2026年度以降の次期学習指導要領の検討において、国語科は大きな転換点を迎えています。中央教育審議会や国語ワーキンググループでは、生成AIの普及や情報環境の変化を踏まえ、従来の読解力や表現力に加えて、「高次の言語能力」の育成を重視する方向性が示されています。
また、情報活用能力や探究的な学びとの関連も強まりつつあり、国語科は単なる言語学習の教科ではなく、これからの学校教育全体を支える基盤教科としての役割が期待されています。
では、次期学習指導要領で国語教育はどのように変わるのでしょうか。また、生成AI時代に求められる言語能力とはどのような力なのでしょうか。
本記事では、国語ワーキンググループ等で議論されている改訂の方向性を踏まえながら、「高次の言語能力」の意味や国語科改革のポイント、情報活用能力や探究学習との関係、生成AI時代の授業・評価の在り方について分かりやすく解説します。
この記事のポイント
1 なぜ今、国語教育改革が必要なのか
【この章のポイント】生成AIやデジタル社会の進展によって、単に情報を読む力だけでなく、情報を吟味し、自ら考えを形成して対話する力が求められている。国語教育改革は、こうした社会の変化に対応するために進められている。
生成AIの急速な普及やデジタル社会の進展に伴い、子どもたちを取り巻く言語環境は大きく変化している。従来は必要な情報を収集し理解することが重視されてきたが、現在は情報そのものが過剰に存在する時代である。インターネットやSNSには多様な情報が流通し、その中には誤情報や偏った情報、生成AIが作成した真偽不明の文章も含まれている。
このような社会では、単に文章を正確に読む力だけでは十分とは言えない。複数の情報を比較しながら信頼性を判断し、自らの考えを形成した上で他者と対話し、合意形成を図る能力が求められる。国語科改革は、こうした社会の変化に対応し、子どもたちが将来の社会を主体的に生きるための基盤を育成することを目的としている。
また、長文読解や読書習慣の減少が指摘される一方で、探究的な学びや協働的な学習活動への期待は高まっている。次期学習指導要領における国語科改革は、単なる教科内容の見直しではなく、生成AI時代の学びの在り方そのものを問い直す改革として位置付けることができる。
2 OECD・PISAが求める読解力の変化
PISA2022が示す新しい読解力
今回の国語科改革の背景には、国際的な学力観の変化がある。特にOECDが実施するPISA調査では、従来の読解力概念から大きな転換が図られている。
かつての読解力は、文章に書かれている内容を正確に理解する能力として捉えられることが多かった。しかし近年のPISAでは、複数の情報源を比較し、それらを統合しながら意味を構築する能力が重視されている。さらに、情報の信頼性や妥当性を評価し、自らの判断に活用する力も読解力の重要な要素として位置付けられている。
生成AIやSNSが普及した社会では、情報そのものを入手することは容易である。そのため、「何を知っているか」よりも、「どの情報を信頼し、どのように活用するか」が重要になる。現在の国語ワーキンググループで議論されている情報吟味力や批判的読解力の重視は、こうした国際的な学力観の変化とも軌を一にしている。
3 次期学習指導要領が示す国語教育改革の全体像
高次の言語能力とは何か
【この章のポイント】高次の言語能力とは、読む・書く・話す・聞くを統合的に活用しながら、自ら問いを立て、考えを形成し、他者と協働して課題解決を図る力である。
次期学習指導要領の国語科改革では、「高次の資質・能力」あるいは「高次の言語能力」の育成が重要なキーワードとなっている。これは単なる読解力や作文力の向上を意味するものではない。
例えば地域課題について考える学習活動では、児童生徒は資料を読み、必要な情報を整理し、他者と議論しながら自分の考えを形成し、それを文章や発表として表現する。この一連の活動の中では、「読む」「書く」「話す」「聞く」という領域が相互に関連しながら機能している。
従来の国語教育では、筆者の主張を正確に読み取ることに重点が置かれる場面が多かった。しかし今後は、筆者の主張を評価し、他の情報と比較しながら自らの立場を形成することが求められる。つまり、受動的な理解から主体的な判断へと重心が移行するのである。
また、高次の言語能力は情報活用能力や探究学習とも密接に関係している。課題設定、情報収集、整理分析、まとめ表現という探究のプロセスは、すべて言語活動によって支えられている。その意味で国語科は、情報活用能力や探究的な学びを支える基盤教科としての役割を担うことになる。
4 次期国語教育の5つの改革ポイント
【この章のポイント】次期国語教育では、情報吟味力や批判的読解力の育成、探究学習との接続、読書活動の充実などを通して、高次の言語能力の育成を目指している。
