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次期学習指導要領における、図画工作科・美術科教育の改善の方向性

 次期学習指導要領において、図画工作科・美術科教育は、どのように改善されるのでしょうか。

 次期学習指導要領における図画工作科・美術科教育の改善のポイントは、「感性と知性の融合」および「学習評価の抜本的な簡素化」の2点に集約されます。

 感覚的な活動に偏りがちだった「見方・考え方」に「知性」の文言が明記され、対象の造形的な特徴や文化的背景を客観的に捉えて表現や鑑賞に生かす、質の高い学びへと転換します。授業づくりを窮屈にしていた最大の要因である「主体的に学習に取り組む態度」のABC段階評価は一律で廃止されます。代わりに、粘り強い試行錯誤や「主体的な調整」が見られた場合にのみ「〇」を付記する新方式へと転換し、現場の過度な評価負担を解消します。

 1人1台端末を活用して制作プロセスを客観視する自己調整学習を促し、他教科や美術館等と有機的に連携しながら、生涯にわたって芸術の美しさや価値を深く味わう力を育むことが今回の改訂の核心です。

1 改訂に向けて

 次期学習指導要領における図画工作・美術科の改訂は、現行の資質・能力を引き継ぎつつ、「知性」を明記した見方・考え方へのアップデートと、主体的に学習に取り組む態度のABC評価を廃止し「◯付記方式」へ転換する評価の簡素化が中心となります。
 また、小中高を通じて、他教科等との有機的連携、1人1台端末を活用した制作プロセスの自己調整、審美教育の強化が推進されます。
 以下、中央教育審議会教育課程部会芸術ワーキンググループの最新審議(2026年時点想定)に基づく具体的な改善ポイントを解説します。

2 次期学習指導要領 改善ポイント対比(図画工作科・美術科)

校種改革・指導の視点現行学習指導要領次期学習指導要領(芸術WG最新審議案)
共通「見方・考え方」の再整理「感性を働かせ、対象や情報の…」という感覚的・体験的な捉え方への偏重が課題。「芸術的な感性及び知性を働かせて捉え」に改訂。造形要素の客観的分析や文脈的理解(知性)を明記。
共通学習評価の抜本的簡素化「主体的に学習に取り組む態度」について、題材ごとに細かくABCの3段階で総括評価。現場の多忙化を招く。態度のABC評価を廃止。思考・判断・表現のプロセスで、粘り強い試行錯誤や「主体的な調整」が見られた場合に「◯」を付記する新方式へ転換。
小学校「図画工作」内容の構造化各学年ごとに「〜について表現する」「〜について鑑賞する」といった冗長な文章表現。要素が並列的。全教科共通の「表形式化・構造化」を全面的に導入。造形的な知識・技能が、どのように表現や思考の深化につながるかを一目で対応可能に。
小学校他教科等や地域社会との連携造形活動が図工室や教室内だけで完結しがちであり、生活や実社会との有機的なつながりが限定的。地域の美術館やアーティスト等の外部資源、国語・理科などの他教科と「有機的な連携」を図る指導枠組みを明確化。
中学校表現(絵画・彫刻、デザイン・映像等)既成の技法や表現形式の習得に偏りがちであり、生徒自身が「問い」を立てて独自のテーマを追究する機会が不足。1人1台端末等も活用し、制作プロセスの記録や言語化を通じて、自らの造形表現を客観視し「主体的に調整」する力を重視。
中学校鑑賞の質的深化作品の「よさや美しさ」を個人の感想として感覚的に捉える活動が中心。異なる時代や地域の作品を「比較」する指導の充実。表現の共通性や固有性、生活や社会、伝統文化との関連を構造的に深化。
高等学校「芸術科(美術・工芸)」の審美教育専門的な技法や知識の記述が中心であり、高校段階で深めるべき「芸術の価値」が曖昧。「価値意識をもって芸術のよさや美しさを深く味わう」という審美教育としての本質(芸術の意味や価値の追究)を強化。

3 改善のポイント詳細解説

(1) 全教科共通の改善ポイント

1. 「主体的に学習に取り組む態度」の数値評価(評定)からの完全除外
 現行の観点別学習評価において最も現場の負担となり、客観性の担保が難しかった「主体的に学習に取り組む態度」のA・B・Cによる目標準拠評価(数値評価)を、すべての教科・科目において廃止し、評定の積算対象から除外します。
 これにより、点数のための「見せかけの態度」を追う評価から脱却します。
 今後は、児童生徒が自らの学びを調整する姿を「見取る姿(仮称)」として整理し、通知表には所見欄や記号(〇や✓など)で記述的に付記する方向へと役割を再定義し、教員の評価業務負担を劇的に軽減します。

2. 評価の二大観点化(数値評価の重点化)への移行
 上記の評価改革に伴い、今後の通知表や指導要録における数値的な観点別評価は、「知識・技能」および「思考・判断・表現」の2観点へと重点化されます。
 これにより、学力として客観的に計測・評価できる側面に数値評定を集中させ、生徒や保護者に対しても「何が身に付き、どこで思考が深まったか」をより明確かつ納得感のある形でフィードバックできる体制を全教科等で確立します。

