X

次期学習指導要領における、生活科、総合的な学習・探究の時間の改善の方向性

 次期学習指導要領において、生活科、総合的な学習・探究の時間は、どのように改善されるのでしょうか。

 次期学習指導要領では、生成AI時代を見据えた「体験を通じた探究の質の向上」と、教師の負担軽減を両立する「評価と指導計画の簡素化」が改善の中核となります。主なポイントは以下の通りです。
1. 生活科における直接体験の再定義
AI・VRでは代替できない「身体性を伴う直接体験(土、水、生き物に触れる等)」の価値を明示し、小学校低学年における「探究の基盤」として位置づけ直します。
2. 探究プロセスの空洞化解消と質の向上
「問い」の設定から検証、リフレクションにいたる一連の探究サイクルが形式的(形だけ回す)にならないよう、教科横断的な連携を強化します。
3. 評価の抜本的簡素化
単元ごとに細分化されていた3観点の評価規準や一律のペーパーテスト風評価を廃止し、学習のまとまりを通じた児童生徒の変容を「継続的に見取る」方式へ転換します。
4. デジタル・情報活用能力の基盤化
小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を付加し、情報活用能力を全ての探究活動の基盤として系統化します。

1 改善の概要

 文部科学省が令和7年(2025年)9月25日に公表した中央教育審議会「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」、およびその後令和8年(2026年)春にかけて開催された「生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ(以下、生活・総合WG)」の最新審議 を踏まえた改善の概要は以下の通りです。

1) AI時代における「生活科」の学びの本質化

 現行の生活科では、身近な環境との関わりを通じた自立を促してきましたが、次期改訂では「身体性を伴った直接体験」の価値がより強調されます。デジタル化が進むからこそ、リアルな自然や社会に触れる体験を「人間の学びの根っこ」とし、小学校3年生以降の「総合的な学習の時間」へ繋ぐ「探究の基盤」として明確に定義します。また、幼児期の「環境」や「表現」といった遊びを通じた学び(幼保小接続)との連携、および中学年以降の各教科等への接続を意識した構造化を行います。

2) 「探究のプロセス」の形骸化の払拭と構造の明確化

 全国の小・中・高等学校において探究活動の導入自体は進んだものの、「形式的に探究サイクルを回すだけで、学びが空洞化している」という課題が学習指導要領実施状況調査等で明らかになりました。次期学習指導要領では、目標や指導内容を「表形式化・構造化」して分かりやすく整理します。児童生徒が自ら問いを設定し、多角的な情報を集めて協働的に解決し、自己の生き方に繋げるという「質の高い探究」が成立するよう、年間指導計画や学習活動の見直しを促します。

3) 「情報の領域(仮称)」の付加による情報活用能力の強化

 小学校段階の「総合的な学習の時間」において、日本情報科教育学会等からも強く支持されている「情報の領域(仮称)」が付加されます。これにより、単なるパソコンの操作スキルにとどまらず、情報モラルやデータの収集・分析といった「情報活用能力」が探究の道具(基盤)として位置づけられます。中学校の「情報・技術科(仮称)」、高等学校の「情報科」へと繋がる小・中・高を通じた一貫した系統性が確立されます。

4) 指導と評価の一体化に伴う「評価の抜本的簡素化」

 教師の多忙化や「総合の評価が難しく負担が大きい」という現場の声を受け、令和8年3月の生活・総合WG(第5回)では評価の大幅な簡素化の方針が固まりました。従来の「3観点を細分化した10の要素」といった一律かつ細かな評価規準の作成を廃止します。児童生徒が探究活動を通じてどう成長したかを長期的・継続的に見取るための簡素な評価視点(「課題の設定」「情報の収集・分析」「振り返り・変容」等)に整理し、過度な評価資料集めをなくすことで、指導に注力できる環境(実現可能性の確保)を整備します。

出典:文部科学省中央教育審議会・教育課程部会「生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ(WG)

