- 次期学習指導要領において、特別活動は、どのように改善されるのでしょうか。
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中央教育審議会の「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」および最新の特別活動ワーキンググループ(WG)の審議に基づき、児童生徒が「自らの人生を舵取りし、民主的な社会の創り手」となるため、以下の3点を中心に改善されます。
教育課程の柔軟化と時数マネジメント:標準授業時数の枠組みを見直し、学校行事の精選や平准化による「余白」の創出、および教員の働き方改革(Feasibility)と両立した持続可能な活動へと再編します。
主体的・自治的な社会参画の強化:学級活動や児童会・生徒会活動を通じ、学校生活のルール形成や環境改善に主体的に関わる「社会参画」の力を育みます。
個人と社会のウェルビーイングの実現:他者と協働してよりよい集団・社会を築く中で、多様性の包摂(Equity)と自己実現を目指します。
1 改善の概要
次期学習指導要領改訂に向けた文部科学省の論点整理および特別活動ワーキンググループの審議では、予測困難な社会を生き抜くために、特別活動の固有の価値である「望ましい集団活動を通じた資質・能力の育成」をさらに深化させる方向性が示されています。これまでの「正解主義」的な指導を脱却し、多様な他者と協働しながら、実社会の課題解決やよりよい集団生活の構築に主体的に関わることが強く求められています。
改善の重要度に応じた具体的内容は以下の通りです。
1. 「社会参画」の視点を柱とした自治的活動の充実(最優先)
児童会・生徒会活動や学級(ホームルーム)活動において、単に決められた役割をこなすだけでなく、学校生活におけるルールの形成、見直しや、日常的な課題の解決に児童生徒が自発的に関わるプロセスを重視します。これにより、「主体的・実践的に社会参画する力」を確実に育成します。
2. 個人と社会のウェルビーイングの追求と「高次の資質・能力」への統合(重要)
特別活動が伝統的に重視してきた「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」の3つの視点をベースとしつつ、集団生活の中で多様な他者を包摂(Equity)しながら、自己の生き方を見出すプロセスを強化します。各教科や「総合的な探究(学習)の時間」で得た知識・技能を統合し、複雑な社会課題や人間関係の解決に総合的に発揮する「高次の資質・能力」の育成を目指します。
3. 学校行事の精選・平准化と「余白」の創出による実効性の担保(次点・追加要因)
「質の高い学び(Excellence)」と「学校現場の実現可能性(Feasibility)」を両立させるため、学校行事(文化的行事、体育的行事など)の過度な負担を見直します。前例踏襲的な行事を精選・スリム化し、標準授業時数の適切なマネジメント(週28コマ編成への対応など)を通じて学校教育全体に「余白」を生み出し、生徒が自発的に活動できる時間的・精神的な余裕を確保します。
4. キャリアパスポートの活用高度化と校種間接続(中学校・高等学校の発展)
小学校から積み上げてきた「キャリアパスポート」の記述や振り返りの質を向上させ、中学校、さらには高等学校における「総合的な探究の時間」や進路指導と有機的に連動させます。自己の変容を多角的に見つめ直す、小・中・高の一貫した「自己実現」のプロセスを確立します。
2 改善のポイント
次期学習指導要領 改善ポイント対比
| 校種 | 改善の視点 | 現行の内容・課題 | 次期学習指導要領の改善方向性 |
|---|---|---|---|
| 共通 | ①ルール形成への主体的関与 | 教師が定めた校則やルールを順守させる指導が中心となりやすく、形式化が課題。 | 生徒会や学級活動で、自分たちの学校生活のルールを議論し、見直す「ルール形成」の体験を重視。 |
| 共通 | ②「社会参画」の明確化 | 3つの柱(人間関係、社会参画、自己実現)のうち、実社会や集団への能動的なアプローチが弱い。 | 集団や社会の問題を自分事として捉え、よりよい集団・社会の創り手となる実践力を「高次の資質・能力」として育成。 |
