「あっ。数字の中に、\(x\) や \(a\) などアルファベットが出てきた」と戸惑っていませんか。
中学1年生の春、数学の教科書を開いたお子さんが、このように思ってはいないでしょうか。
算数科から数学科に変わると、数式のなかに文字が混ざることがほとんどです。このことで子どもが拒絶反応を起こし、数学がいやになってしまうことはしばしばあることです。
「これはきまりだから、とにかく覚えなさい。」と言ってしまいそうです。
子どもは、理由が分からないまま暗記すると、この先に待っている方程式や関数の学習では、間違いが続いたり理解が不十分なまま学習が進行したりします。
この記事では、子どもが文字への抵抗感の理由を考え、「そういうことか」と納得する3つの教え方を解説します。テストでの減点を避けるためのきまり攻略法や練習問題も用意しました。
三行まとめ
- つまずきの原因:答えが「\(3x+2\)」のような式の形になる未完成感と、数学に英文字が混ざる違和感が抵抗感を生む。
- 解決のアプローチ:文字を「数字が入る空の箱」とし、「リンゴ(文字)と現金(数字)は、たせない」等の具体例で納得できるようにする。
- ルールの攻略法:数学者の合理的な思考の背景を交えて記号省略の理由を説明し、「1」やアルファベット順のきまりを身に付けられるようにする。
1. 文字を用いた式でつまずく理由
子どもが「文字と式」の単元の内容を見てとまどうのには、2つの原因が考えられます。
原因1:計算が終わってない未完成に見える
小学校算数科では、\(5 + 3 = 8\) のように、計算すれば必ず1つの数が答えになりました。
しかし数学科では、\(3x + 2\) という式そのものが「答え」になる場合があります。
「これ以上計算できない、これが答えです。」と言われても、子どもからすれば「計算途中の未完成の式」に見え、これを終わりとできるのか納得できないままでいることがあります。
このことについては、算数科では式の見方として次のような学習を既にしています。
200円のジュースと100円のパンを買って、500円出しました。おつりを求める計算を式にかきましょう。
通常は、\(500-200-100=200\) または、\(200+100=300,500-300=200\) として計算します。
これを( )を使って、1つの式に表します。そこでまず、数量の関係をつかむために言葉の式に表します。
(出したお金)-(代金)=(おつり)
\[500-(200+100)=200\]
このように、式 \((200+100)\) を一つの数量としてみる見方を学習しています。未完の式に見えるのは、式の見方が十分身についていないことが原因の一つと考えられます。
中学校数学の文字を用いた式についても考え方は共通します。
式の見方を身に付けるためには、数量の関係を言葉の式に表すことが有力な手立てとなります。
原因2:文字により数学の抽象度が極めて高く見えてしまう
「数学なのに、なぜアルファベットの \(x\) や \(y\) を使うのか。」という素朴な疑問です。子どものもつ教科へのイメージのずれが起こり、学習内容の理解を阻害してしまいます。
数学は、記号を使うことで抽象度を上げて、一般化を図ろうとします。
高等数学になるほど、記号が増え、論理構造をそれらで説明するようになります。アルファベット、ローマ数字、ギリシャ文字、それらの文字を変形した記号。直接数を扱うことは少なくなります。
したがって、数学が高度化すればするほど、文字や記号を扱わざるを得ません。小学校でも文字を使った式を学習する経験をしています。中学校のこの時期に、文字を用いた式になれていくことは、今後の数学の学習を進める上で、大変重要です。
2. 文字を用いた式についての基本的な考え方
数量の関係を文字を用いた式で表す学習をするとき、まずは、言葉を使った式を作って、数量の関係をつかみます。
例えば、200円のノート何冊かと100円のボールペンを何本か買うときの代金を求める式、を考えます。
まずは、数量の関係をつかむために、言葉の式に表します。
(買った代金)= 200×(ノートの冊数)+100×(ボールペンの本数)
ノートの冊数とボールペンの本数は、いろいろな数が考えられます。
そこで、(ノートの冊数)を \(a\)、(ボールペンの本数)を\(b\) にかえて表します。
(買った代金)= \(200\times a+100\times b\)
文字を用いた式における文字の役割は、数量の関係を一般的に表すことができるようにすることです。
このように、数量の関係を言葉を使った式に表し、それを文字に置き換えることで、文字を用いた式を学習します。
逆に戻って考えると、文字を用いた式は、言葉の式に変えることができ、それを絵や図に表したり、具体物で表したりすることができるということです。子どもが理解しやすいものにかえて、問題を提示したり考えたりすることができるのです。
3. 文字への苦手意識を消す
抽象的な文字を、子どもの身の回りにある「目に見える具体物」に置き換えて説明してみましょう。