2 改善のポイント

校種改善視点現行学習指導要領の内容・課題次期学習指導要領の改善方向性
小中高評価規準の簡素化3観点を細かく要素分解し、一律の基準で評価するため資料収集や採点負担が過大。評価を簡素化。学習のまとまりを通して、生徒のプロセスや変容を継続的に「見取る」方式へ。
小中高探究の「空洞化」の解消探究のサイクル(問い→収集→分析→表現)を形式的に回すだけで、深い思考を伴わない事例が散見。目標や内容を構造化・表形式化し、各ステップでの深い意味理解やリフレクションを重視。
生活科の直接体験の価値化デジタル端末(タブレット)での検索に依存しがちになり、五感を使う体験が希薄化する懸念。AI時代だからこそ「身体性を伴った直接体験」を明示し、探究の確固たる土台として再定義。
「情報の領域(仮称)」の付加各教科や総合の中で分散して情報活用が指導され、系統的な能力育成が不十分。小学校の総合に独自の領域を設置し、探究の基盤となる情報活用能力を体系的に育成。
小中高教科横断・連携の明確化各教科等で身に付けた資質・能力が総合の学習でどのように発揮・活用されるかが曖昧。各教科の「見方・考え方」を総合にどう働かせるか、カリキュラム・マネジメント上の動線を明確化。
小中高テーマ設定の多様化地域課題や環境問題など、前例踏襲による固定化・形骸化されたテーマ設定が多い。児童生徒のリアルな興味・関心や、現代的な諸課題(経済、先端技術、多様性等)へ選択肢を拡大。
幼保小・中学年への接続幼稚園・保育所等の「遊びによる学び」と、小学校3年以降の「総合」への接続の段差。生活科のサイクル(気づく・伝える等)を「探究の基盤」とし、滑らかな縦の接続を設計。
中高学年間の系統性と発展性学年が変わっても同じレベルの調べ学習を繰り返してしまい、ステップアップが見られない。中学校・高等学校を通じて「課題の質の高度化」や「自律的な学びの自信」を高める発展的配置。
「情報・技術科(仮称)」との連携技術・家庭科の技術分野(情報領域)と、総合的な学習の時間との連携が希薄。新設される「情報・技術科(仮称)」で学んだ技術を、総合の課題解決に直接応用させる連携を強化。
「総合的な探究の時間」の深化単位数の確保(3〜6単位)や進路指導(AO・推薦入試対策)への矮小化という運用面での課題。生涯にわたって「自らの人生を舵取りする力」や「社会参画の意識」を育む教育課程の中核へ昇華。
小中高ICTツールの効果的活用単なるプレゼンソフトでの発表やネット検索など、限定的なデジタル活用にとどまる。デジタル学習基盤(1人1台端末)を前提とし、データ分析や外部機関との協働協調ツールとしてフル活用。
小中高調整授業時数の柔軟な運用年間の時間数が固定されており、探究の盛り上がりや校外活動に応じた柔軟な時間確保が困難。「調整授業時数制度(教育課程柔軟化)」の全国展開を見据え、総合・探究の時間を核とした時間編成を可能に。

2 改善の具体

(1) 全教科共通の改善ポイント

1. 「主体的に学習に取り組む態度」の数値評価(評定)からの完全除外
 現行の観点別学習評価において最も現場の負担となり、客観性の担保が難しかった「主体的に学習に取り組む態度」のA・B・Cによる目標準拠評価(数値評価)を、すべての教科・科目において廃止し、評定の積算対象から除外します。
 これにより、点数のための「見せかけの態度」を追う評価から脱却します。
 今後は、児童生徒が自らの学びを調整する姿を「見取る姿(仮称)」として整理し、通知表には所見欄や記号(〇や✓など)で記述的に付記する方向へと役割を再定義し、教員の評価業務負担を劇的に軽減します。

2. 評価の二大観点化(数値評価の重点化)への移行
 上記の評価改革に伴い、今後の通知表や指導要録における数値的な観点別評価は、「知識・技能」および「思考・判断・表現」の2観点へと重点化されます。
 これにより、学力として客観的に計測・評価できる側面に数値評定を集中させ、生徒や保護者に対しても「何が身に付き、どこで思考が深まったか」をより明確かつ納得感のある形でフィードバックできる体制を全教科等で確立します。

