- 次期学習指導要領において、理科教育は、どのように改善されるのでしょうか。
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文部科学省の中央教育審議会理科ワーキンググループ(第8回・令和8年4月13日開催)で示された最新の骨子案に基づき、「知の構造化」と「探究の高度化」を柱とした抜本的な改訂が行われます。
- 中学理科の「第1分野・第2分野」を廃止し、小中高の連携を重視した「4分野(物理・化学・生物・地学)」へ30年ぶりに再編します。
- 小学校へ「理科と日常生活(仮称)」、中高へ「科学ガイダンス(仮称)」を新設し、科学リテラシーを早期から育成します。
- 探究のプロセスを小中高で共通の「8段階の探究の過程」に統一し、見方・考え方に「クリティカル・シンキング*(批判的思考)」を明示します。
*「クリティカル・シンキング」… 情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠が妥当であるかを「多面的・多角的に検討する」力のこと。単なる批判や揚げ足取りではなく、より客観的で納得感のある結論を導くための建設的な思考プロセスを指す。 - デジタル学習基盤(GIGAスクール構想)を前提に、生成AIやセンサーを活用したデータサイエンス教育を強化します。
- 発達障害や外国人児童等、「多様な子どもたちを包摂する(Equity)」ための個別最適な学びを充実させます。
1 改善の概要
次期学習指導要領における理科教育の改善は、令和7年9月25日発表の教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)の「主体的・対話的で深い学びの実装(Excellence)」「多様性の包摂(Equity)」「実現可能性の確保(Feasibility)」の3つの方向性を基盤としています。令和8年4月の最新の理科WG(第8回)のとりまとめ骨子案にいたる審議を経て、指導内容を単なる知識の詰め込みから「生きて働く知識」へと転換するための具体的な構造改革が決定されました。
最大の変更点は、中学校における従来の「第1分野(物理・化学分野)」「第2分野(生物・地学分野)」の2分野制を廃止し、小学校および高等学校と一貫した「物理・化学・生物・地学」の独立した「4分野構造」への完全再編です。
これにより、校種間での学問的接続が円滑になり、系統的な学びが可能になります。
また、社会や日常生活とのつながりを重視し、科学的探究の基盤を養うための学習事項が新設されます。
小学校では、身近な自然や生活技術との関係を捉え直す「理科と日常生活(仮称)」を導入します。
中学校・高等学校の履修冒頭には、科学的思考の基本や研究倫理、社会との関わりをメタ的に学ぶ「科学ガイダンス(仮称)」を設置し、科学的リテラシーの共通基盤を構築します。
さらに、これまで校種や分野ごとに曖昧だった「探究の過程」について、小中高を通じて共通する「8段階(問いの通覧、課題の設定、計画の立案、観察・実験の遂行、データの整理、分析と考察、表現・伝達、振り返りと新たな問い)」として明確に構造化します。
このプロセスの中で、科学的な見方・考え方に「クリティカル・シンキング」を新たに明示し、得られたデータや他者の意見を鵜呑みにせず、エビデンスに基づいて多角的に検証する能力を育みます。
ICT環境の面では、1人1台端末を活用したデジタル学習基盤を前提とし、センサーを用いたリアルタイムなデータ収集、デジタル教科書の活用、生成AIを用いた仮説検証の補助など、理科におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実装します。
最後に、これら高度な探究活動をすべての子供たちに保障するため、不登校傾向の児童生徒や発達障害、日本語指導が必要な児童生徒に対する個別最適な学習環境の整備(包摂性)と、教員の指導負担を軽減し授業準備時間を確保する「調整授業時数制度」の活用(実現可能性)を両立させる枠組みとなっています。
2 改善のポイント
| 校種 | 改善の視点 | 現行学習指導要領の状況と課題 | 次期学習指導要領の改善ポイント |
|---|---|---|---|
| 小・中・高 | 探究プロセスの構造化 | 校種や分野ごとに探究のステップがばらついており、系統的な育成が難しい。 | 小中高共通の「8段階の探究の過程」へ統一。ステップごとの資質・能力を明確化。 |