文字を用いた式の意味を受け入れやすくなります。
小学校算数科では、数や式、計算の理解を図るために、具体物をしばしば利用します。
また、算数科では特にそうですが、中学校数学科の教科書においても新規に学ぶ内容などの説明には、絵や図が活用されています。
その理由は、子どもの理解を助けたり深めたりするためです。
具体物や絵や図は、抽象的な数学の内容の理解を促す重要な道具といえます。
アプローチA:文字は、数が入る空箱
文字を用いた式において、文字の役割は、数量の関係を一般的に表すことができるようにすることです。
このアプローチAは、文字は数を一般的に表していることをイメージする手立てとなるものです。\(3x\) と \(2\) が異なる種類のものであることをつかむことができます。
「\(x\) や \(a\) は、『何でも好きな数を1つ入れられる、透明な空の箱』だよ。」とたとえて説明してみましょう。
たとえば、\(3x + 2\) という式です。これは、
「箱の中身がまだ分からないから、これ以上たすことはできない。だから、\(3x + 2\) の形のままが、この問題の立派な答えなんだ。」と説明すると、計算を終えてよい理由がとらえられます。
箱には、いろいろな数を入れることができます。
多くの似たような式を作らずとも、数量の関係を \(3x+2\) という一つの文字を用いた式で、一般的に表すことができます。

\(3x,5x\) は\(x\) の3つ分、5つ分を、\(2\) は \(1\) の2つ分を表します。\(3x,5x\) と \(2\) とは、単位が異なります。単位が同じものについて、加法が成り立ちます。「箱3つとコイン2つ」が最終的な表現です。
アプローチB:同類項の区別「リンゴ」と「1円玉」は、たし算できない
文字式の計算で最も多い間違いが、\(3x + 2 = 5x\) とする誤答です。
これを防ぐために、\(x\) を「リンゴ」、数字を「1円玉」に例えて質問してみましょう。
「リンゴが3個(\(3x\))と、1円玉が2枚(\(2\))あります。合わせたら、リンゴ5個(\(5x\))になるかな。
また、1円玉5枚(\(5\))になるかな。」
こうたずねれば、子どもは「なるわけない。」と答えるはずです。
「そう。リンゴはリンゴ同士、お金はお金同士でないとたせない。だから、\(3x + 2\) も同じで、これ以上たし算しないんだ。」と伝えることで、文字のついた項と数字だけの項を混ぜない感覚が身につきます。

*************************** 以下、より正確な説明 (読み飛ばし可)******************************
上記の説明では、「単位が違うので足せない」ことが、イメージとしてつかめれば良いです。
上記の説明は、リンゴ3個と1円玉2まいを和 \(3x+2\) で表す必然性が乏しいです。より正確に説明すると、以下のようになります。
(「\(x\) を『リンゴ1個の代金』、数字を『1円玉』とする。」:省略可)
「リンゴ3個分の代金(\(3x\))と、1円玉2枚の値段(\(2\))とを合わせたら、リンゴ5個分の代金(\(5x\))になるかな。
また、1円玉5枚、5円(\(5\))になるかな。」
「これ以上計算できないので、リンゴ3個分の代金(\(3x\))と1円玉2枚の値段(\(2\))のままです。」→ \(3x + 2\)
アプローチC:何度も式をかかずにすむ、文字を用いた式
そもそも、なぜ文字を用いるのか、そのよさを考えます。
「1個100円の消しゴムを買います。1個買うときの代金の式は \(100 \times 1\) だね。では2個ならどうか。 \(100 \times 2\)。5個なら \(100 \times 5\)。100個なら \(100 \times 100\)。……似た式を、何回もかくのは、めんどうだね。」
ここで子どもが面倒さに共感したら良い機会です。
「そうだね。だから昔の天才数学者たちもめんどうと思った。そこで、何個買うときでも1回で表せるように、個数のところに文字 \(x\) を使って、\(100 \times x\) という簡単な1行の式をつくった。文字は、計算や関係を表すことを楽にするために生まれた発明なんだ。」と説明してみましょう。
4. なぜ \(\times\) や \(\div\) を省くのか、数学者が合理的に考える理由
文字式では、\(3 \times x\) を \(3x\) とかいたり、\(x \div 4\) を \(\dfrac{x}{4}\) とかいたりするきまりが登場します。
「どうして\(\times\) や \(\div\) の記号を消すのか」と疑問をもつ子どもには、「数学者は、簡単でわかりやすく、いつでも使えるようにと常に考えている。だから、そのようなきまりにしたのだ」と説明してみましょう。
数学という学問は、「いかに短く、シンプルに数式を表すか」を極める世界です。「複雑で長い数式をいつも扱っていると、少しでも分かりやすく一般的に表現したいと考える。そこで、頻繁に登場するかける(\(\times\))などの記号。かくのも面倒だし、アルファベットの \(x\) と形が似ていて紛らわしい。もう省いてしまおう」となりました。