3. 生成AI・SNS時代に対応する情報活用能力(メディアリテラシー)の全教科展開
 生成AIの急速な普及やデジタル社会の深化を受け、情報活用能力を「あらゆる学習の基盤」としてすべての教科で育成します。
 単に端末を「使う」段階から、提示された情報やAIが出力したテキストの「信憑性や発信者の意図を批判的に読み解く力(ファクトチェック*2) ・クリティカルシンキング*3))」へと指導を高度化します。
 また、著作権、情報モラル、データの適切な扱いを、各教科の学習活動(理科の実験データ処理、社会のレポート作成など)に確実に組み込みます。

*1) 「ファクトチェック」… 政治家の発言やニュース、SNS上の情報が「事実(ファクト)に基づいているか」を客観的な証拠から調査し、その結果と検証プロセスを公表する営み。
*2)「クリティカル・シンキング」… 情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠が妥当であるかを「多面的・多角的に検討する」力のこと。単なる批判や揚げ足取りではなく、より客観的で納得感のある結論を導くための建設的な思考プロセスを指す。

4. カリキュラムの構造化(目標・資質能力の明確な「可視化」)
 これまでの指導要領で示されてきた「資質・能力の三つの柱」を、学校現場がより扱いやすく実質化できるよう、目標の構造化を図ります。各教科において、学習の目的や場面に応じた「機能カテゴリ」や「資質・能力の段階的な見通し」を明瞭に提示します。
 これにより、教師が「何のためにこの単元を教えるのか」を見失うことなく、単元同士や他教科とのつながりを意識した、見通しの良い教育課程(カリキュラムマネジメント)の編成を全教科で可能にします。

5. デジタル学習基盤(タイピング等)の早期定着と指導の系統化
 GIGAスクール構想による1人1台端末を、すべての教科の授業で空気のように使いこなすため、デジタル入出力のスキルを全教科の基盤として位置付けます。
 特に小学校低学年等のスタートアップ期における「キーボード入力(タイピング)」や「音声入力」の指導手順を全教科の共通基盤として体系化し、「手書きによる身体的な習得」と「ICTによる効率的な表現」のバランスを取りながら、どの教科の授業でも端末を思考の道具としてスムーズに活用できるようにします。

6. 対話の質の向上と「協働的な合意形成・課題解決」の重視
 アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の形骸化を防ぐため、すべての教科における「話し合い活動」の質を向上させます。単なる感想の交流や同調的なグループワークにとどまらず、「異なる意見を整理し、客観的根拠をもとに調整して、新たな最適解を導く対話(合意形成のプロセス)」を重視します。
 各教科の特質に応じた対話の方法(数学的な説明、道徳的な価値の議論など)をステップバイステップで指導します。

7. 探究的な学習プロセスの標準化と他教科への転換
 「総合的な学習(探究)の時間」で培う探究のプロセス(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)を、すべての教科の日常的な授業に標準的に組み込みます。
 単なる知識の暗記に終始せず、「問い」から始まる授業デザインへと全教科でシフトし、国語科で培った論理的思考や説明力をベースに、理科、社会、算数・数学等において、自ら仮説を検証しレポートにまとめる力を共通して育成します。

8. 幼児期から小学校、中学校から高校への「接続期(スタートアップ)」のカリキュラム強化
 校種間の移行期における学習の段差(いわゆる中1ギャップや小1プロブレム)を解消するため、全教科で接続期の指導を強化します。
 小学校低学年における「幼児期の豊かな経験をスムーズに各教科の学びに繋げるスタートアップカリキュラム」の構築や、高等学校における多様な生徒の進路に応じた「柔軟な教科・科目の選択配置」など、一貫した資質・能力の育成を見据えて教育課程の連続性を担保します。

(2) 生活科、総合的な学習・探究の時間の改善ポイント

 次期学習指導要領改訂に向けた、生活科および総合的な学習・探究の時間の具体的な改善ポイントは以下の4点に集約されます。一般の指導者や教員が実践に落とし込めるよう具体的に解説します。

① 「評価規準」を細分化から統合へ:見取る評価への転換(最優先・校種共通)

