本章の締めくくりとして、目的に応じて式の構造を組み替える「等式の変形」について学習します。
これまでに学習した数学や理科の公式には、道のり・速さ・時間の関係を表す \(d = vt\) や、長方形の周の長さを表す \(L = 2(a+b)\) などのように、複数の数量の関係を結ぶ「等式」が多く存在します。
これらの等式は通常、特定の数量(例:道のり \(d\) や周の長さ \(L\) )を求めるのに都合の良い形で表現されています。
実際の場面では、「道のりと速さが既知であるため、かかる時間 $t$ を直接求めるための公式が必要である」というように、別の数量に着目して式を扱いたい場合があります。
このようなとき、等式の変形を学ぶことで、既に与えられている1つの等式を適切に組み替え、「目的に応じた特定の文字」を主役とした新しい公式へと自ら導き出すことができるようになります。
等式を変形する際に用いる規則は、第1学年の方程式の学習で用いた「等式の性質(両辺に同じ操作を行っても等号は維持されるという規則)」や「移項」と全く同一のものです。数字を扱っていた手続きをそのまま文字へと適用し、目的に合わせて数式を再デザインする手法を体系的に習得しましょう。
§3. 等式の変形
これまでに、文字式を計算するルールを学び、それを使って数の性質を説明することに挑戦してきました。
この章の締めくくりとして、目的に応じて式の形を自由自在に変える「等式の変形」について学びましょう。
1. 目的の文字について解く
🧐 考えてみよう
自動車でドライブに出かける計画を立てています。
「道のり」、「速さ」、「時間」の関係は、
(道のり) = (速さ) × (時間)
で表されます。

「目的地までの道のり \(d\text{ km}\)」、「平均の速さ \(v\text{ km/h}\)」、「かかる時間 \(t\text{ 時間}\)」とすると、
それらの関係は、次の等式で表せます。
$$d = vt$$
(1) 目的地までの道のり \(d\) は \(180\text{ km}\)、速さ \(v\) は \(60\text{ km/h}\) とします。かかる時間 \(t\) を求めるには、どのような式をつくって計算しますか。
(2) あらかじめ「時間 \(t\) を求める公式」をつくっておくには、上の等式 \(d = vt\) をどう変形すればよいですか。
💡 等式の変形のルール
等式 \(d = vt\) から、時間 \(t\) を求める式 \[t = \dfrac{d}{v}\text{ ……①}\]
①の式を導き出すように、等式を変形して
(特定の文字)=(残りの文字を使った式)
の形にすることを、その文字について解くといいます。
等式を変形するときは、1年生の方程式の学習で使った「等式の性質」をそのまま使うことができます。
【ふりかえり:等式の性質】
・天秤の両皿のように、等式の両辺に同じ数をたしたり、ひいたり、かけたり、わったり( \(0\) 以外の数)しても、等式は成り立つ。
・左辺と右辺を丸ごと入れ替えても、等式は成り立つ。
- \(A=B\) ならば、 \(A+C=B+C\)
-
等式の両辺に同じ数をたしても、等式が成り立つ。
- \(A=B\) ならば、 \(A-C=B-C\)
-
等式の両辺に同じ数をひていも、等式が成り立つ。
- \(A=B\) ならば、 \(A\times C=B\times C\)
-
等式の両辺に同じ数をかけても、等式が成り立つ。
- \(A=B\) ならば、 \(A\div C=B\div C\) ただし、\(C\neq0\)
-
