§1において、多項式の加減乗除に関する計算規則を体系的に学びました。このセクションでは、習得した文字式の計算力を応用し、数や図形に隠された性質や法則を論理的に説明する手法について学習します。
具体的な例を挙げると、「連続する3つの整数の和は、常に真ん中の整数の3倍(=3の倍数)になる」という性質があります。 \(3+4+5=12\) や \(10+11+12=33\) のように、いくつかの具体的な数値で試すとこの性質は成り立ちそうに見えますが、これだけでは「すべての整数において例外なく成り立つ」ということの証明にはなりません。無数に存在するすべての数を個別に計算することは不可能だからです。
ここで有効な手段となるのが、文字式の活用です。
数量を文字で抽象化して表現することにより、個々の具体的な数値ではなく、「すべての数」を代表した一般的な式として扱うことが可能になります。そして、その式を計算規則に基づいて変形していくことで、特定の性質がいつでも必ず成り立つ理由を、客観的に明示することができます。
本章の導入で提示した「カレンダーに隠された数字の規則」の解明も、このセクションの学習内容と深く結びついています。単なる計算の手続きを超えて、物事の理由を論理的に説明し、他者に伝えるための道具としての文字式の有用性を学んでいきましょう。
§2. 式の計算の利用
§1で、文字式をまとめたり掛けたり割ったりする「計算の道具」を手に入れました。
ここからは、その道具を使って、数や図形に隠された不思議な性質を、だれもが納得できるように「説明(証明)」する活動に挑戦してみましょう。
1. 連続する3つの整数の和
まずは、いつでも成り立つ「数の不思議」を文字で説明してみます。
🧐 考えてみよう
\(3, 4, 5\) や、\(11, 12, 13\) のように、順番に並んだ3つの整数を「連続する3つの整数」といいます。
(1) 連続する3つの整数を自分でいくつか選び、その3つの数をたし算してみましょう。
(2) 計算して出た答え(和)には、共通するどんな特徴があるでしょうか。
(3) その特徴が「いつでも、どんな3つの整数でも絶対に成り立つ」と説明するには、どうすればよいでしょうか。
💡 考え方と説明のすすめ方
いくつかの例を計算してみると、
\[\begin{align}3 + 4 + 5 &=(4-1) + 4 + (4+1)\\
\\
&= 12\text{ ( }4 \times 3\text{ )}\\
\\
11 + 12 + 13 &=(11+1) + 12 + (13-1)\\
\\
&= 36\text{ ( }12 \times 3\text{ )}\end{align}\]
となります。
答えはどれも「真ん中の整数の3倍(=3の倍数)」になりそうです。
これがいつでも成り立つことを、文字を使って次のように説明します。
【説明の進め方(パターン)】
1. 表したい数量を、文字を使って設定する
2. 問題の通りに式を組み立てて、計算(整理)する
3. 計算した式を、説明したい形に変形して結論を導く
✍️ ノートへの書き方(解答例)
文字を1つ決めることで、連続する3つの整数はすべてその文字で表すことができます。
一番小さい整数を \(n\) とすると、連続する3つの整数は、
\[n,\quad n+1,\quad n+2\]
と表される。ただし、 \(n\) は整数とする。
これらの和は、
\[\begin{align}(n) + (n+1) + (n+2) &= n + n + 1 + n + 2\\
\\
&= 3n + 3\end{align}\]
ここで、分配法則を使って \(3\) でくくると、
$$3n + 3= 3(n+1)$$
\(n+1\) は真ん中の整数(整数に1を足したものなので整数)だから、 \(3(n+1)\) は3の倍数である。
したがって、連続する3つの整数の和は、いつでも3の倍数(真ん中の整数の3倍)になる。
2. カレンダーの秘密を解き明かそう!
さあ、いよいよ章の扉で出会った「カレンダーの \(3×3\) の正方形の合計」の謎に迫ります。
🧐 考えてみよう

章の扉では、カレンダーの縦 3マス、横 3マスの合計 9つの数字を足すと、「いつでも真ん中の数字の 9倍になる」という予想を立てました。
・9つの数字のうち、「真ん中の数字」を \(n\) と置いたとき、そのまわりの 8つの数字は、 \(n\) を使ってどのように表すことができるでしょうか。
・カレンダーの「横の並び」と「縦の並び」に、どんな数字のきまりがあるか注目してみましょう。
💡 文字式での証明
カレンダーは 7日ごとに次の行(下の段)へ移るため、
横に1マス進むと:数字は \(1\) 増える(戻ると \(1\) 減る)
縦に1マス下がると:数字は \(7\) 増える(上がると \(7\) 減る)というきまりがあります。
このきまりを使うと、真ん中の数を \(n\) としたとき、9つの数字は次のように \(n\) だけで表すことができます。
【 \(3×3\) の数字の配置】
| \[n-8\] | \[n-7\] | \[n-6\] |
| \[n-1\] | \[n\] | \[n+1\] |
| \[n+6\] | \[n+7\] | \[n+8\] |
✍️ カレンダーの秘密の証明
カレンダーの3×3の正方形において、真ん中の整数を \(n\) とすると、囲まれた9つの整数は、それぞれ次のように表される。
上の段: \((n-8),\ (n-7),\ (n-6)\)
中の段: \((n-1),\ n,\ (n+1)\)
下の段: \((n+6),\ (n+7),\ (n+8)\)
これらの9つの整数の合計は、
$$\text{合計} = (n-8) + (n-7) + (n-6) + (n-1) + n + (n+1) + (n+6) + (n+7) + (n+8)$$
カッコをはずして同類項( \(n\) の項と、数字の項)をまとめます。
$$\text{合計} = (n+n+n+n+n+n+n+n+n) + (-8-7-6-1+0+1+6+7+8)$$
数字の部分をよく見ると、 \(-8\) と \(+8\) 、 \(-7\) と \(+7\) のように、打ち消し合って \(0\) になる組み合わせが見つかります。
\[\begin{align}\text{合計} &= 9n + 0\\
\\
&= 9n\end{align}\]
\(n\) は真ん中の整数だから、 \(9n\) は真ん中の整数の 9倍である。
したがって、カレンダーで縦 3マス、横 3マスの正方形で囲んだ 9つの数字の合計は、いつでも真ん中の数字の 9倍になる。
💬 振り返り:文字式ってすごい!
ただ数字を眺めているだけでは、「本当にいつでも成り立つのかな。」と不安になります。
しかし、文字 \(n\) を使って式を組み立てて計算すると、「数字の部分が綺麗に相殺されて、きれいに \(9n\) だけが残る」という事実がはっきりと目に見える形になりました。
文字式は、計算するためだけのものではなく、数の世界に隠されたルールをみんなに伝えるための「共通の言語」なのです。
🛠 練習問題にチャレンジ!
偶数と奇数の和:
「偶数と奇数を足すと、答えは必ず奇数になる」ことを、2つの整数 \(m, n\) を使って説明しなさい。
(ヒント:偶数は \(2m\)、奇数は \(2n+1\) と表せます)
カレンダーの別の秘密:
カレンダーの中で、今度は「十字の形(真ん中とその上下左右の合計 5マス)」を囲みます。この5つの数字の合計には、どんなきまりがあるでしょうか。また、それを文字を使って説明しなさい。
解答は、下記のリンクの末尾にあります。