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飛行機の過剰予約はなぜ成立する?身近な謎から学ぶ「二項分布」の仕組み

【本稿の概要】
 結果が2択の試行を繰り返す「二項分布」について、中高生向けに平易に解説。
 確率の公式のパーツ分けに加え、平均( \(np\) )と分散( \(np(1-p)\) )の直感的な意味を身近な例で紐解き、最終的に正規分布(富士山型)へつながる性質を説明しています。

飛行機の過剰予約はなぜ成立する?身近な謎から学ぶ「二項分布」の仕組み

「定員100人の飛行機なのに、なぜ105人分のチケットを売っても大丈夫なの?」
「それって、全員来ちゃったら大トラブルになるんじゃ…?」

実は、航空会社が毎日のように行っているこの「オーバーブッキング(過剰予約)」。その裏側では、高校の数学で習う「二項分布(にこうぶんぷ)」という統計学の数式が、驚くほど正確にトラブルを予測しています。

この記事では、飛行機の席が足りなくなる確率のシミュレーションを通して、難しい数式の意味を中学生・高校生にもパッとイメージできるように超平易に解説します!

1. 本当に席は足りる?数字でみるオーバーブッキングの魔法

まずは、簡単な数字を使って「飛行機の予約」をシミュレーションしてみましょう。

📊 シミュレーションの設定

  • 飛行機の座席数10席(わかりやすく小さな飛行機にします)
  • チケットの販売数11枚(座席より1枚多く売りました!)
  • お客さんが当日やってくる確率90%
  • キャンセルする確率10%

座席は10席しかないので、「11人全員が当日空港に来てしまったとき」だけ、席が足りなくなってアウト(トラブル)になります。

確率の計算を使って、この「アウトになる確率」を計算すると……結果は 約31.4% になります。

💡 11人の小さな飛行機の場合
チケットを1枚多く売ると、「3回に1回はトラブルになる」ということです。これでは危険すぎて、航空会社は絶対にチケットを多く売ることはできません。

🚀 もし「大きな飛行機」にしたらどうなる?

では、条件(来る確率90%)はまったく同じままで、飛行機のサイズを大きくしてみます。

  • 飛行機の座席数100席
  • チケットの販売数105枚(今度は5枚も多く売りました!)

先ほどと同じように「101人以上が来てしまって、席が足りなくなる確率」を計算すると……なんと 約1.5% まで一気に跳ね下がります!さらに200席の飛行機で同じ割合にすると、トラブル確率は0.1%以下になります。

🧠 なぜ人数が増えると安全になるの?

11人しかいないと「たまたま全員来ちゃう」という偶然がよく起きます。しかし、105人もいると、「たまたま全員が遅刻せず来る」ということは滅多に起きず、確率の法則通りにきれいに何人かがキャンセルしてくれるからです。

この「2択のゲームを何回も繰り返したときの確率の動き」を説明してくれるのが、今回の本題である「二項分布」です。

2. 二項分布を日本語に訳すと?

二項分布の「二項(にこう)」とは、「結果が2つに1つしかない」という意味です。

  • 飛行機に「来る」か「来ない」か
  • コインの「表」か「裏」か
  • ガチャの「当たり」か「ハズレ」か

このように、結果が2択しかないゲームを何回も繰り返したときに、「当たり(来る人)が何回出るかの確率のグラデーション(パターンのこと)」を二項分布と言います。

例えば、「当たる確率50%のクジを3回引く」というゲームの確率をグラフ(分布図)にすると、次のようなきれいな山の形になります。

【クジを3回引いたときの、当たり回数のグラフ】

当たり0回 1/8 (12.5%)  当たり1回3/8 (37.5%)  当たり2回3/8 (37.5%)  当たり3回 1/8 (12.5%)

このように、「何回当たる確率が、それぞれ何%あるか」をすべて並べた全体の景色のことを、統計学では「分布」と呼びます。

3. 公式のパーツを分解しよう(確率の求め方)

高校の数学で習う、二項分布の確率を求める公式はこれです。

$$P(X = k) = {}_n\mathrm{C}_k \cdot p^k \cdot (1-p)^{n-k}$$

文字だらけで難しそうですが、これも3つのパーツが掛け算されているだけです。

📝 補足コラム:本当に席は足りる?公式に数字をあてはめてみよう!

さきほどの「11人にチケットを売って、11人全員が来る確率」を例に、上の公式のパーツを分解してみましょう。

  • \(n\)(全体の回数) = チケットを買った総人数:11
  • \(k\)(指定の回数) = 当日空港にやってくる人数:11
  • \(p\)(起こる確率) = お客さんが来る確率:0.9

これらを公式に当てはめると、次の3つのパーツが浮かび上がります。

① \({}_{11}\mathrm{C}_{11}\)(並べ替えパターンの数)

11人中、11人全員が来るパターンは【全員来る】の 1通り しかありません(\({}_{11}\mathrm{C}_{11} = 1\))。

② \(0.9^{11}\)(来る確率の掛け算)

来る確率(0.9)を11人分、お互いに影響しないものとして掛け算します(\(0.9 \times 0.9 \times \dots \approx 0.3138\))。

③ \(0.1^{0}\)(来ない確率の掛け算)

来ない人(ハズレ)の確率(0.1)を、残りの人数分(0人分)掛け算します。0乗なのでここは 1 になります。

この3つをすべて掛け算すると、先ほどのシミュレーションで登場した数字が導き出されます。

$$1 \times 0.3138 \times 1 = \mathbf{0.3138} \implies \text{約 31.4\%}$$

公式がやっていることは、「1つのルートが起こる確率(②×③)」に「そのルートが全部で何パターンあるか(①)」をかけているだけだと分かりますね。

4. なぜ人数が増えると予測しやすくなるの?(平均と分散)

さて、ここからが一番面白いポイントです。
公式の意味がわかったところで、「なぜ飛行機が大きくなると、チケットを多く売ってもトラブル確率がグッと下がるのか」を、二項分布の「平均」と「分散」の公式を使って解き明かしましょう。

📊 ① 平均の公式:\(E(X) = np\)(回数 × 確率)

二項分布の平均(期待値)は、回数に確率をかけるだけで出ます。

$$\text{平均} = n \times p$$

この数式に、さきほどの2つの飛行機の例を当てはめてみます。

  • 小さな飛行機(11人予約)の場合
    $$11 \times 0.9 = \mathbf{9.9}\text{人}$$
    平均して「9.9人」が来ます。座席は10席なので、平均値の時点でギリギリです。
  • 大きな飛行機(105人予約)の場合
    $$105 \times 0.9 = \mathbf{94.5}\text{人}$$
    平均して「94.5人」が来ます。座席は100席あるので、平均的には5.5席も空席が余る計算になります。

📉 ② 分散の公式:\(V(X) = np(1-p)\)(ブレ具合)

しかし、これだけでは「たまたま101人以上来ちゃうかも!」という心配が消えません。そこで登場するのが、データの「ブレやすさ」を表す分散の公式です。

$$\text{分散} = n \times p \times (1-p)$$

数式に、わざわざ来ない確率 $(1-p)$ を掛け算するのは、「結果がどれくらい予想(平均)からズレやすいか」の危険度を計算するためです。

もし、来る確率が50%(真っ二つ)なら、ブレ(分散)は最大になり、予測が難しくなります。しかし、今回のように「90%の確率で来る」と分かっている場合、ブレの数値は小さくなります。

✈️ 飛行機の例でみる「ブレ」の正体

ここで、分散にルートをつけた「標準偏差(実際の人数としてのブレ幅)」を使って、2つの飛行機の「ブレ」の正体を比べてみましょう。

  • 小さな飛行機(11人予約)のブレ幅
    $$\sqrt{11 \times 0.9 \times 0.1} = \sqrt{0.99} \approx \mathbf{1.0}\text{人}$$
    平均9.9人から、前後「1人分」は日常茶飯事でブレるということです。つまり、簡単に10.9人(11人全員)になってしまい、座席の10席をオーバーします。
  • 大きな飛行機(105人予約)のブレ幅
    $$\sqrt{105 \times 0.9 \times 0.1} = \sqrt{9.45} \approx \mathbf{3.1}\text{人}$$
    平均94.5人から、前後「3.1人分」くらいが普通のブレ幅になります。

ここで注目してほしいのは、「予約数は約10倍になったのに、ブレる人数は3倍(1人から3.1人)にしか増えていない」という事実です!

大きな飛行機では、普通にブレたとしても「94.5人 + 3.1人 = 97.6人」です。座席は100席あるので、これでもまだ空席があります。

「101人以上が来て座れなくなる」という大ブレが起きるためには、平均から普通(3.1人)の2倍以上も大きく外れる奇跡が起きなければなりません。人数($n$)が大きくなればなるほど、「みんな平均の周りにギュッと集まり、そこから大きく外れて大ブレする確率は極端に低くなる」という特性があります。だからこそ、大きな飛行機ほど安全にオーバーブッキングができるのです。

5. 実生活で大活躍!他にもある二項分布の使い道

飛行機以外にも、二項分布の「平均」や「ブレ(分散)」の考え方は、私たちの社会を支える裏側で大活躍しています。

📱 ① スマホ通信がサクサク繋がる仕組み(回線設計)

みんなが同時にスマホで動画を見たら、電波の基地局がパンクしてしまいます。
そこで、周辺にいるスマホの数(\(n\))と、ある瞬間に通信を行う確率(\(p\))から二項分布を計算し、「めったなことでは同時に通信するスマホが基地局の限界を超えない」ような、コスパの良い設備量を決めています。

🏭 ② 工場の製品の「抜き取り検査」

工場で毎日1万個作られる製品をすべて検査するのは不可能です。そこで、毎日100個だけをランダムに選んで検査します。
二項分布の計算を使うことで、「100個中、不良品が2個以上見つかったら、全体の不良品率が基準(例:1%)を超えている可能性が高いから、今日のラインをストップしよう」という、科学的な判断基準を作ることができます。

6. まとめ:回数を増やすと、あの「富士山」が現れる!

二項分布の挑戦回数($n$)を、100回、1000回とどんどん増やしていくと、カクカクしていた棒グラフのトゲが細かくなり、最終的にはきれいな左右対称の「富士山の形(正規分布)」に変身します。

【回数を1000回に増やしたときの、二項分布のグラフ】

回数を1000回に増やしたときの、二項分布のグラフ

📄 二項分布のホンネ
「2択のゲーム(\(p\) と \(1-p\))を何回も繰り返したときの確率のグラデーション。平均して \(np\) 回くらいに落ち着くけど、そのまわりには \(np(1-p)\) の分だけブレが生まれるよ。縮尺を変えて見ると、回数をたくさん増やすほど、平均の周りにギュッと凝縮されて、きれいな『富士山(正規分布)』の形に進化するんだ!」

ニュースの世論調査で「1000人に聞きました(標本誤差±3.1%)」という計算ができるのも、元を正せばこの二項分布が「富士山の形」に進化してくれるおかげです。

一見難しそうな数式も、私たちの生活を便利にするために作られた、とても愛着の湧く道具なのです!

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