- 次期学習指導要領では、目標の構造や内容表現の仕方などは、どのように改善されるのでしょうか。
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次期学習指導要領における目標の構造および内容表現の改善方向については、現行の基本的な枠組み(三つの柱や見方・考え方)を継承・成熟させつつ、学校現場での実用性を高めるため、「構造化・表形式化・デジタル化」を通じた大きな刷新を図ります。
次期学習指導要領における「構造化・表形式化・デジタル化」の刷新の意味は、以下の3点に集約されます。- 構造化:断片的な知識の羅列を排し、応用可能な「中核的な概念(Big Idea)」を最上位に据えた本質的理解への転換。
- 表形式化:長い文章を解体し、「概念・活動・資質能力」の連動を一目で把握できる二次元マトリクスへの視覚的刷新。
- デジタル化:紙からWeb(プラットフォーム)へ移行し、校種間の縦の系統性や教科間の横断的なつながりをタグ検索で可視化するシステム的刷新。
これは、教員が単元全体のつながりを直感的にデザインしやすくし、現場の授業改善とカリキュラム・マネジメントを強力に支援するための構造改革を意味しています。
※ 画像生成:Google Gemini(プロンプト:学習指導要領における「目標構造」の新旧比較)2026年5月16日生成
1 目標の「構造化・表形式化・デジタル化」
情報技術の高度化や不確実性の高まる現代社会において、学校教育には断片的な知識の暗記に留まらない、高次の資質・能力の育成が強く求められています。
これを受け、次期学習指導要領改訂においては、教育課程の基準としての実効性を高めるため、目標および内容表現の「構造化・表形式化・デジタル化」を一体的に推進することとしました。
現行の縦長の一元的なテキスト記述方式を見直し、各教科等における「中核的な概念(Big Ideas)」、それを働かせる「学習プロセス(活動)」、および「育成を目指す資質・能力」を二次元のマトリクス(表形式)として一体的に構造化します。
さらに、デジタルプラットフォーム上での活用を大前提とすることにより、小学校から高等学校までの縦の系統性や、教科等間における横の横断的なつながりを高度に可視化し、学校現場における主体的かつ組織的なカリキュラム・マネジメントを強力に支援するものです。
文部科学省の教育課程部会、および算数・数学ワーキンググループ(WG)の最新の審議内容・論点整理に基づき、はじめに、目標構造の改善の全体像を詳述し、次に、算数・数学科を例とした具体的な指導事例を解説します。
2 次期学習指導要領における目標構造と内容表現の改善
現行の学習指導要領(平成29年・30年告示)は、育成を目指す資質・能力を「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の「三つの柱」として整理し、大きな成果を上げました。
しかし、現場の教員からは「柱書(文章)と三つの柱(箇条書き)が縦に長く並び、情報が複雑で直感的に授業設計へ落とし込みにくい」といった運用の課題が指摘されてきました。
これを踏まえ、次期学習指導要領改訂では、現行の理念を継承・成熟させつつ、学校現場での実用性と教育効果を圧倒的に高めるため、「目標・内容の構造化・表形式化」および「デジタル化」を柱とした構造・表現の刷新を行います。
1. 学習指導要領における「目標構造」の新旧比較
| 比較項目 | 【現行】学習指導要領(平成29・30年告示) | 【次期】学習指導要領(改訂に向けた審議・論点整理) |
|---|---|---|
| 記述の基本形式 | 縦長の一元的なテキスト形式 (長い文章の後に、箇条書きが続く) | 二次元のマトリクス形式(表形式) (縦軸・横軸で要素の関係性を一目で可視化) |
| 目標の冒頭部分 (柱書) | 【文章による記述】 「見方・考え方を働かせ」「活動を通して」「資質・能力を育成する」を1つの長い文章で表現。 | 【表内の要素として分解・再配置】 文章での丸暗記を排し、「どの活動」が「どの資質・能力」と結びついているかを明確に整理。 |
| 目指す本質的理解 (知識の扱い) | 【個別の知識・技能の羅列】 三つの柱の(1)として、各学年で覚えるべき内容や処理の手続きを箇条書きで記述。 | 【中核的な概念(Big Idea)の明示】 単なる暗記ではなく、他でも応用できる「知識及び技能の統合的な理解」を最上位に設置。 |
| 資質・能力の扱い (三つの柱) | 【三つの柱に分断されがち】 (1)知識・技能、(2)思考・判断・表現、(3)学びに向かう力を、それぞれ独立した箇条書きで記述。 | 【三つの柱の「総合的な発揮」】 複雑な課題を解決するために、三つの柱を高次に融合・連動させて発揮する構造として記述。 |