 現行の評価における最大の課題は、教科型の評価(一律のペーパーテストや細かな観点別評価)を総合的な学習の時間にそのまま当てはめようとした結果、教員の評価負担が肥大化した点にあります。
 次期学習指導要領では、単元ごとに「思考力・判断力・表現力」を何項目もバラバラに評価するのをやめ、「学習のまとまり(単元全体、あるいは年間)」の中で児童生徒がどう変容したかを継続的に見取る方式に改めます。例えば、「ポートフォリオ(活動の蓄積)」や「リフレクションシート(振り返り)」を活用し、「最初と比べて問いがどう深まったか」「他者の意見をどう取り入れたか」といった、プロセスの成長そのものを簡素な視点で評価します。これにより、評価のための資料集め作業から教師が解放され、子供の伴走者としての指導に集中できるようになります。

② 生成AI時代だからこそ価値をもつ「生活科の直接体験」(小学校低学年)

 デジタル技術や生成AIが普及する社会において、小学校低学年の生活科が果たす役割が再定義されます。
 画面上で調べるだけの学習ではなく、学校の飼育小屋での生き物の温かさや重さを感じる、地域の畑で土に触れるといった「身体性を伴った直接体験」を学習指導要領に明示的に位置付けます。この生活科における「気づく→試す→見つける」というサイクルそのものが、小学校3年生以降の「総合的な学習の時間」における「問いを立てて探究する」姿勢の確固たる基盤(土台)となります。

③ 探究の道具となる「情報の領域(仮称)」の新設(小学校・系統性)

 小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」が新設されます。
 これは、総合の時間を削ってパソコンの操作だけを教えるものではありません。「探究を進めるための基盤」として情報活用能力を位置付けるものです。具体的には、探究のテーマについて「正しい情報か見極める(ファクトチェック)」「アンケートデータを集計してグラフ化する」「タイピングや適切なICTツールを用いて意見を共有する」といった活動を、総合のプロセスに組み込んで指導します。これが中学校の「情報・技術科(仮称)」や高校の「情報科」へとスムーズに繋がる一貫したカリキュラムとなります。

④ 形式的な「探究ごっこ」からの脱却:教科横断の具現化(小・中・高共通)

 これまでは「地域を調べよう」といったテーマありきで進み、インターネットで検索した情報をそのまま画用紙やスライドにまとめて発表して終わる、いわゆる「調べ学習(形式的な探究)」にとどまるケースが散見されました。
 次期改訂では、国語科で学んだ「物事を説明する構成」、算数・数学科で学んだ「統計の扱い方」、社会科や理科の「見方・考え方」を、総合・探究の時間において「道具として活用・発揮させる」ことを明確に求めます。児童生徒自身が「自らの問い」を立て、各教科の学びを総動員してリアルな社会課題に参画し、最後に「自分の生き方」にどう還元されたかを振り返ることで、空洞化を払い落とした「質の高い探究」を具現化します。

3 今後の取組

 次期学習指導要領は、小学校で令和12年度(2030年度)、中学校で令和13年度(2031年度)から全面実施、高等学校では令和14年度(2032年度)から年次進行で導入される予定です。これに向けて学校現場が今から取り組むべき方向性は以下の3点です。

 まずは、「評価方法の先行見直し」です。
 告示を待つことなく、現在の教育課程の枠内であっても、細分化されすぎた総合の評価規準を整理し、児童生徒のポートフォリオや振り返りを重視した「見取る評価」へのシフトを校内で試験的に始めることが推奨されます。

 次に、「カリキュラム・マネジメントの再構築」です。
 総合・探究の時間を学校の教育目標の「核」とし、各教科とどのような資質・能力で結ばれているかを可視化したマッピングシート(年間指導計画等)を学校全体でアップデートする必要があります。

 最後に、「外部連携とデジタル基盤の日常化」です。
 教員だけで抱え込まず、1人1台端末を活用して自治体、大学、民間企業(地元の商店街やDX企業等)とオンラインで繋がる環境を日常化し、子供たちがリアルな社会と地続きで対話できる探究環境をデザインしていくことが、新時代における全面実施を成功させる鍵となります。

出典:教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ[ONLINE]https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/115/index.html

maru320i: