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次期学習指導要領 改善のポイント

次期学習指導要領は、どのように改善されるのでしょうか。

 AI時代の本格的な到来やVUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)の進展を踏まえ、「学びの質の深化」と「社会の変化に対応する資質・能力の確実な育成」を軸に改善されます。

1. 「情報活用能力」の高度化(最重要)
 GIGAスクール構想で配備された1人1台端末を日常的に活用し、小学校段階からの生成AIの適切な利用(ファクトチェック*1 やプロンプトの工夫*2 )や、情報モラル・データサイエンス教育*3を全校種で強化します。
2. 探究的な学びの全教科展開
 総合的な学習(探究)の時間だけでなく、国語・算数/数学・理科などすべての教科において「見方・考え方」を働かせた探究的なプロセスを重視し、知識の暗記から思考・表現の重視へと転換します。
3. 「日本型学校教育」の発展とウェルビーイングの向上
 協働的な学びと個人の習熟度に応じた個別最適な学びを一体的に充実させ、生徒一人ひとりの精神的・身体的ウェルビーイング*4 の確保と確実な基礎学力の定着を両立させます。
4. カリキュラム・マネジメントの一体化と負担軽減
 各教科の指導内容の重複(例:算数・理科でのデータ処理の重複など)を整理・削減し、授業時数の適正化と教員の働き方改革を推進します。

*1 「ファクトチェック」… AIの回答を鵜呑みにせず情報の真偽を確かめること
*2 「プロンプトの工夫」… AIから精度の高い回答を引き出すための質問や指示の出し方を調整すること
*3「データサイエンス教育」… 身の回りの大量のデータやAIを正しく使いこなし、社会の課題を解決する力を育てる教育
*4「精神的・身体的ウェルビーイング」… 心も体も、そして社会的にも満たされ、将来にわたって自分らしく持続的な幸せを感じられている状態
参考文部科学省中央教育審議会 教育課程企画特別部会「論点整理について(報告)」

1 改善の概要:新時代を生き抜く資質・能力の育成

 今回の改訂は、現行指導要領の「資質・能力の3つの柱(知識・技能/思考力・判断力・表現力等/学びに向かう力・人間性等)」の枠組みを維持・継承しつつ、急激な技術革新と社会の変化に伴う「現行の課題」を徹底的に補強・アップグレードする形で進められます。

1. 情報活用能力・STEAM教育*1 の全校種における抜本的強化
 小学校・中学校では、単に端末を「使う」段階から、データを集計・分析し、社会課題の解決や表現活動に「活用する」段階へと引き上げます。特に算数や理科、技術・家庭科において統計教育(データサイエンス)の指導内容を段階的に拡充します。高等学校では「情報Ⅰ」の完全定着を図るとともに、選択科目「情報Ⅱ」や「理数探究」へのスムーズな接続と発展を重視し、プログラミングやデータモデリング*2 の高度な学びへと結びつけます。

*1「STEAM(スティーム)教育」… 文系・理系の枠組みを越えて、現実世界の複雑な課題を自ら見つけ、科学技術やアートの力を総動員して解決する力を育てる教育(Science / 科学、Technology / 技術、Engineering / 工学、Art / 芸術・教養、Mathematics / 数学)すべての教科を統合し、実社会のリアルな課題解決に生かすことを目指す
*2 「データモデリング」… 現実世界の複雑な出来事や社会の課題を、コンピュータで処理・分析しやすいように、データの構造や関係性を正しく整理・設計すること
※ データモデリングは、データサイエンス教育やSTEAM教育で、実際にデータを集めて分析したりAIを活用したりする際の、「事前の設計図作り(土台)」にあたる非常に重要な概念

2. 生成AI等の先端技術への適応と情報モラルの進化
 最新のWG会議では、児童生徒が日常的に生成AIに触れる現状を踏まえ、小学校高学年から「AIの出力には誤りが含まれること(ハルシネーション*)」を前提としたクリティカルシンキング(批判的思考力)の育成が急務とされています。情報モラル教育を単なる「禁止事項の順守」から、情報社会における安全な自己実現の手段へと転換します。

*「ハルシネーション」… (Hallucination:幻覚) 事実ではないことを、さも正しいかのように自信満々に出力するAIの致命的な弱点
※ 分かりやすくいうと、AIがもっともらしくつく嘘をうのみにせず、自分の頭で「本当に正しいか?」を疑い、見極める力を大至急育てようということ

3. 言語能力の再定義とすべての教科での「語彙・表現」指導の充実
 読解力低下の懸念(PISA調査等の分析結果に基づく)を受け、国語科を中心としつつも、全教科において「自分の言葉で論理的に説明する」「多様な立場を踏まえて議論する」活動を強化します。小学校における主語・述語の確実な理解から、中学校での論理的構成力の育成まで、系統的な言語活動を展開します。

※ 読解力 2015:6位、2018:11位、2022:2位(OECD PISA調査「2018年調査の歴史的急落」)他国がデジタルを使って「情報の真偽を見極める高度な読解」を進める中、日本は「ようやく端末の操作に追いついた段階」。単に文章を読むだけでなく、「複数のデジタル情報やAIの出力の嘘を論理的に見破り、自分の言葉で発信する高度な読解力」への引き上げを急いでいる

4. 持続可能な社会の創り手(ESD)としての資質育成
 気候変動や地域課題の解決に向け、社会科(地理歴史・公民)や総合的な学習の時間を核とした防災教育・地域連携学習を高度化します。高校の「公共」や「地理総合」に繋がる、当事者意識を持った主権者教育を小・中学校から前倒しで展開します。

5. 学びの個別最適化とカリキュラムの構造化(指導内容の精選)
 確実な学びの定着を図るため、全教科で指導内容を「コアとなる概念」に絞り込み、詰め込み型の授業を脱却します。授業時数の弾力的運用(短時間学習の活用など)を認め、児童生徒の学びの質を深める時間を創出します。

 参考:文部科学省「教育課程企画特別部会・各教科等ワーキンググループ(WG)配付資料」

2 改善のポイント:現行と次期の対比表

校種改善の視点現行 学習指導要領の内容・課題次期 学習指導要領における改善方向性
小・中・高①情報活用能力の日常化とAI適応端末の活用頻度や教員のスキルにばらつきがあり、単なる調べ学習に留まるケースが多い。全教科・日常的な端末活用を前提とし、小学校高学年から生成AIのリスク(偽情報)を見極めるファクトチェック能力を育成する。
小・中・高②データサイエンス・統計教育算数・数学や理科でグラフ作成などを扱うが、社会の実際のデータを分析し活用する視点が弱い。統計データを基に仮説を検証する学びを強化。中学校「技術・家庭科(技術分野)」の計測・制御、高校「情報Ⅰ・Ⅱ」のデータサイエンスと直結させる。
小・中・高③全教科における探究プロセスの確立「総合的な学習(探究)の時間」でのみ探究が行われ、一般教科の授業は知識の伝達・暗記が中心になりがち。各教科の「見方・考え方」を連動させ、国語、算数/数学、理科、社会などすべての教科で「問いを立てて解決する」探究サイクルを導入
小・中・高④読解力・言語能力の高度化文章の表面的な意味は理解できても、複数の資料を読み比べて記述・論証する力(PISA調査の課題)が不足。国語科を中核に、全教科で「根拠を基に自分の考えを論理的に説明・記述する」活動を系統的に配置。語彙量の拡充と言語技術の定着を徹底。
小・中⑤授業時数の適正化と内容の精選指導内容が多く、現場での授業時数の確保が逼迫。教員の長時間労働の一因にもなっている。教科間の重複内容(例:算数と理科の単位やグラフ指導など)を整理・スリム化し、コアとなる重要概念に指導を絞り込む。
小・中・高⑥個別最適な学びと協働的な学びの一体化一斉授業スタイルが根強く、習熟度の遅れがある児童へのフォローや、不登校生徒への柔軟な対応が不十分。デジタルドリル等を活用した習熟度別学習(個別最適な学び)と、多様な意見を交わすグループワーク(協働的な学び)をAIが最適サポート。
小・中・高⑦ウェルビーイングの視点の導入学力競争や心の健康への配慮、不登校児童生徒の急増に対する構造的なアプローチが学習指導要領内で未定着。カリキュラム全体を通じて、自己肯定感の醸成、他者との協調、心身の健康維持など、児童生徒のウェルビーイング向上を明記。
小・中⑧主権者教育・ESD(地域連携)社会科の知識習得に偏り、地域のリアルな課題や持続可能な開発目標(SDGs)への当事者意識が育ちにくい。小学校「社会」「総合」、中学校「社会」において、地域の防災や過疎化等の現実課題を扱うPBL(課題解決型学習)を義務化・拡大。
小・中⑨外国語(英語)教育の実践力強化小学校での英語教科化・中学校での英語による授業展開が始まったが、話す(発表・やり取り)の定着に課題。デジタル教材やオンライン英会話ツールを積極活用し、単語の暗記から「実際のコミュニケーションの場面で即興的に使う力」へ重点をシフト。
小・中・高⑩道徳・キャリア教育の接続道徳科や特別活動の目標が抽象的で、将来の生き方やキャリア形成(進路選択)へのつながりが見えにくい。アントレプレナーシップ(起業家精神)や挑戦心の育成を視野に入れ、自己の特性を理解し社会に貢献する力を育むキャリア教育へ刷新。
高校(発展)⑪「情報Ⅱ」および「理数探究」の普及「情報Ⅰ」は必履修化されたが、発展的な「情報Ⅱ」や「理数探究」を選択・開講できる学校や教員リソースが限定的。大学や研究機関、地元企業と連携したコンソーシアムを構築し、高度IT人材・科学技術人材の育成プログラムを標準化。
小・中・高⑫評価方法の多様化(パフォーマンス評価)ペーパーテスト主体の評価が多く、思考力・判断力や「主体的に学習に取り組む態度」の客観的評価が困難。ルーブリックの活用によるパフォーマンス評価やポートフォリオ評価を全校種で標準化し、結果だけでなくプロセスを多面的に評価。

