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数と式・図形と幾何・関数と変化・データの活用・数理探究のネーミングから見える次期学習指導要領のねらい

 次期学習指導要領における算数・数学科の新領域案(「数と式」「図形と幾何」「関数と変化」「データの活用」「数理探究(仮称)」)の名称について、なぜ「数と式」のように「と」で結ぶものと、「データの活用」のように「と」がないものが混在しているのか。そのネーミングの意図、および今回の名称見直しに至った背景と理由は何か。

12年間の体系共通化(見直しの理由):小学校から高校(数学Ⅰ)までの教科・領域名を一貫した5つの体系に共通化・構造化し、校種間のギャップや学びの分断を解消するためである。
道具×目的の掛け算(「と」がある3領域):「数と式」「図形と幾何」「関数と変化」の結びつきは、従来の数学的ジャンル(道具・概念)に、現実世界を捉える視点や操作(目的・価値)をドッキングさせたためである。
自立した行動・実践(「と」がない2領域):「データの活用」「数理探究」に「と」がないのは、何かを並列させたものではなく、それ自体が1つの独立した「完結した実践・ミッション」を表しているためである。

1 シンプル解説

 このネーミングのルール(「と」で繋がっているものと、そうでないものの違い)を紐解くと、次期学習指導要領が算数・数学教育をどのように変えようとしているのか、その意図が浮き彫りになります。
 結論から言うと、ネーミングの理由は、「と」で繋がっている3つの領域は【道具(手法)× 目的(価値)】の掛け算を表しており、「と」がない2つの領域は【それ自体が1つの自立した行動・実践】を表しているからです。

1. なぜ「〇〇」と「〇〇」なのか?(3つの領域)
 これらは、従来の「学校で習う数学のジャンル(形式)」に、デジタル社会で必要とされる「現実の捉え方(本質)」をドッキングさせたため、「と」で結ばれています 。
 「数」と「式」:これまでは小学校の「数(計算)」と中学校の「式(文字式)」で分断されていました。「具体的な『数』を扱うこと」「それを『式』にして抽象化・一般化すること」は地続きのセットである、という意味で繋がれました。
  「図形」と「幾何」:目に見える形を捉える「図形(小学校)」、その性質を論理的に証明していく「幾何(中学校以上)」を融合させました。見た目の直感論理的な思考をセットで育てるためのネーミングです。
  「関数」と「変化」:最も重要です。単に「関数」という数式のルールを覚えるだけでなく、現実世界の「あらゆる物事の『変化』や連動」を捉えるために割り切って関数を使う、という道具(関数)と目的(変化)のドッキングです。

2. なぜ「データの活用」と「数理探究」には「と」がないのか?
 この2つに「と」がないのは、何かと何かを組み合わせた言葉ではなく、「それ自体が1つの独立した『目的』であり『行動』」だからです 次期学習指導要領に向けた内容の 重点化・構造化のあり方。
 「データの活用」:これは「データ」と「活用」を並列に並べているのではなく、「データを(社会で)活用する」という1つの完結した動詞的・実践的なテーマだからです。データサイエンス教育の柱として、「計算する」のではなく「使いこなす(活用する)」という一塊の行動を示しています。
  「数理探究(仮称)」:これも「数理」と「探究」に分かれているのではなく、「数理的なアプローチで(世の中の謎や課題を)探究する」という、STEAM教育に直結する1つの自立した「プロジェクト(科目・領域名)」だからです。

2 深掘り解説

1. 現行学習指導要領における算数・数学科の領域名称と設定理由

 現行の学習指導要領(小学校は2020年度、中学校は2021年度、高等学校は2022年度から順次全面実施)において、算数・数学科の領域名称は、各校種の教育目的や児童生徒の発達段階に合わせて異なる表現形式が採用されています。

小学校算数科における「概念と操作」の結びつき
 現行の小学校算数科は、A 数と計算B 量と測定C 図形D データの活用(※前々回の「数量関係」から改称)の4つの領域で構成されています。
 文部科学省の『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編』によると、A領域やB領域のように「〇と〇」という表現形式をとっている理由は、「対象とする概念とそれに対する操作とをまとめて領域の標題としているから」です。
 算数・数学の学習においては、対象となる数学的なオブジェクト(概念)を理解することと、それに対してどのような働きかけを行うか(操作)を密接に結びつけて指導することが不可欠です。
「数と計算」:「数(概念)」の理解と、それらを統合・分離・発展させる「計算(操作)」
「量と測定」:長さや面積などの「量(概念)」の理解と、単位を基にその大きさを数値化する「測定(操作)」
 一方で、現行の「C 図形」については、形そのものの性質に主眼が置かれ、操作の意味合いが単一の言葉に限定されにくいため単独の名称となっています。

中学校数学科における抽象化と「構造・関係」への移行
 中学校数学科に入ると、領域名称は、 A 数と式B 図形C 関数D データの活用 のように変化します。
 中学校では、小学校で学んだ「具体的な数や量」から、文字を用いた「抽象的な数理の構造」へと学びがステップアップします。そのため、小学校の「計算」という具体的な操作の言葉が、文字を使って関係性を記述する「式」へと改称され、「数と式」という領域名になります。また、小学校の「量と測定」や、伴って変わる数量関係の基礎は、事象の依存関係を数理的に捉える「関数」という独立した領域へと昇華されます。