| 現場での活用イメージ | 文脈が複雑なため、教員が「日々の指導案や単元計画」へ直感的に落とし込むまでに負担があった。 | 「この概念のために、この活動をして、この力を育てる」という横の連動(1つの行)で授業をデザインできる。 |
| メディア(媒体)の前提 | 冊子(紙の書類やPDF)として「上から下へ読み進める」ことを前提とした記述。 | デジタルビューア(プラットフォーム)での活用を前提とし、校種間や教科間をタグで相互参照できる。 |
2. 構造と内容表現における3つの革新的改善
次期改訂における目標記述と内容表現の主な変更点は以下の通りです。
- 表形式(マトリクス化)による直感的な可視化
現行の文章形式を廃止または簡素化し、「中核的な概念(Big Ideas)」、それを働かせる「学習プロセス(活動)」、そして「育成される資質・能力」を1つの表(マトリクス)として一体的に表現します。これにより、教員は「この活動がどの資質・能力の育成につながり、どのような本質的理解を目指しているのか」を一目で把握できるようになり、単元デザインのハードルが劇的に下がります。
- 「中核的な概念(Big Ideas)」の導入と知識の構造化
断片的な暗記に陥りがちだった個別知識の羅列を排し、複数の単元や日常生活でも応用(転移)できる本質的な理解=「中核的な概念」を明確に位置付けます。事実的な知識(Know)の上位に概念的な理解(Understand)を明示することで、生成AI時代に必要とされる「人間にしかできない概念的思考力」を育む記述へとブラッシュアップします。
- デジタル仕様(ビューアの高度化)への完全移行
次期指導要領は「紙の冊子を読む」ことだけでなく、「デジタルプラットフォーム上で活用する」ことを前提に記述を最適化します。データにタグ付けを行うことで、小学校から高校までの縦の系統性(カリキュラム・バーティカル・アライメント)や、教科間を横断する汎用的スキルのつながりを、教員がブラウザ上で瞬時に検索・参照できる仕組みを構築します。
3. 「三つの柱」の今日的な深化とアップデート
資質・能力の三つの柱自体は、評価の観点とも連動しているため維持しますが、各文脈の中身を次のように進化させます。
- 「知識・技能」:つながりを持つ「統合的な理解」へ
単なる公式や語句の暗記、手続き的な処理(例:計算ができること)にとどまらず、「なぜそうなるのか」という「意味理解」をセットにした「統合的な理解」として定義し直します。 - 「思考力・判断力・表現力等」:実社会の課題を解決する「総合的な発揮」へ
教科内の閉じた問いを解くだけでなく、統計データや不確実な社会的状況を分析し、最適な解を自ら導き出して他者に論理的に説明するような、高次の総合的な活用力を重視します。 - 「学びに向かう力・人間性等」:自己調整学習とメタ認知の強化
「関心・意欲」といった精神論的な捉え方から脱却し、自らの学習状況を客観的に捉え、必要に応じて学び方を修正していく「自己調整学習(メタ認知)」の重要概念を総則や目標レベルでより明確化します。
4. 目指す総括的転換
これまでの改訂が「教育内容の追加・削減」という量の議論に終始しがちだったのに対し、次期改訂は「教員が教育課程をデザインしやすくするための構造改革」です。
現場の負担を軽減する「調整授業時数制度」などの授業時数の柔軟化(余白の創出)と連動し、目標表現がシンプルかつ構造的になることで、子供たち一人ひとりのWell-being(幸福・本質的な学び)を実現する授業改善を強力に後押しします。
3 算数・数学科の具体的事例
算数・数学科は内容の系統性・積み上げが極めて強い教科である一方、学年が進むにつれて「数学を学ぶ意義が見出せない」「公式の暗記になってしまい楽しくない」と感じる児童生徒が増える課題がありました。
以下に、算数・数学WGで議論されている「意味理解の徹底」と「中核的な概念(Big Idea)」に焦点を当てた、新しいマトリクス表形式に準拠した指導事例(小学校高学年・中学校接続期:「変化と関係/関数」領域)を示します。
【指導事例1】比例・反比例、関数の基礎における「中核的な概念」の獲得
① 次期学習指導要領仕様の「構造化マトリクス表」(本単元の目標構造)
教員がビューア上で確認するデジタル指導要領の表示イメージです。
| 【中核的な概念(Big Idea)】 | 【学習プロセス(数学的活動)】 | 【育成を目指す資質・能力(三つの柱)】 |
|---|---|---|
| 二つの数量が「伴って変わる関係」には、決まった規則性(不変性)が隠れており、それらを式やグラフに表すことで、未知の事象を予測・制御できる。 | ① 日常の事象から伴って変わる数量を見出す活動。 ② 表・式・グラフを相互に往還し、不変な性質(積や商の一定)を発見する活動。 ③ 数学的モデルを現実の予測に適用する活動。 | (1) 知識・技能: 単なる計算処理ではなく、比例・反比例の本質(商や積の一定)の意味理解。 (2) 思考・判断・表現力等: 変化の特質を捉え、グラフや式を用いて妥当な予測を立て、根拠を説明する力。 (3) 学びに向かう力等: 数学の関係性が社会の予測(需要予測やAIの仕組み等)に繋がっている実感を持ち、自らの不十分な既習理解を調整しながら粘り強く課題を解決する態度。 |
② 授業実践の具体展開(改善の反映箇所がわかる解説付き)
【導入】現実世界の不確実な課題の提示
教員はデジタル端末を使い、校内の「自動販売機の売上データ」や「スマートフォンの充電残量と時間の関係」など、身近な事象を提示します。
- ★改善の反映ポイント[思考力・判断力・表現力等の総合化]:
従来の「最初から綺麗に比例する抽象的な数字の表 \(x\) が 1 のとき \(y\) は 2…)」を与えるのではなく、日常生活の雑多なデータから「二つの数量」を子供たち自身に見出させます。日常の課題に数学を適用するリテラシーを高めるWGの意向が反映されています。
【展開】「みはじ」などの解法テクニックからの脱却と、表・式・グラフの往還
児童生徒は、時間が経つにつれて変化する数量を表に書き出し、さらにグラフ(デジタル作図ツール)にプロットします。ここで教員は、「公式にあてはめなさい」とは言いません。
「 \(x\) の値が増えるとき、\(y\) はどうなっている?」「横に2倍になったとき、縦はどうなる?」「ずっと変わらない『決まった数(不変なもの)』はどこに隠れている?」と問いかけます。
- ★改善の反映ポイント[中核的な概念の深い理解 & 知識・技能の意味理解]:
算数・数学WGでは、「みはじ」や「くもわ」といった丸暗記のテクニックによる「見かけの『できる』」を厳しく戒め、最終的な意味理解の徹底を求めています。
生徒たちは「どれだけ変化しても、\(x\) と \(y\) の割合(商)が常に一定である」という不変の性質(Big Idea)に自ら気づきます。これこそが、単なる「計算の処理技能」から脱却した、次期指導要領の目指す「知識及び技能の統合的な理解」です。
【発展・評価】メタ認知による自己調整と学びの意味付け
授業の終盤、児童生徒たちは「この比例の考え方を使えば、10時間後のデータや、社会のトレンドも予測できるかもしれない」といった振り返りを記述します。また、途中でグラフの傾きの意味が分からなくなった生徒が、既習の「単位量あたりの大きさ」の単元にデジタル教科書で自ら戻って確認する姿が見られます。
- ★改善の反映ポイント[学びに向かう力・人間性等の自己調整学習 & デジタル化]:
デジタル仕様の指導要領・教科書環境が整うことで、生徒は「自分がどこでつまずいているか」をメタ認知し、学年の段差を越えて自律的に学びを修正(自己調整)できるようになります。単に「関心を持って取り組んだか」を評価するのではなく、「自らの思考のプロセスをどうコントロールしたか」を重視する記述の工夫がここに生きています。
【指導事例2】データの活用領域における「中核的な概念」の獲得
算数・数学科において、次期学習指導要領ワーキンググループ(WG)で特に重視されている「データの活用」領域(統計教育の高度化)を対象に、新しい「構造化マトリクス表」の視点に立った具体的な指導事例を解説します。
現行の「単にグラフを描く・平均値を出す」という手続き的な学習から、生成AI時代に最も必要とされる「不確実な事象から妥当な判断を導き出す」という本質的理解への転換を目指した事例です。
対象:小学校高学年〜中学校(データの分布・統計的探究プロセス)
① 次期学習指導要領仕様の「構造化マトリクス表」(本単元の目標構造)
| 【中核的な概念(Big Idea)】 | 【学習プロセス(数学的活動)】 | 【育成を目指す資質・能力(三つの柱)】 |
|---|---|---|
| データには必ず「ばらつき(不確実性)」があるが、集団としての傾向(分布)を可視化・数値化することで、批判的に物事を比較し、合理的な意思決定ができる。 | ① 実社会の問いからデータを収集・整理する活動。 ② ドットプロットや箱ひげ図、代表値を多角的に往還し、データの「偏り」や「散らばり」を分析する活動。 ③ 分析結果に基づき、根拠のある主張や意思決定を行う活動。 | (1) 知識・技能: 平均値や中央値の計算手順だけでなく、それらの特性や限界(外れ値の影響など)の意味理解。 (2) 思考・判断・表現力等: ばらつきのあるデータから傾向を読み解き、批判的に吟味して、他者を納得させる根拠を説明する力。 (3) 学びに向かう力等: 日常の主観的な思い込みを排し、データに基づいて自らの判断を修正(自己調整)しながら、社会の不確実な課題に数学を役立てようとする態度。 |