| 共通 | ③学校行事の精選・平准化 | 前例踏襲の過密な行事スケジュールにより、児童生徒も教員も時間的余裕がない(Feasibilityの課題)。 | 行事の目的を再定義して精選。準備や実施プロセスの負担をスリム化し、教育課程全体に「余白」を創出。 |
| 共通 | ④多様性の包摂(Equity) | 集団の同質性を前提とした指導になりがちで、不登校や外国籍など多様な背景を持つ子供の包摂が不十分。 | 異なる意見や背景を持つ他者を互いに尊重し、誰もが安心感と役割を持てる集団づくり(ウェルビーイングの実現)。 |
| 共通 | ⑤評価の適正化・個人内評価 | 3つの観点評価において、「学びに向かう力等」が画一的に数値化・情意評価されやすい課題。 | 原則として「個人内評価(過去の自分との比較)」とし、変容や気付きを記述・見取りで肯定的に評価。 |
| 小学校 | ⑥学級活動での自治の基盤形成 | 教師主導の話し合いになりやすく、児童が自発的に役割を全うする経験が不足。 | 日常の係活動や学級会において、児童自身が課題を見つけ、意思決定して運営する基礎的自治力を育成。 |
| 小学校 | ⑦体験活動の質的充実 | 遠足や宿泊学習などの行事が、単なる消費的な「思い出作り」のイベントに終始しがち。 | 事前・事後の探究活動と連動させ、自然や社会と直接触れ合う体験の教育的効果を「深い学び」に結び付ける。 |
| 中学校 | ⑧生徒会活動のリアル化 | 生徒会選挙や各種委員会が形式的なルーティンワークになり、形骸化している。 | 地域社会や学校運営組織(コミュニティ・スクール)との連携を図り、実際の学校改善に直結する権限と活動を保障。 |
| 中学校 | ⑨集団を通じた自己指導能力 | 思春期における人間関係のトラブルへの対応が後手に回り、対話的な解決機会が不足。 | 学級活動等において、集団内の対立を「対話」によって乗り越え、合意形成を図るスキルを習得。 |
| 中・高 | ⑩キャリアパスポートの高度化 | 小・中・高の連動が形骸化し、単なるプリントのファイリング(蓄積)作業に陥っている。 | 記述内容を生徒自身が定期的に振り返り、自己の変容や強みを自覚して、進路選択や自己実現に生かす運用へ転換。 |
| 高校 | ⑪総合的な探究の時間との連携 | ホームルーム活動(HR活動)での自己理解と、総合的な探究の時間での課題解決が分断されている。 | 探究の時間で培った社会的視野をHR活動の進路指導に還元し、社会の中で「自己を生かす能力」を総合的に発揮。 |
| 共通 | ⑫時数マネジメントの確立 | 各種行事や児童会・生徒会活動の授業時数が超過し、他教科の時数や教員の多忙化を圧迫。 | 標準授業時数(週28コマ等)ベースの適切な管理を行い、過度な授業外活動を抑制して持続可能な運営を徹底。 |
3 現行の課題と改善内容
(1) 全教科共通の改善ポイント
1. 「主体的に学習に取り組む態度」の数値評価(評定)からの完全除外
現行の観点別学習評価において最も現場の負担となり、客観性の担保が難しかった「主体的に学習に取り組む態度」のA・B・Cによる目標準拠評価(数値評価)を、すべての教科・科目において廃止し、評定の積算対象から除外します。
これにより、点数のための「見せかけの態度」を追う評価から脱却します。
今後は、児童生徒が自らの学びを調整する姿を「見取る姿(仮称)」として整理し、通知表には所見欄や記号(〇や✓など)で記述的に付記する方向へと役割を再定義し、教員の評価業務負担を劇的に軽減します。
2. 評価の二大観点化(数値評価の重点化)への移行
上記の評価改革に伴い、今後の通知表や指導要録における数値的な観点別評価は、「知識・技能」および「思考・判断・表現」の2観点へと重点化されます。
これにより、学力として客観的に計測・評価できる側面に数値評定を集中させ、生徒や保護者に対しても「何が身に付き、どこで思考が深まったか」をより明確かつ納得感のある形でフィードバックできる体制を全教科等で確立します。
