域の絞り込みを巡る多角的な議論が交わされた。しかし、2026年4月の第9回会合で提示された最新の取りまとめ骨子案において、最終的に小学校から高校の「数学Ⅰ」までの学習内容を、共通の「6つの分野」に整理・構造化する方針が固まった。

 これまでの「数と計算」「図形」「変化と関係」「データの活用」といった学校種ごとに微妙に異なっていた領域名が統一されることで、学校種間のギャップが劇的に解消される。教員側も「この単元が中学校・高校のどこへつながるか」を容易に見通すことができ、児童生徒側も縦の系統性を意識した一貫した学びが可能となる。

(3) 『数学ガイダンス』の新設

 次期指導要領の最も象徴的な方針案として、中学校や高校の入学時等に『数学ガイダンス』を設定することが盛り込まれた(2026年4月・5月の算数・数学WG会合にて集中議論)。

  • 意義:前段階(小学校や中学校)の学習内容との接続を円滑にし、既習事項のつまずきを解消する補習的機能を持たせると同時に、「数学が社会のどのような職業や仕事、先端技術(AIやデータサイエンスなど)につながっているか」をガイダンスする。
  • 実現できる将来像:抽象的な記号の羅列や厳密な証明に直面して拒絶反応を示す前に、数学の社会的有用性や実利性を実感させることで、学びの動機付けを確固たるものにする。「何のために学ぶのか」という問いに対する明確な解を、最初の段階で提示する構造である。

(4) 高校数学の科目構成見直しと新科目の設置

 2026年5月15日の第10回会合にて、高校数学のドラスティックな再編案の改訂版が示された。現行の選択科目である「数学A」「数学B」「数学C」を一つの新科目に統合する。

 この新科目は、実社会やデータサイエンスとのつながりが強い①場合の数と確率、②統計的な推測、③行列、④数列、⑤幾何ベクトル、⑥複素数と複素数平面、の「6項目」に整理される。文理を問わず、各学校が志望進路(理系進学、文系進学、職業系専門学科など)に応じて、これらの項目を柔軟に選択して履修できるモデルが提示された。

 さらに、学習の個別最適な最適化を徹底するため、実用数学技能検定(数検)2級以上取得者の「数学Ⅰ」履修免除や、高度な数学的才能を持つ生徒を対象とした飛び級制度の弾力化といった、大胆な方針も議論されている。

(5) 学習評価のドラスティックな見直し

 中教審の「総則・評価特別部会」の動向(2025年7月〜2026年5月公表資料)によると、次期指導要領では評価のあり方も激変する。現行の3観点のうち、ノートの提出頻度や挙手の回数などといった形式的な評価に陥りがちで、現場の過度な負担となっていた「主体的に学習に取り組む態度」を原則として数値評価(A・B・C評価)から外し、個人内評価(所見欄などの記述)へと変更する方向で検討が進んでいる。

 思考・判断・表現の過程において特に粘り強さや主体性が発揮された場合に、その姿を「思考・判断・表現」の観点内で記述や「〇」などの記号で評価に反映する方向である。これにより、教員は膨大な関心・意欲の数値化業務から解放され、子供たちの思考プロセスそのものを看取る見取りの質的向上に注力できるようになる。


4. これからの学校現場・教員に求められる準備と心構え

 次期指導要領が目指す「数学的な見方・考え方」の育成において、現場の教員に求められるのは、単に新しい単元や知識を教えるスキルではない。「いかに子供たち自身に数学的な眼鏡(見方)をかけさせ、思考のアクセル(考え方)を踏ませるか」という、授業デザインの転換である。

 特に、1人1台端末(GIGAスクール構想の第2段階)の日常的活用を前提とし、単一の解を求める処理から、複数の条件を比較・構造化する探究へとシフトする必要がある。以下に、学校現場が今から取り組むべき授業改善の指針として、小・中・高校における「現行版」と「次期アレンジ版」の対比による象徴的な実践事例を紹介する。


【小学校事例】日常の事象から「きまり」を見出す算数(数学)

◆ 現行版(現行学習指導要領に基づく実践)

  • 単元・題材:4年「変わり方調べ」
  • アプローチ:身近な具体的活動を通して、2つの数量の変化の中に潜む1つの規則性を見つけ、式に表す。
  • 具体的実践
    児童は手元でストローを並べ、正方形を横に1個、2個、3個と繋げていく活動を行います。児童はノートに「正方形の個数」と「ストローの本数」の表を作成し、「正方形が1個増えると、ストローは3本ずつ増える」という規則性(関係性)に着目します(数学的な見方)。そして、「最初の1本 +(3本 × 正方形の個数)」というきまりを導き出し、正方形が10個や50個のときのストローの総数を計算によって求めます(数学的な考え方)。
  • ポイント:具象から抽象への移行を丁寧に行い、1つの変化の規則性を表や式を用いて一般化する標準的な思考力を養います。

◆ 次期学習指導要領アレンジ版(2026年5月審議まとめ案に基づく実践)