等式の両辺に同じ数でわっても、等式が成り立つ。
💡 実際の変形の手順
等式 \(d = vt\) を \(t\) について解いてみましょう。
1. 求めたい文字 \(t\) を左辺に持ってくるために、左辺と右辺をそっくり入れ替えます。$$vt = d$$
2. \(t\) の係数である \(v\) が邪魔なので、両辺を \(v\) で割ります(分数の形にします)。\[\begin{align}\dfrac{vt}{v} &= \dfrac{d}{v}\\t &= \dfrac{d}{v}\end{align}\]
この式は、
(時間) = (道のり) ÷ (速さ)
という関係にも合っています。
これで、「時間を知りたければ、道のりを速さでわればよい」という公式( \(t\) について解いた式)が完成しました。
2. 少し複雑な等式の変形
次は、たし算やひき算、カッコを含む等式の変形に挑戦してみましょう。
ここでは、方程式の「移項(いこう)」のきまりを使います。
🧐 考えてみよう

縦の長さが \(a\)、横の長さが \(b\) の長方形があります。
この長方形の周の長さ \(L\) は、次の等式で表せます。
\[L = 2(a + b)\text{ ……①}\]\(a+b\) は、長方形の縦の長さと横の長さをたしたものです。一周の長さは、その2倍なので、\(2\times (a+b)\) と表せます。
①の等式を、縦の長さ \(a\) について解く には、どうすればよいでしょうか。
方程式を解くときの要領を思い出しながら、手順を考えてみましょう。
💡 解き方の手順
✍️ ノートへの書き方(計算の過程)
$$L = 2(a + b)\text{ ……①}$$
- 求めたい文字 \(a\) が含まれる右辺を左辺と入れ替える。$$2(a + b) = L$$
- カッコをはずすため、左辺の \(2\) を分配法則で展開する。$$2a + 2b = L$$
- \(a\) の入っていない項(\(+2b\))を右辺に移項。移項すると符号が変わることに注意。$$2a = L – 2b$$
- 最後に、\(a\) の係数 \(2\) で両辺をわる。右辺全体を \(2\) でわるため、長い分数にする。$$a = \dfrac{L – 2b}{2}$$
💡 もうひとつのスマートな方法
手順2で、展開せずに、最初に両辺を \(2\) でわって \[a + b = \dfrac{L}{2}\] \(b\) を移項して \[a = \dfrac{L}{2}\text{ } -b\] と変形することもできます。
一見違う式に見えますが、どちらも同じ意味を表しています。
💬 振り返り:等式を変形する意味
等式を変形できるようになると、1つの公式から「何を知りたいか」に合わせて、いくつもの新しい公式を自分で作り出すことができるようになります。
変形した後の式を具体の場面に当てはめてみると、数量の関係を違った見方から考えることができます。
例えば、長方形の周りの長さ \(L\) を考えるとき、\[L = 2(a + b)\]ならば、一周の長さは、半分だけ測って、後は2倍すればよい。\[L = 2a + 2b\]ならば、一周の長さは、縦を 2倍、横を 2倍してたせばよい。\[L = a + b + a +b\]ならば、一周の長さは、縦、横、縦、横を測ってたせばよい。
こうして考えると、\(L = 2(a + b)\) が優れたアイデアであることが分かります。
科学や社会のデータを分析するときにも、この「等式の変形」はとても強力な道具になります。
🛠 練習問題にチャレンジ!