3. 生成AI・SNS時代に対応する情報活用能力(メディアリテラシー)の全教科展開
生成AIの急速な普及やデジタル社会の深化を受け、情報活用能力を「あらゆる学習の基盤」としてすべての教科で育成します。
単に端末を「使う」段階から、提示された情報やAIが出力したテキストの「信憑性や発信者の意図を批判的に読み解く力(ファクトチェック*2) ・クリティカルシンキング*3))」へと指導を高度化します。
また、著作権、情報モラル、データの適切な扱いを、各教科の学習活動(理科の実験データ処理、社会のレポート作成など)に確実に組み込みます。
*1) 「ファクトチェック」… 政治家の発言やニュース、SNS上の情報が「事実(ファクト)に基づいているか」を客観的な証拠から調査し、その結果と検証プロセスを公表する営み。
*2)「クリティカル・シンキング」… 情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠が妥当であるかを「多面的・多角的に検討する」力のこと。単なる批判や揚げ足取りではなく、より客観的で納得感のある結論を導くための建設的な思考プロセスを指す。
4. カリキュラムの構造化(目標・資質能力の明確な「可視化」)
これまでの指導要領で示されてきた「資質・能力の三つの柱」を、学校現場がより扱いやすく実質化できるよう、目標の構造化を図ります。各教科において、学習の目的や場面に応じた「機能カテゴリ」や「資質・能力の段階的な見通し」を明瞭に提示します。
これにより、教師が「何のためにこの単元を教えるのか」を見失うことなく、単元同士や他教科とのつながりを意識した、見通しの良い教育課程(カリキュラムマネジメント)の編成を全教科で可能にします。
5. デジタル学習基盤(タイピング等)の早期定着と指導の系統化
GIGAスクール構想による1人1台端末を、すべての教科の授業で空気のように使いこなすため、デジタル入出力のスキルを全教科の基盤として位置付けます。
特に小学校低学年等のスタートアップ期における「キーボード入力(タイピング)」や「音声入力」の指導手順を全教科の共通基盤として体系化し、「手書きによる身体的な習得」と「ICTによる効率的な表現」のバランスを取りながら、どの教科の授業でも端末を思考の道具としてスムーズに活用できるようにします。
6. 対話の質の向上と「協働的な合意形成・課題解決」の重視
アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の形骸化を防ぐため、すべての教科における「話し合い活動」の質を向上させます。単なる感想の交流や同調的なグループワークにとどまらず、「異なる意見を整理し、客観的根拠をもとに調整して、新たな最適解を導く対話(合意形成のプロセス)」を重視します。
各教科の特質に応じた対話の方法(数学的な説明、道徳的な価値の議論など)をステップバイステップで指導します。
7. 探究的な学習プロセスの標準化と他教科への転換
「総合的な学習(探究)の時間」で培う探究のプロセス(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)を、すべての教科の日常的な授業に標準的に組み込みます。
単なる知識の暗記に終始せず、「問い」から始まる授業デザインへと全教科でシフトし、国語科で培った論理的思考や説明力をベースに、理科、社会、算数・数学等において、自ら仮説を検証しレポートにまとめる力を共通して育成します。
8. 幼児期から小学校、中学校から高校への「接続期(スタートアップ)」のカリキュラム強化
校種間の移行期における学習の段差(いわゆる中1ギャップや小1プロブレム)を解消するため、全教科で接続期の指導を強化します。
小学校低学年における「幼児期の豊かな経験をスムーズに各教科の学びに繋げるスタートアップカリキュラム」の構築や、高等学校における多様な生徒の進路に応じた「柔軟な教科・科目の選択配置」など、一貫した資質・能力の育成を見据えて教育課程の連続性を担保します。
(2) 特別活動の改善ポイント
次期学習指導要領における特別活動の改善ポイントについて、現行の課題を乗り越えるための具体的なアプローチを重要度順に詳述します。
