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次期学習指導要領における、音楽科教育の改善の方向性

 次期学習指導要領において、音楽科教育は、どのように改善されるのでしょうか。

 次期学習指導要領における音楽科教育は、従来の「活動・技能偏重」の授業から、「音楽への関わり方」を軸とした資質・能力を育む探究型の授業へと大きく改善されます。
 最優先の改善点は、バラバラだった知識や技能を、音楽の本質的な概念と結びつけて「構造化」することです。これにより、単なる「歌唱・器楽の形式的な繰り返し」を脱却します。
 また、タブレット端末のDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)ソフト等の日常的な活用により、表現や創作において児童生徒が実音を聴きながら試行錯誤するプロセスを重視します。さらに、小・中学校の学びを基盤に、高等学校ではより専門的な創造的探究へと発展させ、校種間の接続を滑らかにします。
 評価においては、学期末の一斉テストを脱却し、単元を通した「指導と評価の一体化」による形成的評価へとシフトし、教員の評価負担軽減と生徒の確かな学びを両立させます。

1 改善の概要

 令和7年9月25日の「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」およびその後の芸術・音楽ワーキンググループ(WG)での審議を経て、次期音楽科教育の改訂の方向性が定まりました。本改訂は、現行指導要領が抱えていた「活動あって学びなし」という形骸化の克服を目指すものです。以下にその具体的な改善の概要を詳述します。

1. 「音楽への関わり方」を軸とした資質・能力の構造化
 これまでの「歌う」「聴く」といった個別の活動の成立そのものを目的とするのではなく、「音楽の構造や背景とどのように関わるか」という視点から資質・能力を再定義します。知識や技能が孤立して記憶されるのを防ぎ、実社会や生涯にわたって生きて働く知恵へと統合します。

2. 単元を貫く「本質的な問い」による探究型授業への転換
 「この曲の美しさはどこから生まれるのか」といった、単元全体を貫く「本質的な問い」を指導計画の核に据えます。児童生徒が見通しを持って表現(表現の工夫)と鑑賞(根拠のある捉え方)を往還し、主体的に深く思考する授業デザインへと刷新します。

3. ICT(DAWソフト等)を活用した表現・創作活動の日常化
 タブレット端末に搭載されたDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)ソフトやループ音源、デジタル楽譜を日常的な学習ツールとして定着させます。楽譜の読み書きに依存せず、すべての児童生徒が「実音を直接操作して思考・推敲できる」環境を実現し、表現・鑑賞の質を高度化します。

4. 伝統音楽教育の実質化と地域連携の強化
 我が国や郷土の伝統音楽について、単なる知識の暗記や一過性の鑑賞に留めず、地域の専門家や指導者と連携した実技体験を導入します。音楽が持つ文化的・歴史的背景を生活や社会と結びつけて深く理解させます。

5. 小・中・高の系統的接続と高等学校の科目再編
 小・中学校での共通事項(音楽を構成する要素等)の確実な定着を前提とし、高等学校においては、資質・能力ベースの科目再編(「音楽Ⅰ」「音楽Ⅱ」等)や「芸術探究」への発展を見据えた指導を行い、校種間の接続を滑らかにします。

6. 「指導と評価の一体化」の徹底と形成的評価へのシフト
 従来の学期末の一斉技能テストやペーパーテストに偏った評価を改め、学習プロセスにおける児童生徒の変容を見取る「形成的評価」へとシフトします。観点別評価の簡素化を図りつつ、授業内での見取りを充実させることで指導の改善に直結させます。

2 次期学習指導要領 改善ポイント対比一覧(音楽科・芸術科音楽)