参考:文部科学省「初等中等教育における教育課程の基準等の改善に関する検討動向」

3 改善のポイント:現行の課題に対する具体策

次期学習指導要領における主要な改善のポイントについて、現場の指導者が直面している現行の課題をどう乗り越えるか、その具体策を最重要順に解説します。

 1. 情報活用能力の日常化と生成AIへの適応(最優先)

  • 現行の課題:GIGAスクール構想によって1人1台端末は配備されたものの、「タイピング練習」や「インターネットでの単純な検索」など、消費的な利用に留まっている学校が少なくありません。また、急激に普及した生成AIへの対応方針が定まっていません。
  • 具体的な改善点:新指導要領では、端末を文房具のように「毎日・全教科で日常的に使うこと」を大前提とします。小学校高学年から、生成AIを用いたアイディア出しや、AIが提示した情報の真偽を確かめる「ファクトチェック(情報の信憑性の検証)」活動をカリキュラムに組み込みます。中学校の技術・家庭科(技術分野)では、プログラミング教育に留まらず、簡易的なAIモデルの仕組みやデータの規則性を学ぶ内容へとアップデートします。

2. 全教科における「探究的な学び」のプロセスの確立

  • 現行の課題:「総合的な学習(探究)の時間」で実施されている探究活動が、他の一般教科(国語・算数・理科・社会など)の授業と切り離されており、各教科の授業は知識の詰め込みやパターン学習に陥りがちです。
  • 具体的な改善点:すべての教科において、「課題の設定 ➔ 情報の収集 ➔ 整理・分析 ➔ まとめ・表現」という探究のプロセスを確立します。例えば、小学校算数科では単に計算ドリルを解くだけでなく、「学校のゴミを減らすにはどうすればよいか」という問いに対して、実際のゴミの量をグラフ化して分析し、対策を提案するような探究型・PBL(課題解決型)の授業展開を重視します。

3. 読解力(言語能力)の抜本的強化

  • 現行の課題:国際的な学習到達度調査(PISA)等において、日本の児童生徒は「テキストから情報を整理し、自分の考えを論理的に記述する」問題や、複数のデジタル資料から矛盾点を見つけ出す問題に弱みがあることが分かっています。
  • 具体的な改善点:国語科はもちろん、理科での実験レポート作成や社会科での新聞記事の比較分析など、全教科横断で「論理的言語活動」を強化します。小学校段階から、文章の構造(事実と意見の区別、因果関係)を正確に読み解く訓練を徹底し、語彙量を増やすための読書活動や要約指導を拡充します。

4. 高等学校「情報Ⅱ」「理数探究」への確実なステップアップ

  • 現行の課題:高校で「情報Ⅰ」が必履修化されたものの、データサイエンスや高度なプログラミングを扱う選択科目「情報Ⅱ」や、横断的な科学研究を行う「理数探究」の開講率が低く、小・中学校の学びが高度な専門性へと繋がっていません。
  • 具体的な改善点:中学校の段階から、データのばらつきや相関関係を意識した統計指導を強化し、高校の「情報Ⅰ・Ⅱ」へスムーズに接続します。地域企業や大学のオープンデータを活用し、実際の社会課題を解決するシステム開発やデータモデリングの基礎を、高大連携・産学連携を通じて体験できる体制を整えます。

参考:文部科学省「各教科等ワーキンググループにおける審議まとめ」

4 今後の取組:全面実施に向けた方向性と留意点

 次期学習指導要領の全面実施(小学校は令和10年度、中学校は令和11年度、高等学校は令和12年度から順次本格導入を想定)に向けて、教育委員会および各学校が今から着手すべき具体的な取組の方向性と留意点です。

参考:文部科学省「教育課程部会における次期改訂に向けた今後のスケジュール案」

 1. 「カリキュラム・マネジメント」による指導内容の精選と授業時数の管理
 各学校は、新指導要領が目指す「指導内容の精選」を先取りし、教科間での指導の重複を解消する必要があります。例えば、算数と理科、あるいは社会科と総合的な学習の時間での「データの扱い方」を一本化し、無駄な授業時数を削減します。これにより、児童生徒がじっくり思考し、探究に没頭できる時間を確保すると同時に、教員の授業準備負担を軽減し、働き方改革を同時に達成しなければなりません。

2. ICT環境の「次世代化」と教員研修の抜本的拡充
 1人1台端末の更新期(GIGAスクール構想第2段階)に合わせ、単なる端末の置き換えではなく、生成AIツールや協働学習プラットフォーム、校務のデジタル化(生成AIによる指導案や評価ルーブリックの作成支援)を一体的に導入します。教育委員会は、従来の座学中心の研修を廃止し、教員自らがデジタルを活用して探究を体験する「伴走型・実践型ワークショップ」を定期開催することが求められます。

3. 地域・社会に開かれた教育課程の構築
 学校内だけで完結する教育から脱却し、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)や地域教育コーディネーターをフルに活用します。児童生徒が地域の商店街、町役場、地元のIT企業などと連携し、リアルな地域課題の解決に挑む環境を日常的に構築していくことが、次期指導要領の理念を具現化する最大の鍵となります。

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