次の等式を、カッコの中の文字について解きなさい。
1. \(x + y = 5 \quad [x]\)
2. \(2x – 3y = 12 \quad [y]\)
3. \(V = \dfrac{1}{3}Sh \quad [h]\) (※円すいの体積の公式)
🧭 第1章のまとめ問題(章末問題)
この章では、文字を使った計算方法、それを使った性質の証明、そして等式の変形を学びました。最後に、これらの力を使う総合問題に挑戦してみましょう。
【章末チャレンジ】
右の図のような、半径が \(r\)、中心角が \(90^\circ\) の扇形があります。
この扇形の弧の長さを \(ℓ\)、面積を \(S\) とします。
(1) 弧の長さ \(ℓ\) を、\(r\) を使った式で表しなさい。
(2) (1)でつくった等式を、半径 \(r\) について解きなさい。
(3) 扇形の面積 \(S\) は、\(S = \dfrac{1}{2}ℓr\) という式で表せることを、文字式の計算を使って証明しなさい。
第1章 文字式の計算とその活用 解答・解説
■ §1. 文字式の計算(練習問題解答)
1. 答え: \(5x + 4y\)
- とき方:同類項(文字が同じ仲間)をあつめて計算します。$$3x + 5y + 2x – y = (3x + 2x) + (5y – y)$$ここで、最後の \(-y\) は \(-1y\) のことなので、 \(5y – 1y = 4y\) になります。
- 🔍 つまずき診断:もし答えが \(5x + 5y\) や \(5x – y\) になっていたら、最後の \(-y\)(\(-1y\))の計算を忘れているか、\(y\) をそのまま消してしまっています。「文字の前の \(1\)」に気をつけましょう。
2. 答え: \(2a + 2b\)
- とき方:ひき算のカッコをはずすときは、後ろのカッコの中の符号がすべて逆になります。$$(5a – 2b) – (3a – 4b) = 5a – 2b – 3a + 4b$$仲間をあつめて計算します。$$= (5a – 3a) + (-2b + 4b) = 2a + 2b$$
- 🔍 つまずき診断:もし答えが \(2a – 6b\) になっていたら、後ろの \(-4b\) の符号を \(+\) に変え忘れています。カッコの前に「 \(-\) 」があるときは、符号の変え忘れに要注意です。
3. 答え: \(-8xy\)
- とき方:単項式のかけ算は、「数字は数字」「文字は文字」でバラバラにして掛け合わせます。$$4x \times (-2y) = 4 \times (-2) \times x \times y = -8xy$$
- 🔍 つまずき診断:「プラス \(\times\) マイナス」の計算なので、答えの符号は必ず「 \(-\) 」になります。符号のミスがないか確認しましょう。
4. 答え: \(4xy\)
- とき方:わり算は、分数に変形して「上と下で約分」します。$$8x^2y \div 2x = \dfrac{8x^2y}{2x} = \dfrac{8 \times x \times x \times y}{2 \times x}$$数字の \(\dfrac{8}{2}\) を約分して \(4\)。下の \(x\) 1個と、上の \(x\) 1個を消すと、上には \(x\) と \(y\) が1個ずつ残ります。
- 🔍 つまずき診断:もし答えに \(x^2\) が残っていたり、 \(x\) が完全に消えてしまっていたら、約分のときに文字を何個消したか、上のバラバラにした式を書いて確かめてみましょう。
■ §2. 式の計算の利用(練習問題解答)
1. 偶数と奇数の和の説明
- 記述の正解例(お手本):\(m, n\) を整数とすると、偶数は \(2m\)、奇数は \(2n+1\) と表される。
これらの和は、$$2m + (2n + 1) = 2m + 2n + 1$$\(2\) でくくれる部分(前2つの項)をカッコでまとめると、$$= 2(m + n) + 1$$\(m + n\) は整数だから、 \(2(m + n)\) は偶数であり、それに \(1\) を足した \(2(m + n) + 1\) は奇数である。
したがって、偶数と奇数の和は必ず奇数になる。 - 🔍 つまずき診断:
- チェック1:偶数と奇数を表すときに、両方とも同じ文字 \(n\) を使って \(2n\) と \(2n+1\) にしていませんか。
これだと「 \(4\) と \(5\) 」のように、連続する数しか表せなくなってしまいます。
別々の整数を表すために、 \(m\) と \(n\) の2つの文字を使いましょう。 - チェック2:最後の変形で \(2(m+n+1)\) のように、後ろの \(1\) までカッコに入れていませんか。
\(1\) は \(2\) でわれないので、カッコの外に置いておくのが正解です。
「 \(2 \times (\text{整数}) + 1\) 」の形を作ることが、「奇数です。」と言い切るための証明のゴールです。
- チェック1:偶数と奇数を表すときに、両方とも同じ文字 \(n\) を使って \(2n\) と \(2n+1\) にしていませんか。
■ §3. 等式の変形(練習問題解答)
1. 答え: \(x = 5 – y\)
- とき方:\(x =\) の形にしたいので、左辺にある邪魔な \(+y\) を、符号を変えて右辺に移項させます。$$x = 5 – y$$
2. 答え: \(y = \dfrac{2x – 12}{3}\) (または \(y = \dfrac{-12 + 2x}{3}\) )
- とき方:
- まず、 \(y\) の入っていない \(2x\) を右辺に移項します。$$-3y = 12 – 2x$$
- この形になったら、先に両辺のすべての符号をひっくり返す(両辺に \(-1\) をかける)と、その後の割り算が楽になります。$$3y = -12 + 2x$$
- \(y\) の前にある「 \(3\) 」で右辺全体を割ります。右辺全体に長い分数の線を引くのがコツです。$$y = \frac{-12 + 2x}{3}$$
- 分母のマイナス( \(-\) )を消すために、分子のすべての項の符号をひっくり返します( \(-3\) で全体を割るため)。$$y = \frac{-12 + 2x}{3}$$
の形になったら、先に**「両辺のすべての符号をひっくり返す(両辺に $-1$ を掛ける)」**と、その後の割り算が楽になります!