校種改善視点現行の内容および課題次期学習指導要領における改善点
小・中共通①資質・能力の構造化知識・技能が個別の活動(合唱・合奏等)ごとに孤立しており、他に応用しにくい。「音楽への関わり方」を軸に知識・概念を体系化し、資質・能力を構造的に育成する。
小・中共通②授業デザインの刷新「活動あって学びなし」と言われる、一斉画一的な技能の繰り返し授業が主流。単元を貫く「本質的な問い」を設定し、表現と鑑賞を往還する探究型の授業へ転換。
小・中共通③ICTによる表現の保障楽譜の読み書きや楽器の演奏技術がボトルネックとなり、創作・表現に苦手意識が生まれる。DAWソフトやデジタル音源を活用し、誰もが実音を聴きながら創造的に試行錯誤できる環境を構築。
小・中共通④学習評価の適正化三観点による評価が細分化され、教員の評価負担が大きく、生徒の学習プロセスに還元されない。授業内の「見取り(形成的評価)」を重視し、評価を指導改善に直結。学期末の一斉評価を簡素化。
小・中共通⑤「共通事項」の活用「共通事項(音色、リズム等)」が用語の暗記に留まり、実際の表現や鑑賞の工夫に生きていない。音楽を構成する要素を「知覚」し、それが生み出す特質を「感受」するプロセスを思考の軸にする。
小・中共通⑥伝統音楽教育の実質化各校の備品や教員の専門性に左右され、日本の伝統音楽の指導内容が形骸化・縮小化している。地域の専門指導者の参画やデジタル和楽器音源の導入により、質が高く多様な伝統音楽体験を確保。
小・中共通⑦身体表現と実音の融合歌唱や器楽において、身体的な感覚や響きの変化を捉える指導が不足し、形式的な演奏になりがち。演奏時の身体感覚や音空間の響きを意識させ、リアル(生音)とデジタルの良さを融合した指導へ。
小・中共通⑧社会・生活とのつながり学校で学ぶ音楽が、児童生徒の日常の音楽体験や実社会の音楽文化と乖離している。社会の音楽文化や他教科(国語・歴史等)と連携し、音楽の社会的価値を学ぶ教科横断的視点を導入。
中学校⑨変声期等への配慮と個別最適一斉の歌唱指導において、変声期の生徒や苦手意識を持つ生徒への個別対応が不十分。デジタル音源でのキー変更や個別練習アプリ等を活用し、一人ひとりの特性に応じた個別の学びを保障。
中・高接続⑩校種間の系統性の確立小・中の学びが、高等学校の芸術科(音楽)の多様な選択科目へ十分に引き継がれていない。小・中で培った共通の資質・能力を土台に、高校でのより高度な「芸術探究」へと滑らかに接続。
高等学校⑪科目構造の再編従来の「音楽Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」が、高度な演奏技術や専門知識の習得に偏りがちであった。資質・能力ベースでの科目再編を行い、社会の音楽文化を批評・創造する探究科目を強化。
小学校⑫専科指導の充実と連携小学校における学級担任の音楽指導への負担感や、専科教員との指導レベルの格差がある。小学校高学年における専科指導の拡大と、中学校教員との連携による指導内容の平準化を推進。

3 改善の具体

(1) 全教科共通の改善ポイント

1. 「主体的に学習に取り組む態度」の数値評価(評定)からの完全除外
 現行の観点別学習評価において最も現場の負担となり、客観性の担保が難しかった「主体的に学習に取り組む態度」のA・B・Cによる目標準拠評価(数値評価)を、すべての教科・科目において廃止し、評定の積算対象から除外します。
 これにより、点数のための「見せかけの態度」を追う評価から脱却します。
 今後は、児童生徒が自らの学びを調整する姿を「見取る姿(仮称)」として整理し、通知表には所見欄や記号(〇や✓など)で記述的に付記する方向へと役割を再定義し、教員の評価業務負担を劇的に軽減します。

2. 評価の二大観点化(数値評価の重点化)への移行
 上記の評価改革に伴い、今後の通知表や指導要録における数値的な観点別評価は、「知識・技能」および「思考・判断・表現」の2観点へと重点化されます。
 これにより、学力として客観的に計測・評価できる側面に数値評定を集中させ、生徒や保護者に対しても「何が身に付き、どこで思考が深まったか」をより明確かつ納得感のある形でフィードバックできる体制を全教科等で確立します。

3. 生成AI・SNS時代に対応する情報活用能力(メディアリテラシー)の全教科展開
 生成AIの急速な普及やデジタル社会の深化を受け、情報活用能力を「あらゆる学習の基盤」としてすべての教科で育成します。
 単に端末を「使う」段階から、提示された情報やAIが出力したテキストの「信憑性や発信者の意図を批判的に読み解く力(ファクトチェック*2) ・クリティカルシンキング*3))」へと指導を高度化します。
 また、著作権、情報モラル、データの適切な扱いを、各教科の学習活動(理科の実験データ処理、社会のレポート作成など)に確実に組み込みます。