3. 生成AI・SNS時代に対応する情報活用能力(メディアリテラシー)の全教科展開
 生成AIの急速な普及やデジタル社会の深化を受け、情報活用能力を「あらゆる学習の基盤」としてすべての教科で育成します。
 単に端末を「使う」段階から、提示された情報やAIが出力したテキストの「信憑性や発信者の意図を批判的に読み解く力(ファクトチェック*2) ・クリティカルシンキング*3))」へと指導を高度化します。
 また、著作権、情報モラル、データの適切な扱いを、各教科の学習活動(理科の実験データ処理、社会のレポート作成など)に確実に組み込みます。

*1) 「ファクトチェック」… 政治家の発言やニュース、SNS上の情報が「事実(ファクト)に基づいているか」を客観的な証拠から調査し、その結果と検証プロセスを公表する営み。
*2)「クリティカル・シンキング」… 情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠が妥当であるかを「多面的・多角的に検討する」力のこと。単なる批判や揚げ足取りではなく、より客観的で納得感のある結論を導くための建設的な思考プロセスを指す。

4. カリキュラムの構造化(目標・資質能力の明確な「可視化」)
 これまでの指導要領で示されてきた「資質・能力の三つの柱」を、学校現場がより扱いやすく実質化できるよう、目標の構造化を図ります。各教科において、学習の目的や場面に応じた「機能カテゴリ」や「資質・能力の段階的な見通し」を明瞭に提示します。
 これにより、教師が「何のためにこの単元を教えるのか」を見失うことなく、単元同士や他教科とのつながりを意識した、見通しの良い教育課程(カリキュラムマネジメント)の編成を全教科で可能にします。

5. デジタル学習基盤(タイピング等)の早期定着と指導の系統化
 GIGAスクール構想による1人1台端末を、すべての教科の授業で空気のように使いこなすため、デジタル入出力のスキルを全教科の基盤として位置付けます。
 特に小学校低学年等のスタートアップ期における「キーボード入力(タイピング)」や「音声入力」の指導手順を全教科の共通基盤として体系化し、「手書きによる身体的な習得」と「ICTによる効率的な表現」のバランスを取りながら、どの教科の授業でも端末を思考の道具としてスムーズに活用できるようにします。

6. 対話の質の向上と「協働的な合意形成・課題解決」の重視
 アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の形骸化を防ぐため、すべての教科における「話し合い活動」の質を向上させます。単なる感想の交流や同調的なグループワークにとどまらず、「異なる意見を整理し、客観的根拠をもとに調整して、新たな最適解を導く対話(合意形成のプロセス)」を重視します。
 各教科の特質に応じた対話の方法(数学的な説明、道徳的な価値の議論など)をステップバイステップで指導します。

7. 探究的な学習プロセスの標準化と他教科への転換
 「総合的な学習(探究)の時間」で培う探究のプロセス(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)を、すべての教科の日常的な授業に標準的に組み込みます。
 単なる知識の暗記に終始せず、「問い」から始まる授業デザインへと全教科でシフトし、国語科で培った論理的思考や説明力をベースに、理科、社会、算数・数学等において、自ら仮説を検証しレポートにまとめる力を共通して育成します。

8. 幼児期から小学校、中学校から高校への「接続期(スタートアップ)」のカリキュラム強化
 校種間の移行期における学習の段差(いわゆる中1ギャップや小1プロブレム)を解消するため、全教科で接続期の指導を強化します。
 小学校低学年における「幼児期の豊かな経験をスムーズに各教科の学びに繋げるスタートアップカリキュラム」の構築や、高等学校における多様な生徒の進路に応じた「柔軟な教科・科目の選択配置」など、一貫した資質・能力の育成を見据えて教育課程の連続性を担保します。

(2) 図画工作科・美術科の改善ポイント

  1. 「感性」と「知性」の往還
    「感性を働かせ」に「知性」を明記。感覚的な活動に加え、造形要素を客観的・構造的に分析する能力を重視し、自ら問いを立てて表現・鑑賞する知の骨格を形成する。
  2. 「主体的に学習に取り組む態度」の評価改革
    実技教科の現場における記録負担を軽減するため、態度単独のABC評価を廃止。制作プロセスにおける「試行錯誤」や「主体的な調整」が確認できた場合に「◯」を付ける形成的評価へ転換する。
  3. 「自己調整」と「審美教育」の確立
    中学校では1人1台端末等を活用し、制作プロセスを客観視し主体的に調整する力を養う。高等学校では、技能習得に加え、社会や伝統の文脈で芸術の本質的価値を追究する審美教育を強化する。

4 今後の取組

 今後、全面実施に向けて図画工作科・美術科で心がけるべき点は、「感性と知性を往還する造形プロセスの確立」「評価の呪縛からの脱却」の2点です。

 指導者は、単なる直感的な思いつきや技法の習得に終始せず、対象の造形的な特徴や背景を客観的に捉える「知性」を意識的に働かせる授業デザインへと転換する必要があります。その際、1人1台端末で制作過程を写真や動画で記録させ、自らの試行錯誤を客観的に振り返りながら表現を洗練させていく「自己調整」のプロセスを重視します。

 また、最大の変更点である「態度のABC評価の廃止」を見据え、毎時間の細かな記録集めに追われるのをやめましょう。児童生徒が粘り強く条件を変更したり、他者と協働して課題を解決したりした姿をポジティブに看取る「◯付記方式」へと意識を切り替え、浮いた時間を児童生徒への丁寧な対話や見守りの時間へ充てていくことが重要です。

 

出典:教育課程部会 芸術ワーキンググループ[ONLINE]https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/113/siryo/mext_00008.html(cf.20260517)

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