$$3y = -12 + 2x$$
あとは、 $3$ で右辺全体を割るだけです。
3. 答え: \(h = \dfrac{3V}{S}\)
- とき方:
- 分数( \(\dfrac{1}{3}\) )を消すため、まず両辺に \(3\) をかけます。$$3V = Sh$$
- \(h\) を左辺に置きたいので、左辺と右辺を入れ替えます。$$Sh = 3V$$
- \(h\) のとなりの \(S\) を消すため、\(S\) で両辺をわります。$$h = \dfrac{3V}{S}$$
■ 🧭 第1章のまとめ問題(章末問題解答)
(1) 答え: \(ℓ = \dfrac{1}{2}\pi r\)
- とき方:「円周の長さ= \(2\pi r\)」を使います。扇形は中心角が \(90^\circ\) なので、円全体の \(\dfrac{90}{360}\) の大きさです。$$ℓ = 2\pi r \times \dfrac{90}{360} = 2\pi r \times \dfrac{1}{4} = \dfrac{1}{2}\pi r$$
(2) 答え: \(r = \dfrac{2ℓ}{\pi}\)
- とき方:(1)の等式 \(ℓ = \dfrac{1}{2}\pi r\) を \(r\) について解きます。
- \(r\) が左辺にくるように、左辺と右辺を入れ替えます。$$\dfrac{1}{2}\pi r = ℓ$$
- 分母の \(2\) を消すため、両辺に \(2\) をかけます。$$\pi r = 2ℓ$$
- \(r\) のとなりの \(\pi\) で両辺をわります。$$r = \dfrac{2ℓ}{\pi}$$
(3) 面積 \(S = \dfrac{1}{2}ℓr\) の証明
記述の例:
半径 \(r\)、中心角 \(90^\circ\) の扇形の面積 \(S\) は、円の面積の公式 \(\pi r^2\) を使って次のように表される。
$$S = \pi r^2 \times \dfrac{90}{360} = \dfrac{1}{4}\pi r^2$$
一方、(1)より、弧の長さは \(ℓ = \dfrac{1}{2}\pi r\) である。
この式の両辺に \(\dfrac{1}{2}r\) を掛け算すると、
$$\frac{1}{2}ℓr = \frac{1}{2}\pi r \times \frac{1}{2}r = \frac{1}{4}\pi r^2$$
したがって、どちらの式も同じ \(\dfrac{1}{4}\pi r^2\) になるため、次の関係が成り立つ。
$$S = \frac{1}{2}ℓr$$
💡 別解(等式の代入を使う方法):
扇形の面積は \(S = \dfrac{1}{4}\pi r^2\) と表される。
この式は、次のように分解できる。
$$S = \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2}\pi r \right) \times r$$
ここで、(1)より \(\dfrac{1}{2}\pi r = ℓ\) なので、上のカッコの中に \(ℓ\) を代入すると、
$$S = \frac{1}{2} \times ℓ \times r = \dfrac{1}{2}ℓr$$
したがって、 \(S = \dfrac{1}{2}ℓr\) が成り立つ。