また、除法の記号(\(\div\))を分数(\(\dfrac{\bullet}{\bullet}\))にするルールも同様です。
よく見ると、「\(\div\)」の記号そのものが、上に点、真ん中に棒、下に点という「分数の形」をしています。「記号そのものが、分数の形をしている」と教えてあげると、抵抗なくきまりを受け入れられます。
5. 文字を用いた式を記述するときの注意点
実戦的なノートのかき方として、文字を用いた式を記述するときの注意点を確かめましょう。
注意点1:「\(1x\)」とかかない
1はどんな数にかけてもその数自身と変わらない。このことから、\(1 \times x\) は、\(1x\) ではなく \(x\) とかくきまりがあります。
マイナスの場合も \(-1x\) ではなく \(-x\) とかきます。
ただし、\(0.1x\) の「1」はかきます。0.1倍すると数の大きさが変わるので、当然ではあります。
文字式の表し方
・係数 \(1\) は省いてかく \[1x=x\text{ },\text{ }-1x=-x\text{ },\text{ }0.1x\rightarrow 0.1x\]
・乗法の演算記号 \(×\) は、省いてかく \[a\times b=ab\]
・文字と数の積では、数を文字の前にかく\[5\times x=5x\]
・同じ文字の積は、指数を使ってかく\[a\times a\times a=a^3\]
・除法の演算記号 \(\div\) を使わず、分数の形でかく\[a\div b=\dfrac{a}{b}\]
注意点2:アルファベット順の徹底
・文字はアルファベット順に並べる\[b \times c\times a = abc\]
慣れるまでは、a, b, c, d…とアルファベットの順序に気をつけてかくようにしましょう。文字と式が複雑になってくると、つい順序を気にしなくなります。並び替えるクセをつけましょう。
6. 【練習問題】文字式に挑戦
学んだルールをいかして、次の3つの練習問題に挑戦してみましょう。ノートに答えをかいてみてください。
この記事の最後に、アプリで動く文字式の問題があります。ぜひやってみてください。
【第1問】
次の式を、文字式のルールにしたがって表しなさい。
$$x \times (-5) \times y = \text{?}$$
【第2問】
次の式を、文字式のルールにしたがって表しなさい。
$$a \div 3 = \text{?}$$
【第3問】
次の式を計算しなさい(これ以上計算できない場合は、そのままの式をかきなさい)。
$$4x + 3 – 2x = \text{?}$$
答え合わせと解説
【第1問の答え】 \(-5xy\)
- 解説:
数字が一番前(\(-5\))、そのあとに文字をアルファベット順(\(x\) のあとに \(y\))に並べます。かけ算記号(\(\times\))を省略できていれば正解です。
【第2問の答え】 \(\dfrac{a}{3}\)
- 解説:
除法の演算記号 \(\div\) を消して、分数の形にします。わられる数 \(a\) が分子(上)に、わる数 \(3\) が分母(下)にきます。
【第3問の答え】 \(2x + 3\)
- 解説:
「リンゴ」である \(x\) の仲間同士だけ同類項を計算します。\(4x – 2x = 2x\) ですね。
バラの数字である「\(3\)」は、1円玉のような別物なので、これ以上たしません。\(5x\) や \(5\) にした人は、リンゴとお金を混ぜていないかもう一度確認してみましょう。
文字と式チャレンジクイズ!✏️
3問解いて、文字式のルールをマスターしよう!
7. 文字に慣れさせる日常の声かけ
おすすめの声かけ:「今日から、大人の数学の入り口に立ったね。この \(x\) 等の文字を使いこなせるようになると、世界中の様々な複雑な数量の関係を簡単な式で表せるようになるんだ。数学の専門家もこのような文字を使って数学理論を展開するんだ」
文字の導入を「レベルアップ」としてポジティブに捉えられるようにすることで、子どもの探究心を刺激することができます。
8. まとめ
数字は、一つの数を表す記号です。数字が発明されて、計算が格段に楽になりました。数字に加え、文字が導入されるようになると、無数の数の代表を文字に置き換えたり、まだ分からない数を仮に置いて考えたりすることができるようになりました。これは、画期的な考え方です。慣れるまでは、便利さを実感できないかもしれませんが、使いこなしてくると、文字と式なくしては、今日の科学の発展がなかったことに気付くようになります。
さて、文字と式のつまずきは、目に見える「具体的な算数」から、頭の中で考える「抽象的な数学」へと発展するための通過点です。
「文字=数字が入る空っぽの箱」「異質なものは足せない」という2つのイメージさえしっかりもてれば、この先に待っている方程式の文章題や、グラフが登場する関数も、恐れることはありません。