| 小・中・高 | 見方・考え方の深化 | 自然の事物を質的・量的に捉える視点はあるが、情報の信頼性を検証する視点が不足。 | 「クリティカル・シンキング(批判的思考)」を明示。エビデンスに基づく検証を重視。 |
| 小・中・高 | デジタル基盤の活用 | 1人1台端末が導入されたが、ネット検索やレポート作成の道具に留まる傾向がある。 | センサーを活用したデータ収集、生成AIによる仮説検証支援など理科DXの本格実装。 |
| 小・中・高 | 多様性の包摂(Equity) | 一斉指導の実験・観察が多く、特性のある児童生徒や外国人児童生徒への個別支援が不足。 | デジタルツールや視覚的補助を用いた個別最適な学びによる包摂的環境の実現。 |
| 小学校 | 日常生活との接続 | 理科の知識が日常生活や社会の技術と結びついておらず、有用性を実感しにくい。 | 学びの導入や発展に「理科と日常生活(仮称)」の視点を新設し、実社会と接続。 |
| 中学校 | 教科構造の再編 | 30年以上「第1分野・第2分野」の2分野制を維持。高校の4科目(物化生地)への接続が円滑でない。 | 2分野制を廃止し、小高と共通する「物理・化学・生物・地学」の4分野構造に完全再編。 |
| 中・高 | 科学リテラシーの基盤 | 教科の学習にいきなり入るため、科学的な手法や研究の意義、倫理を学ぶ機会が薄い。 | 履修の冒頭に科学的方法論や社会との接続をメタ的に学ぶ「科学ガイダンス(仮称)」を新設。 |
| 小学校 | 観察・実験の充実 | 指導時間の不足や準備の負担から、検証のための観察・実験が形式化しやすい。 | 中核的な概念(エネルギー・粒子・生命・地球)の構造化による、探究活動の焦点化。 |
| 中学校 | 学際的・横断的学び | 分野ごとの縦割りが強く、環境問題や防災など、複数分野にまたがる現代的課題に対応しにくい。 | 4分野に再編した上で、分野間や他教科(情報・技術等)との教科横断的カリキュラムを強化。 |
| 高等学校 | 選択履修の最適化 | 「科学と人間生活」や基礎科目の間で、文系・理系による科学リテラシーの格差が生まれやすい。 | 日本学術会議の提言を踏まえ、全生徒に必要な共通科学リテラシーの確実な育成。 |
| 高等学校 | 探究科目の発展 | 「理数探究基礎」「理数探究」が一部の専門学科やSSH校中心の取り組みに留まりがち。 | 普通科改革と連動し、すべての生徒が何らかの課題研究・探究活動に参画する仕組みの拡充。 |
| 小・中・高 | 実現可能性の確保 | 教員の多忙化により、観察・実験の事前準備や個別指導の時間を確保することが困難。 | 「調整授業時数制度」の具体化などにより、授業準備と指導の質を担保。 |
3 改善の具体
(1) 全教科共通の改善ポイント
1. 「主体的に学習に取り組む態度」の数値評価(評定)からの完全除外
現行の観点別学習評価において最も現場の負担となり、客観性の担保が難しかった「主体的に学習に取り組む態度」のA・B・Cによる目標準拠評価(数値評価)を、すべての教科・科目において廃止し、評定の積算対象から除外します。
これにより、点数のための「見せかけの態度」を追う評価から脱却します。
今後は、児童生徒が自らの学びを調整する姿を「見取る姿(仮称)」として整理し、通知表には所見欄や記号(〇や✓など)で記述的に付記する方向へと役割を再定義し、教員の評価業務負担を劇的に軽減します。
2. 評価の二大観点化(数値評価の重点化)への移行
上記の評価改革に伴い、今後の通知表や指導要録における数値的な観点別評価は、「知識・技能」および「思考・判断・表現」の2観点へと重点化されます。
これにより、学力として客観的に計測・評価できる側面に数値評定を集中させ、生徒や保護者に対しても「何が身に付き、どこで思考が深まったか」をより明確かつ納得感のある形でフィードバックできる体制を全教科等で確立します。
3. 生成AI・SNS時代に対応する情報活用能力(メディアリテラシー)の全教科展開
生成AIの急速な普及やデジタル社会の深化を受け、情報活用能力を「あらゆる学習の基盤」としてすべての教科で育成します。
単に端末を「使う」段階から、提示された情報やAIが出力したテキストの「信憑性や発信者の意図を批判的に読み解く力(ファクトチェック*2) ・クリティカルシンキング*3))」へと指導を高度化します。