*1) 「ファクトチェック」… 政治家の発言やニュース、SNS上の情報が「事実(ファクト)に基づいているか」を客観的な証拠から調査し、その結果と検証プロセスを公表する営み。
*2)「クリティカル・シンキング」… 情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠が妥当であるかを「多面的・多角的に検討する」力のこと。単なる批判や揚げ足取りではなく、より客観的で納得感のある結論を導くための建設的な思考プロセスを指す。

4. カリキュラムの構造化(目標・資質能力の明確な「可視化」)
 これまでの指導要領で示されてきた「資質・能力の三つの柱」を、学校現場がより扱いやすく実質化できるよう、目標の構造化を図ります。各教科において、学習の目的や場面に応じた「機能カテゴリ」や「資質・能力の段階的な見通し」を明瞭に提示します。
 これにより、教師が「何のためにこの単元を教えるのか」を見失うことなく、単元同士や他教科とのつながりを意識した、見通しの良い教育課程(カリキュラムマネジメント)の編成を全教科で可能にします。

5. デジタル学習基盤(タイピング等)の早期定着と指導の系統化
 GIGAスクール構想による1人1台端末を、すべての教科の授業で空気のように使いこなすため、デジタル入出力のスキルを全教科の基盤として位置付けます。
 特に小学校低学年等のスタートアップ期における「キーボード入力(タイピング)」や「音声入力」の指導手順を全教科の共通基盤として体系化し、「手書きによる身体的な習得」と「ICTによる効率的な表現」のバランスを取りながら、どの教科の授業でも端末を思考の道具としてスムーズに活用できるようにします。

6. 対話の質の向上と「協働的な合意形成・課題解決」の重視
 アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の形骸化を防ぐため、すべての教科における「話し合い活動」の質を向上させます。単なる感想の交流や同調的なグループワークにとどまらず、「異なる意見を整理し、客観的根拠をもとに調整して、新たな最適解を導く対話(合意形成のプロセス)」を重視します。
 各教科の特質に応じた対話の方法(数学的な説明、道徳的な価値の議論など)をステップバイステップで指導します。

7. 探究的な学習プロセスの標準化と他教科への転換
 「総合的な学習(探究)の時間」で培う探究のプロセス(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)を、すべての教科の日常的な授業に標準的に組み込みます。
 単なる知識の暗記に終始せず、「問い」から始まる授業デザインへと全教科でシフトし、国語科で培った論理的思考や説明力をベースに、理科、社会、算数・数学等において、自ら仮説を検証しレポートにまとめる力を共通して育成します。

8. 幼児期から小学校、中学校から高校への「接続期(スタートアップ)」のカリキュラム強化
 校種間の移行期における学習の段差(いわゆる中1ギャップや小1プロブレム)を解消するため、全教科で接続期の指導を強化します。
 小学校低学年における「幼児期の豊かな経験をスムーズに各教科の学びに繋げるスタートアップカリキュラム」の構築や、高等学校における多様な生徒の進路に応じた「柔軟な教科・科目の選択配置」など、一貫した資質・能力の育成を見据えて教育課程の連続性を担保します。

(2) 音楽科の改善ポイント

 現行の音楽科教育における最大の課題は、合唱や合奏、鑑賞といった個別の活動を行うこと自体が目的となってしまい、そこで培われるべき「生きて働く資質・能力」が児童生徒の中で構造化されていない点にあります。これらを克服するため、次期学習指導要領では重要度が高く、かつ校種(小学校・中学校)に共通する内容から順に、以下のような具体的な改善を行います。

1. 「本質的な概念」を中心とした知識・技能の構造化(最重要点)
 現行の「音楽の用語や記号を覚える」「特定の曲を演奏できる」という表面的な習得を脱却します。例えば「テンポや強弱の変化が、曲の感情や情景の表現にどう影響を与えるか」といった、音楽の本質的な仕組み(概念)を理解させます。これにより、別の曲に出会ったときにも自ら応用できる体系的な知識へと構造化します。