1. 学校生活のルール形成・見直しを軸とした「主体的・自治的な社会参画」の日常化
現行では、校則や学級のきまりは「守るべきもの」として与えられる傾向が強く、児童生徒の受動的な態度を生む原因となっていました。次期指導要領では、児童会・生徒会活動や学級(HR)活動の場を「民主主義の土台」と位置付けます。自分たちの学校生活における課題(スマホの持ち込みルール、制服の見直し、休み時間の過ごし方など)を自分事として捉え、多様な意見を調整しながらルールを形成・改定する実践的なプロセスを導入します。これにより、社会の形成者としての資質を日常から育みます。
2. 「個人と社会のウェルビーイング」の実現に向けた集団づくりの転換
これまでは「集団への適応」や「規律ある行動」が過度に重視され、不登校傾向の児童生徒や配慮が必要な子供が疎外感を感じるという課題がありました。今後は、多様性の包摂(Equity)が強く打ち出されます。学級や学校という集団が、一人一人の個性を認め合い、誰もが「ここにいてよい」という安心感(心理的安全性)を得られる場となるよう、特別活動の目標と内容を再整理します。他者と協働してよりよい人間関係を築くことが、個人の幸福(ウェルビーイング)と社会の発展に結び付くことを実感させます。
3. 「高次の資質・能力」を育成する教科横断・探究連動型のカリキュラム・マネジメント
特別活動の各活動が、教科の学習や「総合的な学習(探究)の時間」と切り離され、単発のイベントとして消費されていることが現行の大きな課題です。次期指導要領では、各教科等で得た知識・技能や見方・考え方を総合的に活用・統合する場として特別活動を位置付け、これを「高次の資質・能力」として明記します。例えば、総合的な学習の時間で取り組んだ地域の環境問題(探究)を踏まえ、児童会活動で校内のリサイクル運動(特別活動)へと実践を展開させるような、有機的なカリキュラムの設計を求めます。
4. 持続可能性(Feasibility)を担保する「学校行事の精選・スリム化」と時数管理
運動会や文化祭、修学旅行などの学校行事が肥大化・過密化し、児童生徒の精神的ゆとりの喪失や、教員の長時間労働(働き方改革の阻害)を引き起こしていました。次期指導要領では「実現可能性の確保(Feasibility)」の観点から、行事の目的を厳選し、準備期間の短縮やプログラムの簡素化(平准化)を断行します。学校平均における標準授業時数の枠組み(週28コマ編成等)に収まるよう時数マネジメントを徹底し、生み出された「余白」によって、児童生徒が自発的に集まり、話し合い、試行錯誤できる本当の意味での「自治の時間」を保障します。
4 今後の取組
次期学習指導要領の全面実施(小学校:2030年度、中学校:2031年度、高等学校:2032年度より年次進行)に向けて、今後の教育現場が取り組むべき具体的方向性と留意点は以下の通りです。
まず、各学校においては、これまでの前例踏襲的な学校行事のスクラップ・アンド・ビルドを直ちに進める必要があります。校長等のリーダーシップのもと、年間指導計画における特別活動の授業時数(学級活動以外の学校行事等の時数管理)を適正化し、教員の過度な負担軽減と子供たちの「余白」の創出を同時に達成するカリキュラム・マネジメントを確立しなければなりません。
次に、指導者は「指導(コントロール)」から「支援(ファシリテーション)」へと役割を転換することが留意点として挙げられます。子供たちが校則見直しなどのリアルなルール形成に取り組む際、教師が先回りして正解を与えたり、失敗を恐れて活動を制限したりすることを厳に慎むべきです。議論のプロセスに伴う葛藤や合意形成の難しさ自体が、民主的な社会の創り手を育てる貴重な学びのステップであることを認識し、子供たちの自発的・自治的な挑戦を辛抱強く支える伴走者となることが求められます。
出典:教育課程部会 特別活動ワーキンググループ[ONLINE]https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/116/index.html(cf.20260518)