② 授業実践の具体展開(改善の反映箇所がわかる解説付き)
【導入】主観や思い込みを揺さぶる「現実の問い」の提示
教員は児童生徒に、ある地域の「コンビニA店とB店の待ち時間データ(各30人分)」をデジタル端末で提示します。両方の店舗とも「平均待ち時間は3分」です。「どちらの店に行くのがより安心(合理的)か?」を問いかけます。
- ★改善の反映ポイント[思考力・判断力・表現力等の総合化]:
従来の「最初から整理された教科書の数字で平均値を計算させる」のではなく、実社会の「どちらを選ぶべきか」という正解が一つではない意思決定の文脈(問い)からスタートします。[PPDAC(問い・計画・データ・分析・結論)サイクルを重視するWGの審議内容]が反映されています。
【展開】計算処理はデジタルに任せ、複数の指標を「往還」する分析
児童生徒は「平均値が同じなら、どちらでも同じだ」と考えますが、データをドットプロットやヒストグラムに表すと、A店は「全員が2分〜4分の間に綺麗に収まっている(ばらつきが小さい)」のに対し、B店は「ほとんどが1分だが、時々10分以上待たされる人がいる(ばらつきが大きく、外れ値がある)」ことが分かります。
教員は「平均値という一つの数字だけで、集団の性質をすべて説明できるかな?」と問いかけます。
- ★改善の反映ポイント[中核的な概念の深い理解 & 知識・技能の意味理解]:
手計算によるグラフ描画に時間を費やすのではなく、[デジタルツールの活用を大前提]とします。生徒は、平均値・中央値・最頻値などの代表値や、データの散らばり(範囲や四分位範囲など)を画面上で切り替えながら相互に往還します。
これにより、「データは平均値だけで見てはいけない。ばらつき(分布)を見ることが重要である」という不変の性質(Big Idea)に自ら気づきます。単なる用語の暗記ではない、「知識及び技能の統合的な理解」がここで実現します。
【発展・評価】批判的吟味とメタ認知による自己調整
児童生徒たちは、「1分でも早く買いたいギャンブル派ならB店、遅刻したくないビジネスパーソンならA店を選ぶべき」など、データのばらつきを根拠に論理的な主張を記述します。
また、振り返りの段階で「テレビのニュースで『平均寿命』や『平均年収』を見たときも、データのばらつきや偏りを疑わなければいけない」と、自らの「社会の見方」をアップデートさせます。
- ★改善の表現ポイント[学びに向かう力・人間性等の自己調整学習 & デジタル化]:
単に「統計の授業を楽しく受けたか」ではなく、「自分の主観的な思い込みをデータによってどう修正(自己調整)できたか」、そして「その数学的概念が社会を生きる上でどう働くか(Well-beingへの貢献)」をメタ認知させる記述へと評価の視点が変わります。デジタル仕様の指導要領により、この「データの活用」の視点が、理科の実験データの分析や、社会科の人口問題の考察とシームレスに繋がっていることを教員側も意識して指導できるようになります。
まとめ
指導要領の「構造化・表形式化・デジタル化」は、単なる記述様式の変更ではなく、日本の教育を「制度の消化」から「真の学びのデザイン」へと解放するための構造改革です。
これから現場に求められるのは、細分化された知識の暗記に逃げることなく、教科の本質である「中核的な概念」に子供たち自身がたどり着くための探究のプロセスを、いかに豊かに設計できるかという視点です。
教員は、形式的な指導案づくりや煩雑な規準作成といった既存の業務負担から脱却し、デジタルプラットフォームがもたらす「横断的なつながり」や「時間の余白」を活かして、一人ひとりのWell-beingに伴走する役割へとシフトしていく必要があります。
予測困難な時代だからこそ、正解を教え込むのではなく、不確実な事象から数理的・批判的に未来を予測する力を育むこと。この新しい地図を手に、自律的に学びを調整し続ける子供たちを育てることが、我々に課されたこれからの方向性といえます。
資料名:資料1「目標・内容の構造化・表形式化等」 / 資料1-1「検討資料(1)目標・内容の構造化・表形式化等」
資料名:教育課程企画特別部会 論点整理(報告)検討資料「論点整理 一枚紙」
文部科学省. 中央教育審議会 初等中等教育分科会 総則・評価特別部会(第1回)資料1「目標・内容の構造化・表形式化等」. 2025-10-14. https://www.mext.go.jp/content/000388670.pdf, (参照 2026-05-17).