高等学校数学科における「科目制」への発展
 高等学校では、小・中学校のような一元的な「領域」ではなく、「数学Ⅰ」「数学Ⅱ」「数学A」「数学B」「数学C」といった独立した「科目」へと構造が発展します。各科目の中に「数と式」「図形と計量」「二次関数」「場合の数と確率」といった単元が配置され、専門的な数学の体系へと分化していきます。

2. 次期学習指導要領における5体系への一貫した再編の意図

 次期学習指導要領(2030年代初頭より順次実施予定)の算数・数学教育における最大の見直しは、「小学校から高校(数学Ⅰ)までの12年間の教科・領域名を一貫した5つの体系に共通化・構造化すること」です。
 文部科学省の中央教育審議会における議論や論点整理(2025年発表)にみられる名称変更の背景には、日本の児童生徒のデジタル読解力の課題や、AI・データサイエンス教育、STEAM教育の推進という社会的な要請が強く働いています。
 新たな5体系のネーミングの理由と意図を具体的に解説します。
【次期学習指導要領における算数・数学科の5体系】
①  数と式    ──  概念と操作を地続きに(小・中・高一貫)
②  図形と幾何  ──  直感的な形から論理的な証明への架け橋
③  関数と変化  ──  現実世界の連動・動態を捉える目的の明確化
④  データの活用 ──  単なる統計処理を超えたデータサイエンスの場
⑤  数理探究   ──  算数・数学の力を総動員して社会をハックする

1. 「〇と〇」の形式をとる3つの領域の意図

 新体系における「数と式」「図形と幾何」「関数と変化」の3領域は、現行の小学校算数科が重視していた「【道具(手法・概念)】と【目的(価値・操作)】の掛け算」の精神を、中学校・高等学校まで拡張して適応させたものです。

① 「数と式」
 小学校の「数と計算」と、中学校以上の「数と式」の断絶を解消するために名称が統一されます。
 単なる算術(四則計算の習熟)にとどまらず、早い段階から「数を文字や式に置き換えて、事象を一般化して捉える」という、代数的な見方・考え方を12年間シームレスに繋ぐ狙いがあります。
② 「図形と幾何」
 小学校の「図形」という直感的な活動と、中学校以上の「幾何(論理的な証明や性質の考察)」を「と」によってドッキングさせました。
 これまでは「小学校の図形は楽しかったが、中学校の証明(幾何)になった途端にわからなくなる」という段差がありました。形を観察して性質を見出す(図形)ことと、それを論理的に筋道立てて説明する(幾何)ことは、本来一体の活動であるというメッセージが込められています。
③ 「関数と変化」
 現行の「関数」という純粋数学的な言葉に、現実世界の状態を表す「変化」を結合させました。
 単に座標平面にグラフを描いたり、関数の式を求めたりする技術の習得がゴールではありません。「現実世界の、伴って変わる2つの数量(=変化の動態)」を数理的にキャッチし、将来の予測や意思決定に活かすという【道具(関数)と目的(変化)】の関係を明確にしています。

2. 「と」を含まない2つの領域の意図

 一方で、「データの活用」と「数理探究」の2領域には、並列を表す「と」が使われていません。
 これは、何かと何かを組み合わせたジャンルではなく、「それ自体が1つの独立した『完結した実践・ミッション』」であることを表しているためです。

④ 「データの活用」
 現行の名称を引き継ぎつつ、小学校から高校まで貫通するデータサイエンス教育のコアとして位置づけが最強化されました。
 「データ」と「活用」を分けて学ぶのではなく、「データを社会の課題解決のために使いこなす(活用する)」という一塊の動詞的・実践的なテーマです。平均値や標準偏差を計算させることではなく、「不確実な情報の中から、批判的吟味(クリティカル・シンキング)を経て正しい判断を導き出す」という独立したリテラシーの獲得を目的としています。
⑤ 「数理探究」
 次期学習指導要領で新設される、文理融合・STEAM教育を数学の立場から牽引する最も象徴的な領域です。
 これも「数理」と「探究」が分離しているのではなく、「数理的なアプローチによって現実の謎や社会のリアルな課題を解き明かす」という1つのアクティブなプロジェクト・行動そのものを指しています。従来のペーパーテスト用の座学から脱却し、前述の4つの領域で培った数学的な見方・考え方を総動員して、社会のシステムやデータをハックする実践の場として設定されました。

3 教科名統一と5体系化がもたらす教育の未来

 次期学習指導要領における領域名称の変更は、単なる看板の掛け替えではありません。

 日本の従来の算数・数学教育は、「小学校の算数(日常生活の計算)」から「中学校・高校の数学(学問としての抽象的な処理)」への移行時に生じるギャップが、子供たちの数学嫌いや読解力低下(PISA調査における記述・熟考の弱さ)を招く一因と指摘されてきました。

 校種を越えて「5体系」へと一貫して構造化し、小学校から「数学」の言葉に触れさせることで、子供たちは「今、自分は12年間の数理ロードマップのどこを歩んでおり、それが将来どのように社会を生き抜く武器(データサイエンスや探究の力)になるのか」を常に自覚できるようになります。概念と操作を融合させ、さらにそれを社会の実践へと繋げるという、文部科学省の極めて緻密な構造改革の意志が、この新しい領域名には凝縮されています。

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