2. 「本質的な問い」を核とした表現と鑑賞の往還(授業デザインの刷新)
 「この楽曲の魅力を伝えるために、私たちはどのような表現の工夫ができるだろうか」という単元全体を貫く「本質的な問い」を設定します。児童生徒は、自らの表現を追求するために何度も原曲や友達の演奏を「鑑賞」し、そこで気づいたことを再び自分の「表現」にフィードバックします。この往還的なプロセスを通じて、主体的・対話的で深い学び(探究型学習)へと授業を刷新します。

3. DAWソフト等のICTを活用した「実音による思考・推敲」の保障(指導法の革新)
 従来の創作(音楽づくり)では、五線譜への記譜や楽器の演奏技能が壁となり、生徒が頭の中で描いた音楽を形にできない課題がありました。次期学習指導要領では、タブレット端末に導入されたDAWソフトやループ音源を日常的に活用します。楽譜の読み書きに習熟していなくても、画面上で音を組み替え、即座に「実音」を聴きながら「もっと切ない響きにするにはどうすればよいか」と試行錯誤(思考・判断・表現)できる環境を保障します。

4. 「指導と評価の一体化」による形成的評価へのシフト(評価の適正化)
 学期末の一斉技能テストや、細分化された観点別ペーパーテストによる評価は、授業時間の圧迫と教員の過度な負担を生んでいました。今後は、単元の途中で児童生徒がどのように変容したか、タブレットに残された録音データやワークシートを基に授業内で「見取る(形成的評価)」ことを重視します。評価結果をその場での指導改善や生徒への助言に直結させ、評価のための評価を廃止します。

5. 社会・生活、および他教科との教科横断的な連携(音楽文化の理解)
 学校内の音楽にとどまらず、地域文化(伝統芸能や郷土芸能)の継承者と連携した授業を展開します。また、歴史(時代背景の理解)や国語(歌詞の解釈と表現)といった他教科との連携を強化し、音楽が実社会で果たしている役割や文化的価値を多角的に捉えさせます。

6. 小・中・高の系統的接続と高等学校の探究的再編(校種間接続)
 小学校・中学校で培った「共通事項の知覚・感受」を強固な土台とし、中学校での変声期に応じた個別最適な指導を経て、高等学校の芸術科(音楽)へと接続します。高等学校では、専門的な実技の向上だけでなく、現代の音楽文化をクリティカルに批評し、新たな価値を創造する「芸術探究」への発展を見据えた柔軟な科目構造へと再編します。

4 今後の取組

 次期学習指導要領の全面実施に向け、各学校および音楽指導者は、これまでの技能偏重の授業スタイルから、児童生徒が主体的に音楽の美しさや構造を探究する「資質・能力ベース」の授業へと完全に舵を切る必要があります。

 具体的な今後の取組の第一歩は、単元を貫く「本質的な問い」を中心としたカリキュラム・マネジメントの確立です。各学校は、単なる年間指導計画の踏襲を止め、表現と鑑賞が有機的に連動する単元デザイン(シラバス)への再構築を早急に進めなければなりません。

 第二に、DAWソフトやデジタル音源を活用した指導環境の整備と、教員のICT指導力の向上です。端末を単なる調べ学習の道具にするのではなく、「実音を操作して思考・推敲するツール」として日常化するための校内研修の充実が不可欠です。

 第三に、評価方法の抜本的な見直しです。学期末の一斉評価を削減し、授業内での見取り(形成的評価)を仕組み化することで、「指導と評価の一体化」を具現化しつつ、教員の業務効率化を同時に達成します。さらに、地域の伝統音楽指導者や他教科との積極的な連携を推進し、社会に開かれた音楽教育のネットワークを構築していくことが求められます。

出典:教育課程部会 芸術ワーキンググループ[ONLINE]https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/113/siryo/mext_00008.html(cf.20260517)
参考:中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程企画特別部会『教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)』(令和7年9月25日)第4章 各教科等の改訂の方向性
参考:中央教育審議会 初等中等教育分科会 芸術・音楽ワーキンググループ(WG) 配布資料「今後の音楽教育における資質・能力の育成と指導・評価の在り方について(論点検討資料)」
参考:文部科学省「学校教育におけるICT活用推進事業」および「次期学習指導要領に向けた研究開発学校」研究成果報告

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