次期学習指導要領に向けた議論では、国語科の学習内容そのものを大きく転換するというよりも、現行学習指導要領で示された方向性をさらに発展させる形で改革が進められている。その中でも特に注目されるのが、「高次の言語能力」の育成を支える学習内容や学習方法の再構成である。
話す・聞く・書く・読むを統合した学習の充実
第一に挙げられるのが、話や文章の機能を重視した学習内容の整理である。これまでの国語科では、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」という領域ごとに学習内容が整理されてきた。しかし実社会では、読むだけ、書くだけといった活動はほとんど存在しない。例えば地域課題について提案を行う場合には、資料を読み、考えを整理し、文章にまとめ、他者と議論するという一連の活動が求められる。今後は、こうした実社会に近い言語活動を意識した学習がより重視されると考えられる。
情報吟味力と批判的読解力の強化
第二に、高次の資質・能力の明確化である。語彙や文法などの知識及び技能を身に付けることは引き続き重要であるが、それらを活用して思考し、判断し、表現する力の育成がより重視される方向にある。
探究的な学びとの接続
第三に、生成AI時代に対応した情報吟味力の育成である。生成AIが生み出す文章は一見すると自然で説得力がある。しかし、内容に誤りが含まれている場合も少なくない。そのため、情報の信頼性を評価し、根拠を確認する力がこれまで以上に重要になる。
読書活動・文学教育の再評価
第四に、読書活動や文学教育の再評価である。デジタル社会が進展する一方で、他者の心情や価値観を深く理解する経験の重要性が改めて認識されている。文学作品や古典に触れることによる感性や想像力の育成は、今後も国語科の重要な役割であり続けるだろう。
高校国語の見直し
第五に、高等学校国語の在り方の見直しである。論理的な思考力と文学的な感性を対立的に捉えるのではなく、両者を往還しながら学ぶ教育課程の構築が検討されている。
5 小学校・中学校・高校の国語はどう変わるのか
小学校
小学校段階では、言語能力の基礎を形成することが引き続き重要な課題となる。しかし、その内容は従来よりも広がりを見せている。
低学年では、語彙を豊かにし、読書習慣を形成するとともに、他者と対話しながら考えを共有する経験が重視される。言葉によるコミュニケーションの基礎を築くことが、後の学習の土台となるからである。
中学年では、複数の情報を比較したり整理したりする学習活動が増えると考えられる。特に一人一台端末の活用が進む中で、紙媒体だけでなくデジタル情報を扱う場面も増えていくだろう。
高学年では、探究的な学習との接続が強まることが予想される。社会科や総合的な学習の時間などで収集した情報を整理し、自分の考えとして表現する活動が重要になる。国語科は、こうした教科横断的な学びを支える役割を担うことになる。
中学校
中学校では、批判的読解力や論証力の育成がより重視されると考えられる。
現代社会では、多様な意見や価値観が存在する。そのため、一つの文章を正しく理解するだけでは十分ではない。異なる立場から書かれた複数の文章を比較し、それぞれの主張や根拠を分析した上で、自らの考えを形成する力が求められる。
また、討論や意見交換などの対話的な学習活動も重要になる。自分の考えを伝えるだけでなく、他者の意見を理解しながら議論を深める経験を積むことが、民主的な社会の形成者としての資質・能力の育成につながる。
さらに、総合的な学習の時間や各教科の探究的な学習との連携も進むと考えられる。国語科で育成した言語能力を他教科で活用する機会が増えることで、学びの実効性が高まることが期待される。
高校
高等学校では、社会的課題について深く考察し、自らの立場を形成する学習がさらに重視される。
現行学習指導要領では、「現代の国語」「論理国語」「文学国語」「国語表現」などの科目が設置されているが、その在り方については様々な議論が行われている。特に、論理と文学を分けて学ぶことの是非については継続的な検討課題となっている。
次期学習指導要領では、論理的思考力の育成と文学的な感性の育成を相互補完的に捉える方向性が強まる可能性がある。現代社会の課題について考える際にも、データや論理だけでなく、人間理解や価値観の多様性への理解が不可欠だからである。
また、高校段階では探究活動との接続が一層重要になる。課題研究や総合的な探究の時間において、情報を収集し、分析し、発表する力は、国語科で育成される言語能力と深く関係している。
6 生成AIは国語教育をどう変えるのか
【この章のポイント】生成AIの普及によって、文章を書くこと自体よりも、情報を吟味し、問いを立て、対話を通して考えを深める力の価値が高まっている。