また、著作権、情報モラル、データの適切な扱いを、各教科の学習活動(理科の実験データ処理、社会のレポート作成など)に確実に組み込みます。
*1) 「ファクトチェック」… 政治家の発言やニュース、SNS上の情報が「事実(ファクト)に基づいているか」を客観的な証拠から調査し、その結果と検証プロセスを公表する営み。
*2)「クリティカル・シンキング」… 情報を鵜呑みにせず、その前提や根拠が妥当であるかを「多面的・多角的に検討する」力のこと。単なる批判や揚げ足取りではなく、より客観的で納得感のある結論を導くための建設的な思考プロセスを指す。
4. カリキュラムの構造化(目標・資質能力の明確な「可視化」)
これまでの指導要領で示されてきた「資質・能力の三つの柱」を、学校現場がより扱いやすく実質化できるよう、目標の構造化を図ります。各教科において、学習の目的や場面に応じた「機能カテゴリ」や「資質・能力の段階的な見通し」を明瞭に提示します。
これにより、教師が「何のためにこの単元を教えるのか」を見失うことなく、単元同士や他教科とのつながりを意識した、見通しの良い教育課程(カリキュラムマネジメント)の編成を全教科で可能にします。
5. デジタル学習基盤(タイピング等)の早期定着と指導の系統化
GIGAスクール構想による1人1台端末を、すべての教科の授業で空気のように使いこなすため、デジタル入出力のスキルを全教科の基盤として位置付けます。
特に小学校低学年等のスタートアップ期における「キーボード入力(タイピング)」や「音声入力」の指導手順を全教科の共通基盤として体系化し、「手書きによる身体的な習得」と「ICTによる効率的な表現」のバランスを取りながら、どの教科の授業でも端末を思考の道具としてスムーズに活用できるようにします。
6. 対話の質の向上と「協働的な合意形成・課題解決」の重視
アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の形骸化を防ぐため、すべての教科における「話し合い活動」の質を向上させます。単なる感想の交流や同調的なグループワークにとどまらず、「異なる意見を整理し、客観的根拠をもとに調整して、新たな最適解を導く対話(合意形成のプロセス)」を重視します。
各教科の特質に応じた対話の方法(数学的な説明、道徳的な価値の議論など)をステップバイステップで指導します。
7. 探究的な学習プロセスの標準化と他教科への転換
「総合的な学習(探究)の時間」で培う探究のプロセス(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)を、すべての教科の日常的な授業に標準的に組み込みます。
単なる知識の暗記に終始せず、「問い」から始まる授業デザインへと全教科でシフトし、国語科で培った論理的思考や説明力をベースに、理科、社会、算数・数学等において、自ら仮説を検証しレポートにまとめる力を共通して育成します。
8. 幼児期から小学校、中学校から高校への「接続期(スタートアップ)」のカリキュラム強化
校種間の移行期における学習の段差(いわゆる中1ギャップや小1プロブレム)を解消するため、全教科で接続期の指導を強化します。
小学校低学年における「幼児期の豊かな経験をスムーズに各教科の学びに繋げるスタートアップカリキュラム」の構築や、高等学校における多様な生徒の進路に応じた「柔軟な教科・科目の選択配置」など、一貫した資質・能力の育成を見据えて教育課程の連続性を担保します。
(2) 理科の改善ポイント
最新の理科WG(第8回)の検討資料によると、現行の理科教育には「PISA調査等で学力は上位にあるものの、理科の勉強が楽しい、将来理科を使った仕事に就きたいという実感が他国に比べ低い」「知識が断片化しており、実社会の課題解決に活用されていない」という大きな課題がありました。これらを打破するため、次期改訂では以下の4つのポイントを中心に具現化します。
① 中学校の「4分野構造」への再編と校種間の接続強化