  • 単元・題材:4年「変わり方調べ」(次期:共通分野「変化と関係」領域を想定)
  • アプローチデジタル端末を活用し、条件(変数)が変わることで変化の仕方がどう変わるかを比較・統合する(多角的な関数的・構造的な見方・考え方の育成)
  • 具体的実践
    1. 【日常の課題設定】:児童は1人1台端末を使い、画面上でストローを横に繋げていくシミュレーションを行います。まず正方形を繋げる活動から、「正方形が1個増えると、ストローは3本ずつ増える」という現行同様の規則性を見つけます。
    2. 【条件変更による比較(次期の本質)】:次に教員は「では、正三角形を横に繋げたらどうなる?」「正五角形なら?」と、条件(図形の形)を変化させた課題を同時に提示します。児童は端末上でそれぞれの変化の表を並べ、「正方形は3本ずつ、正三角形は2本ずつ、正五角形は4本ずつ増える」という、各事象の『変化の割合(きまり)そのものの規則性』を比較・発見します(数学的な見方)。
    3. 【構造の一般化と表現】:児童は、図形の角の数を \(n\) としたとき、「増える本数はいつでも \(n-1\) 本になる」という構造的なきまりに気づきます。これをもとに、端末の簡易ブロックプログラミングや、AI音声入力等を活用して、「【最初の1本】に【(角の数-1)× つなげる個数】をたす」という、どんな多角形にも対応できる「普遍的な計算のプログラム(式)」を自ら構築し、学級全体に視覚的にプレゼンテーションします(数学的な考え方)。
  • ポイント(現行授業との決定的な違い)
    • 「点」から「面(構造)」への転換:1つの図形(正方形)のきまりを見つけて終わるのではなく、複数の条件を端末で同時比較することで、事象をより高い視点から「構造的・関数的」に捉えさせます。
    • デジタルを前提とした思考の高速化:手書きの表や図の作図にかかっていた時間をデジタルで短縮し、「もし条件を変えたらどうなるか」という数学的な問いを立てて推測・検証する時間へ手厚く配分します。

【中学校事例】社会とつながる統計的探究

◆ 現行版(現行学習指導要領に基づく実践)

  • 単元・題材:2年「データの活用」
  • アプローチ:教科書や教員から与えられた「整理済みのデータ」を基に、統計グラフを正しく記述し、その傾向を読み取る。
  • 具体的実践
    教員から配布された「ある都市の過去30年間の月別平均気温データ」を基に、生徒は電卓や1人1台端末を使ってヒストグラムや箱ひげ図、散布図を作成します。生徒はグラフの形状や四分位範囲、相関係数の数値を読み取り、「この都市は8月の気温のばらつきが小さく、全体的に温暖な気候である」といった、データの全体的な傾向を言葉で記述してまとめます(数学的な見方・考え方)。
  • ポイント:統計手法の「正しい手順(描き方・計算方法)」の習得と、目の前にある単一データの傾向を正しく読み取る「読解力」の育成に主眼が置かれています。

◆ 次期学習指導要領アレンジ版(2026年5月審議まとめ案に基づく実践)

  • 単元・題材:2年「データの活用」(次期:共通分野「データの分析・活用」および新設予定の『数学ガイダンス』領域の包含)
  • アプローチ社会にある「リアルな未整理のビッグデータ」を用い、複数の要因(天候・経済・心理など)の相関・因果関係をデジタルで多角的に分析し、最適な意思決定の根拠(モデル)を創り出す
  • 具体的実践
    1. 【社会課題・ガイダンスとの連動】:新設予定の『数学ガイダンス』の視点に基づき、地元の観光協会や商店街が抱える「持続可能な地域活性化」という実際の課題を設定します。生徒は、地域の「観光客数の推移」「宿泊費の変動」「SNSの口コミ数」「月別の気象データ」など、Web上に公開されている複数のオープンデータ(ビッグデータ)を端末にダウンロードします。
    2. 【複数データのクロス分析(次期の本質)】:生徒は表計算ソフトや統計ツールを活用し、単に1つのデータ(例:観光客数)の推移を見るだけでなく、「気温が上がると、特定の観光スポットAの来客数は増えるが、スポットBは減る」「宿泊費を2割下げた月は、口コミ数が3倍になるが総利益は減る」といった、複数の要因が複雑に絡み合う相関関係や因果関係を、散布図や箱ひげ図を多角的に重ね合わせながら捉えます数学的な見方)。
    3. 【意思決定のための数理モデル構築】:分析結果を基に、生徒は「次月の予測気温が〇度で、SNSのトレンド数が〇件の場合、観光客数を最大化するための最適な宿泊プランの価格設定とイベント開催日」を、根拠となる数式やグラフを用いて導き出します。そして、観光協会に向けて「統計的根拠に基づく地域活性化プラン」をプレゼンテーションします(数学的な考え方)。
  • ポイント(現行授業との決定的な違い)
    • 「解が1つではない」現実社会へのアプローチ:教科書の枠を出て、答えが1つに決まらない現実の複雑な課題に対して数学を適用させます。
    • 他教科(社会・総合・技術)とのクロスオーバー:公民的分野(経済・地域社会)の知識や、技術科のデジタルスキルと数学を結びつけることで、数学が社会を最適化するための「強力な課題解決ツール」であることを体感させ、中高の接続を滑らかにします。