生成AIの登場は、国語教育に大きな問いを投げかけている。
これまで学校では、文章を書く力そのものを育成することに重点が置かれてきた。しかし生成AIは、短時間で一定水準以上の文章を作成できる。そのため、「これからも作文指導は必要なのか」という問いが生じる。
しかし、実際には作文指導の重要性が失われるわけではない。むしろ、文章を評価し、改善し、より良いものへと発展させる力が重要になる。
AIが生成した文章には、誤った情報や論理の飛躍が含まれることがある。また、個人的な経験や価値判断に基づく表現は苦手である。そのため、人間には文章を批判的に読み取り、改善する能力が求められる。
さらに重要なのは、「問いを立てる力」である。生成AIは与えられた問いに答えることはできるが、何を問うべきかを判断することはできない。社会の課題を発見し、新たな問いを生み出す力こそが、今後の国語教育の中核的な目標になる可能性がある。
7 授業はどう変わるのか
探究型単元モデル
今後の国語授業では、領域横断型の単元設計がより一般的になると考えられる。
例えば「地域の防災」をテーマとした単元では、行政資料や新聞記事を読み、複数の情報を比較しながら課題を整理する。その後、自分の考えを提案書としてまとめ、発表や討論を通して内容を改善していく。
このような学習では、「読む」「書く」「話す」「聞く」が一体的に機能する。また、生成AIを活用して文章を比較したり、推敲の参考にしたりすることも可能である。
重要なのは、AIを利用すること自体ではなく、AIを活用しながら思考を深めることである。
8 評価はどう変わるのか
学習過程を重視する評価へ
【この章のポイント】成果物だけでなく、思考の過程や対話の過程を含めた学習プロセス全体を評価する視点がこれまで以上に重視される。
評価改革も次期学習指導要領の重要な論点である。
特に注目されているのが、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の在り方である。現在は三観点評価の一つとして位置付けられているが、その評価方法については多くの課題が指摘されている。
今後は、態度を独立して評価するのではなく、学習過程の中で児童生徒の学びの姿を見取る方向性が議論されている。
国語科であれば、
- 根拠を基に考えを述べているか
- 他者の意見を踏まえて考えを修正しているか
- 課題解決に向けて粘り強く取り組んでいるか
といった姿が重要になる。
完成した成果物だけでなく、学習の過程そのものを評価する視点がこれまで以上に求められるだろう。
9 学校現場への影響
こうした改革は、国語科だけで完結するものではない。
学校全体として、情報活用能力や探究的な学びをどのように育成するのかという視点が重要になる。そのためには、教科横断的なカリキュラム・マネジメントが不可欠である。
また、生成AIの活用方針や評価方法の見直しについて、校内で共通理解を形成することも求められる。管理職や研究主任には、授業改善だけでなく、学校全体の学びの在り方をデザインする役割が期待される。
10 国語教育は生成AI時代の基盤教科になる
【この章のポイント】国語科は情報活用能力や探究的な学びを支える基盤教科としての役割を担い、生成AI時代の学校教育においてその重要性をさらに高めていく。
次期学習指導要領における国語科改革は、単なる教科内容の改訂ではない。生成AI時代において必要となる資質・能力を育成するための教育改革として位置付けることができる。
今後求められるのは、情報を正確に読み取る力だけではない。情報を吟味し、多様な立場の人々と対話しながら、自らの考えを形成し、社会に参画していく力である。
生成AIが文章を生成する時代だからこそ、人間には「言葉を使って考え、他者と協働し、より良い社会を創る力」が求められる。次期学習指導要領における国語科改革は、その力を育むための中核的な改革として位置付けられているのである。
教育専門メディアとして掲載する場合は、本文末に「参考・出典」を設けておくことをおすすめします。
今回の記事内容(次期学習指導要領、国語科改革、高次の言語能力、情報活用能力、生成AI)であれば、以下のような構成が適切です。
参考・出典
・文部科学省「学習指導要領」「中央教育審議会(教育課程部会)」「国語ワーキンググループ」各種資料
・文部科学省「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」
・OECD「PISA(Programme for International Student Assessment)」
・OECD「Future of Education and Skills 2030(Learning Compass)」
・小学校・中学校・高等学校学習指導要領および同解説