中学校理科では、長年親しまれてきた「第1分野」「第2分野」の区分を解消します。これは、物質・エネルギー(第1分野)と生命・地球(第2分野)という大括りの枠組みが、高校での「物理・化学・生物・地学」の細分化された学問体系に移行する際、学習の連続性を損ねているという指摘があったためです。小学校段階における「エネルギー、粒子、生命、地球」の4つの柱をそのまま中学校でも「物理、化学、生物、地学」の4分野へとストレートに位置付けることで、小・中・高12年間を通じて見通しを持ったスパイラルなカリキュラムを構築します。
② 8段階の探究の過程と「クリティカル・シンキング」の導入
これまでの「主体的・対話的で深い学び」をさらに一歩進め、探究のプロセスを誰もが迷わず実践できるよう、小中高一貫で「8段階の探究の過程」として厳密に構造化します。これにより、指導者は生徒が今どのステップでつまずいているのか(例:課題の設定なのか、データの整理なのか)を客観的に評価・支援できるようになります。
また、予測困難なVUCAの時代に対応するため、見方・考え方に「クリティカル・シンキング(批判的思考)」を組み込みます。児童生徒が実験で得たデータや、インターネット・生成AI等から得た科学的情報について、「本当にこの結果で正しいか」「例外はないか」「エビデンス(根拠)は十分か」を常に問い直す姿勢を理科教育の中で意図的に育成します。
③ 「理科と日常生活(仮称)」および「科学ガイダンス(仮称)」の新設
子供たちが理科を学ぶ意義を実感できるよう、カリキュラムのハブとなる新規項目を設けます。小学校の「理科と日常生活(仮称)」では、調理や掃除などの家事、地域の自然災害、身近な電化製品といった生活の営みの中に、いかに理科の法則(熱の伝導、中和反応、電気の回路など)が潜んでいるかを体感させます。中学校・高校の「科学ガイダンス(仮称)」では、教科書の内容に入る前に、「科学的なアプローチとは何か」「なぜデータを改ざんしてはいけないのか(研究倫理)」「科学技術は社会にどう貢献しているのか」をマクロな視点で学び、学習へのモチベーションと科学的素養の基礎を固めます。
④ デジタル学習基盤(GIGAスクール)を前提とした理科DXと包摂教育
1人1台端末や高速通信ネットワークを活用し、理科の学びを高度化します。従来の紙のノートとグラフ用紙による記録から、センサーを用いた秒単位の温度・電圧変化の自動グラフ化、デジタル顕微鏡による静止画・動画の共有、シミュレーションソフトウェアを用いた宇宙規模・原子規模の疑似実験などを標準化します。
これは、同時に「多様性の包摂(Equity)」にも寄与します。例えば、手先の不器用さから実験器具の操作が困難な児童生徒がデジタルシミュレーションを活用したり、日本語指導が必要な児童生徒が翻訳ツールを使いながら視覚的なデータを用いて議論に参画したりすることが可能となり、一人も取り残さない包摂的な理科教育を実現します。
4 今後の取組
次期学習指導要領の全面実施(小学校:2030年度、中学校:2031年度、高等学校:2032年度より年次進行)に向けて、教育委員会や各学校が今から着手すべき具体的な取組の方向性と留意点は以下の通りです。
第一に、「カリキュラム・マネジメントによる指導計画の早期見直し」です。
中学校の4分野化や、各校種への「日常生活(仮称)」「科学ガイダンス(仮称)」の新設に伴い、従来の単元配置や時間配分を根本から再設計する必要があります。
特に、新設される「8段階の探究の過程」を機能させるため、各教科等ワーキンググループで並行して議論されている「情報・技術科(仮称)」などとも連携し、データサイエンスやICT活用の方策を校内で組織的に共有することが求められます。
第二に、「観察・実験環境のアップデートと指導体制の確保」です。
理科DXの推進には、単に端末を使うだけでなく、各種センサーや協働学習用アプリケーションなどの物的環境整備が不可欠です。文部科学省の概算要求主要事項等に示される国の支援を視野に入れつつ、自治体主導での計画的な設備投資が必要です。
また、教員が新しい探究指導や評価(3観点評価のデジタル化等)に円滑に対応できるよう、校内研修の充実や理科観察・実験アシスタントなどの人的支援の拡充を三位一体で進め、「実現可能性(Feasibility)」を担保した持続可能な授業改善を展開していくことが極めて重要です。
出典:中央教育審議会教育課程部会 理科ワーキンググループ[ONLINE]https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/109/index.html(cf.20260516)