【高等学校事例】他教科・社会課題との複合的探究

◆ 現行版(現行学習指導要領に基づく実践)

  • 単元・題材:数学C「ベクトル」または数学B「数列」
  • アプローチ:数学的な定義や定理を理解し、高度な数式処理や幾何学的な問題を論理的に解く力を養う。
  • 具体的実践
    平面や空間におけるベクトルの一次独立や内積の性質、または数列の漸化式について学習します。教科書にある応用問題として、図形上の点の位置をベクトルを用いて表したり、格子点の数を数列の和を使って求めたりする計算を行います。生徒は、複雑な条件を数式に置き換え、論理の破綻がないように一歩一歩計算を進めて正解を導き出します(数学的な見方・考え方)。
  • ポイント:大学入試や高等数学への接続を見据え、抽象的な数学の体系性に基づいた「論理的思考力」と「厳密な数式処理能力」の育成が中心となっています。

◆ 次期学習指導要領アレンジ版(2026年5月審議まとめ案に基づく実践)

  • 単元・題材:新科目(現数学A・B・Cの再編領域)における「行列・ネットワークの基礎」
  • アプローチ現実の社会インフラや動態システムを「行列やグラフ理論(ネットワーク)」を用いて数理モデル化し、デジタルシミュレーションを活用して「社会の最適解」を導き出す
  • 具体的実践
    1. 【複合的な探究課題の設定】:防災学習や地域社会のインフラ課題と連動し、「大規模災害時における地域の避難経路の混雑緩和」をテーマに設定します。
    2. 【ネットワークの数理化(次期の本質)】:生徒は、地域の実際の地図をデジタル端末に取り込み、交差点を「ノード(頂点)」、道路を「エッジ(辺)」、各道路の道幅や歩行速度を「重み(係数)」として捉え、これを行列(隣接行列)やグラフ理論の概念を用いて数理的に構造化(モデル化)します数学的な見方)。
    3. 【シミュレーションによる最適解の創出】:現行のような「手計算の限界」を課さず、1人1台端末のシミュレーションソフト(Python等の簡易プログラムや専用ツール)を活用します。「特定の避難所に人が集中した際のボトルネック」を瞬時に特定し、確率や行列の計算アルゴリズムを回しながら、「混雑を最大30%緩和できる、時間差避難やルート分散の最適解」を論理的に導き出します。成果は自治体の防災課へ提案書として提出します(数学的な考え方)。
  • ポイント(現行授業との決定的な違い)
    • 新科目の目玉である「行列・ネットワーク」の社会実装:次期で再編・導入される高度な数学的概念(行列やネットワーク)を、単なる抽象的な計算問題に終わらせず、社会の安全や価値創造に直結する強力な武器として機能させます。
    • デジタル学習基盤を前提とした高度な探究:手計算で行えば数日かかる大規模な行列計算やシミュレーションを、1人1台端末とソフトウェアに委ねることで、生徒は「いかに現実を数理モデルに落とし込むか」「導き出された数値をどう社会に役立てるか」という、より高次の「数学的な見方・考え方」の創造的な発揮に集中できます。

5. おわりに

 次期学習指導要領への改訂に向けた議論は、これまでの「算数・数学」という教科のあり方を根底から変える可能性を秘めている。審議の変遷(7領域から5領域案等の議論を経ての「共通6分野」の確立)や教科名称の統一論議、中高の接続期における『数学ガイダンス』の導入検討、そして高校の数学A・B・Cを統合した新科目の構想は、すべて「子供たちのつまずきをなくし、数学の真の楽しさと社会的な価値を伝えること」という一点に集約される。

 これからの時代、数学は一部の得意な生徒だけのものではない。文系・理系を問わず、社会のあらゆる局面でデータを読み解き、論理的に最適解を導き出すための「市民的素養(リテラシー)」へとその位置づけを変えつつある。

 私たち教育関係者に求められているのは、こうした制度やカリキュラムの変更に受動的に対応することではない。「数学的な見方・考え方」という強力な道具を働かせることで、子供たちが目の前の複雑な社会課題に対して主体的に問いを立て、他者と協働しながら論理的に解決していくような、目の前の授業の質的転換である。

 来るべき2030年代に向けて、子供たちが数学を「未来を切り拓く力」として笑顔で学べるよう、今から小・中・高の壁を越えた対話を始め、一貫した指導のあり方を現場から力強く創造していこうではないか。

出典:中央教育審議会 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ[ONLINE]https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/110/index.html(cf.20260521)

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